第45話 祝春会 3日目ーミーシャを探せー
オレは牢屋を抜け出し急いで地下から地上へ向かう階段を駆け上がった。
そこはどうやら役所の1階のようで、牢屋は役所の地下にあったようだ。
役所なら何度も来たことがある。
人の出入りが少ない裏口があったはずだからそっちに行こう。
そろりそろり。
「あらスヴェン。これからどんな”ご迷惑”をおかけするつもりなのかしら。」
ばれた!階段にも見張りがいるなんて。
まるで犯罪者じゃないか!
「うわわ!えと、ごめんなさい!後で必ず戻ってきます!」
「質問に答えなさいよ。」
なんだか聞いたことのある声だ。
声の方を見るとそこには壁にもたれて座っているアロナがいた。
「アロナこんなところで何をしてるの?・・・あ!それとさっき上から悲鳴が聞こえてさ。今何が起こってるか教えてよ!」
するとアロナはすっと手を伸ばしてオレの腕を掴んだ。
・・・そして思いっきり腕をつねった。
「痛いよ!なにすんだよ!」
「私の質問に答えなさいよ。」
アロナをよく見るとかなり疲れているようだ。
顔色が悪いし、立っていられないのかもしれない。
「・・・オレ、もう一回ミーシャに会いに行くよ。それでちゃんと話がしたいんだ。」
「あらそう。じゃあミーシャに伝言よろしく。『悔しかったらまた来なさい。』ってね。」
「なんだよそれ。・・・いいよ伝えとく。」
「・・・じゃあ今度はスヴェンの質問に答えてあげる。今町は魔物の群れに襲われているわ。」
「魔物の群れ?」
「ワイバーンだとかアイシクルウルフだとか。そんな奴らが集まって門を壊そうとしてきたのよ。」
どちらも最近聞いた名前だ。
それに群れとなれば親玉級がいるのだろうし、門なんて吹き飛ばされてしまう。
「軍や冒険者総出で門の防衛をしているところよ。西門にワイバーン、南門にアイシクルウルフ、東門にウインドベアが押し寄せてる。」
「でもワイバーンとかは空を飛んで超えてきそうだけど・・・。」
「なんのために精霊と契約しているのよこの町は。町には結界があるのよ。あいつらが町に入りたければ門を壊して入るしかないわ。」
そうだったのか。いやそんなことを誰かが言っていたような気がする。気がしてきた。
「じゃあ門さえ守ればいいのか。・・・あれ?北門はなんともないの?」
「今のところはね。誰かさんが逃げやすいようにわざと空けているのかしらね。」
なるほど。ミーシャは北の魔族領に逃げたいから北門が手薄になるようにしたのか。
「じゃあ北門に向かうよ。ありがとうアロナ。」
「・・・私は寝るわ。生きてたら牢屋こと先生に謝りなさいよ。」
目指すは北門だ!
外へ出ると西門の方に何体ものワイバーンが飛んでいるのが見えた。
中に一際でかいワイバーンがいる。あれが親玉級だろう。
それに対抗するように下から強烈な魔法が放たれている。
あそこは本物の実力者しか近づけない魔境になっていそうだ。
南門は霧がかかっていて良く見えない。
しかし時々狼の遠吠えが聞こえた。
アイシクルウルフは氷の魔法が得意な魔物だから、気温が下がって霧がでているのだろうか。
東門は他の2つよりだいぶマシなように見える。
城壁には多くの兵士?がいて上から攻撃しているようだ。
だけど実力者は他の門に取られているだろうから、見た目よりギリギリなのかもしれない。
オレは改めて北門の方を向いて走り始めた。
こっちの方は多くの人が逃げてきている。
特に学校の敷地内や演習場には人が見たことがない程人が入っていた。
「この町ってこんなに人がいたんだな。」
門が破られたら魔物がなだれ込んでくる。
そうなるとどれだけの被害がでるのか、考えなくてもわかることだ。
・・・北門に急ごう。
しばらくして北門にたどり着いた。
だけど町の北側は門のすぐ近くまで町の人が逃げてきていた。
正直危ないと思う。北門も他の門より安全だというだけだ。
もし北門が破られたら一瞬で大きな被害がでる。
「皆さん!門のそばは危険です!誘導に従ってください!避難所は学校や中央広場になっています!」
北門ではメラニーが中心になって町民の避難誘導を行っていた。
だけどなかなか門のそばから離れてくれないようだ。
「町の中にいたら危ないだろ!今のうちに俺たちを外に出してくれ!」
「閉じ込めないで!外に出たいの!家族が待っているのよ!」
どうやら祝春会にやってきた旅人を中心に、今のうちに町の外に逃げようとしている人たちがいるようだ。
「今外に出たら危険です!上位種・・・親玉級に引き入れられた魔物は非常に知性が高いです。
門が開いたとわかればこちらから攻めてくる可能性があります!」
メラニーたちも必死だ。おかげでまだ門は開かれていないらしい。
「子供に何がわかるっていうんだ!どけよ!オレは出るぞ!」
そう言って何人かの男が門の脇、兵士専用の通路に向かって走り出した。
・・・が何か見えない壁にぶつかったようでゴロンと地面に転がった。
「諸君、すまないな。ここはファラド・クレイグニル・チャートが任されている。それに北門を開けないのはチャート領主、父上の意向だ。」
ファラド様もいたのか。それなら安心だ。
ちょっとやそっとじゃ勝手に門を開けれられるなんてことはないだろう。
北門の様子から町の外にはまだ誰も出ていないようだ。
そうなると人込みの中にまだミーシャが紛れている可能性は高い。
さっきから目を凝らして探しているが全く見つかりそうにない。
「高い所から探そうかな。でもなー。」
オレがミーシャを見つけるより先に、オレが誰かに見つかる方が早そうだ。
そうなると今度はオレが追いかけられる側になってしまうかもしれない。それは困る。
「やるしかないかー。」
今は手間取っているみたいだけど、時間が経てばミーシャは門を抜けてしまうだろう。
ミーシャならしっかり計画を立てて準備をしてきたはずだ。
それなら急がなきゃいけないのはオレの方になる。
だったら一発勝負だ。
結局オレは空き家の2階にやってきた。
ちょうど北門の前の広場を見渡せる位置だ。
そこから頭だけをのぞかせる。これで準備完了だ。
「黒い髪の女の子は・・・いるけど違うな。」
当然簡単には見つからない。だから魔法を使う。
魔法と言っても使うのはいつもの熱魔法だ。
ただ熱魔法を体の周りに溜めてドンドン渦を大きくしていく。
今は温度が大事なわけじゃない。熱魔法を通して広場の人たちに触れていく。
なにも反応が無い人もいるし、触れた瞬間嫌がって払いのける人もいる。
・・・でもオレが探しているのはそういう人じゃない。
まだ”触ってもいない”のに反応して動く出す人を探す。
これがオレの一発勝負の作戦だ。
これは自信があるわけじゃないんだけど、オレとミーシャは一方の魔法に対して敏感なんだと思う。
最初に出会ったとき、オレは魔法を通して”触ろう”としていたわけじゃないけどミーシャが魔法を使ったことがわかった。
反対に計画を大事にしているミーシャがオレの前に現れた理由は、オレがあの森でバンバン魔法を使っているのがどうしても気になったからだろう。
発表会の時もあの距離でミーシャの魔法がオレに届いている。
・・・という考えを100%信じようと思う。本当かどうかはわからない。
案外結果はすぐに出た。
門の傍、兵士の詰め所で荷物の受け渡しを手伝っていた少年がハッした表情でこっちを見たのだ。
「当たりだ!」
そう言ってオレは階段に向かって走りだす。
しかしその瞬間、目の前の空間がねじれる感覚があった。
なんだか・・・やばい感じだ!
オレはとっさに真横に跳んだ。
ガラガラと大きな音を立てて木箱が崩れる。
だが痛みを感じている暇はなかった。
ブオンと音が鳴り頭の上を何かがかすめた。
驚いて部屋を見渡すが何も見えない。
「これは・・・風魔法?」
答えに気が付いた時には部屋中の空気が固まり始め、今この瞬間にもオレを攻撃しようと準備していた。
「くそっ!誰だ!死んじゃうだろ!」
当然待ってくれるわけもなく、一発目が頬をかすめた。
頭の上からの2発目を転がって避ける。
「危ないな!」
それを読んでいたかのように置かれていた3発目にオレは直撃した。
・・・けれど今まで溜めていた熱魔法、魔力を風魔法に変えて何とか打ち消した。
その反動でオレは階段に吹き飛び、1階まで転がり落ちてしまった。
いや、落ちて正解だった。頭上では鈍い音を立てて魔法が踊り狂っている。
あのまま2階にいたら確実に死んでいただろう。
「ごほっ、ごほっ。・・・なんだよホントにさぁ。」
「あらあら、生き残れたのですね。運がいいのか反応がいいのか。」
低いしわがれた声がした。誰だ?聞いたことのない声だ。
声の方を見るとそこには・・・そこには黒いスーツ?執事服?を着たおじいさんがいた。
あれだ。前に一度だけ会ったことがある。
ミーシャに”じいや”と呼ばれていた人だ。
「死んでたよ!ほとんど!」
「その割には元気ですね。・・・ああ、あなたがあの子のあれですか。」
なんだかおじいさんっぽくない話し方だ。
「ではご挨拶を。」
そう言ってドレスの裾の掴むような仕草をすると優雅に一礼した。
段々と姿が歪み、長身の綺麗な女の人が現れた。
「ミーシャお嬢様のメイドをしております。名は・・・そうですね。メイドと呼んでください。」
溢れだすオーラに怯んでしまいそうになるが、グッとこらえる。
ここは引いちゃいけない。
「オレはスヴェン・ツオイス。ミーシャの友達で・・・いつか『物語の勇者』になる男だ!」
人物紹介
ミーシャのメイド
長身で黒髪の綺麗な女の人。
恐ろしく魔法が上手い。
多分先生と同じくらい。




