第43話 祝春会 2日目ー現実とー
「さて、これから聞かせる話はあくまで一般論だ。」
「はい。お願いします。」
「夢魔族は女性だけの種族であり、主食は魔力だ。そしてその生態から多種族との交流が不可欠であり、自然と開放的なコミュニティが形成されている。」
ここまではメラニーやアンドレ先生、グレジオ先生に聞いた話と同じだ。
「そこで一つ魔族という大きな括りで話をすると、魔族とは魔法的形質の継承を重要視する種族でもある。人族が肉体的形質を重要視するように。」
ん?急に知らない話になった。
「つまり人族は体の”見た目”が似ていることにこだわるし、魔族は魔法の”見た目”が似ていることにこだわるのだ。」
へーそうなんだ。意識したことないけど鬼族のアンドレ先生の角を初めて見たときびっくりしたし、そういうことなんだろうか?
「魔法の”見た目”は単純に使用する魔法だけでなく、魔法への感覚も含まれる。魔族からすれば魔法が”見える”ファラドと魔法に”触れる”スヴェンでは全く別の一族になる。」
そんなこと気にしたこともなかった。魔法なんて使わない人もいるくらいだから、誰と誰が一緒なんて考えている人も少ないだろう。強いて言うならアレク君とファラド様が同じように魔法が”見える”タイプなのが、いとこなんだなーって思ったぐらいだ。アレク君は話せもするけど。
「魔族は〇〇族と言えば、この魔法を使って魔法的感覚はこれ、と決まっているくらいだ。反対に同種とは思えないほど見た目が異なる種族もいる。変身魔法で見た目を繕っても魔族を騙すことはできない。」
「そうなんですね。知らなかったです。」
「人族と魔族の違いはそれだけだ。ゆえに時代によって人族だったり魔族だったりする種族が現れる。」
それこそ鬼族がそうだ。アンドレ先生が言っていた。
「では話を繋げよう。夢魔族はどのような性質なのか。」
「教えてください!ファラド様。」
「これは独り言で一般論だ。間違えるなスヴェン。・・・夢魔族は魅了のの魔法を中心とした心に作用する魔法が得意だ。正確には魔法的感覚に直接作用して精神に強く影響を及ぼす。」
なんだかゲームのサキュバスとイメージ変わらないな。
結局『勇者はサキュバスにメロメロだ!』ってことだろう。
「強い言葉を使えば”心を支配する”と言えなくもない。だがそれは熟練した魔法と意識を誘導する手腕によるものであり、事前の知識があれば通用しない。それに全てを強要するほどの効力を有していない。」
・・・それでどういうことだろう。
夢魔族博士になれてもオレが今日の出来事を納得できる理由にはならない。
「ピンときていない顔だなスヴェン。あくまで誘導するだけなのだ。行動は全て本人の意思だ。」
もう答えは出ているぞってことか。
今までやり取りと合わせると・・・アレク君との最後の質問が気にかかる。
昨日のオレが答えられて、今日のオレが答えられなかった質問。
「なぜ地図の位置を間違えて写したのか。」
「続けろスヴェン。」
ファラド様はもう何も言うつもりがないみたいだ。
紅茶をすすりながら優雅に本を読んでいる。
「オレがみんなを騙すつもりで嘘をついた?地図の位置をわざと間違えて、今日はそんなこと知らないって言ったって思われてる?」
「苦し紛れの嘘にしか聞こえん。ごまかそうとして全てがぐちゃぐちゃになっている。」
ファラド様は目を瞑って答えた。
「教えてくれてありがとうございます。でもオレはみんなに嘘なんてついていないです。」
「そうだろう。私はスヴェンを信じているからな。お前が嘘をついたなんて微塵も思っていない。」
そこまで信頼されているのか。何か理由があるのだろうか。
「さて私はもう行かなくては。・・・大人は皆お前が考えている通りだと思っているぞ。夢魔族に騙された可哀そうな子供だと。」
そう言い残してファラド様は出て行った。
話がようやく分かった。でもオレの心に残ったのはドロッとした嫌な気持ちだけだ。
最低の気分だ。もしこのまま牢屋を出ても今度は本当に捕まえられるだけなんだろう。
今日はもう寝てしまおうか。
ーーー夢を見た。
こっちの世界でみんなが何かについて話している。
アレク君がみんなが知らないことを話し出して。
メラニーがそれはいいと賛成して。
アロナは悪い所はダメだと言って。
最後にミーシャがこれならどうかと話を進める。
みんなはだんだん大人になって。
ただ変わらず楽しそうに話している。
オレが居なくても大丈夫な世界。
心のどこかでずっと感じていた現実。
アレク君は何をするにもオレに合わせてくれて。
メラニーはオレに気を使って色々フォローしてくれて。
アロナは怒りながらもオレの事を気にかけてくれて。
ミーシャはオレができないことを何度も教えてくれる。
オレが居なければ全部なくなる。
パパもママも先生もマスターも町の人も
今まで出会った全ての人がオレに優しくしてくれた。
・・・オレはどうなんだ。
みんなから見たオレはどうなんだろう。
出来の悪いやつ?楽観的なやつ?言葉だけで何もできないやつ?
周りのみんながすごいだけの、ただ運だけが良いやつ?
ああ、ダメだ。考えてもわからないや。
いつだってオレはそうなんだ。
『どうしたらいいの』ってみんなに聞こう。
『どうにかしてよ』ってみんなに頼ろう。
『オレはこうしたいんだ』ってみんなに話そう。
オレはわがままなスヴェンだ。
今はそれでいいから。
お腹の底からやりたいことをやろう。
ミーシャ。今どこにいるの?
優しくて賢くて、夢の話が大好きなミーシャ。
ミーシャに出会ってからオレ、すごく楽しかったんだ。
ミーシャもただ楽しくて笑ってたんだって、オレ信じてるよ。
ちゃんと会って話をしよう。
もう一度みんなで会って話をしようよ。
オレは大人になっても、みんなと笑って話がしたいんだ!
人物紹介
ミーシャ・イドリース
町の外、丘の近くで出合った。黒髪のロング。
優しくて賢くて、夢の話が大好きな夢魔族の女の子。




