第42話 祝春会 2日目ー牢屋にてー
スヴェン・ツオイス 10歳
人生で2回目の牢屋だ。
前回は先生の部屋のまわりでうろうろしていたら急に吸い込まれて牢屋に吐き出された。
今回は誰かに、いやパパに運ばれて牢屋に入れられた。
どちらも悪いことをした覚えなんてないんだけどなー。
特に今回はかけらも覚えがない。
「自分の生徒と牢屋で2回も面会するなんて・・・人生ままならないものですね。」
この声はグレジオ先生だ。
「あの、オレ・・・じゃなくて僕は何で捕まったんですか?」
「詳しくは伝えません。そういう約束になっていますから。ですが時間になれば解放しますよ。」
「もしかして10年後とかですか?!」
「そんなには長くありません。夏の授業は受けられますよ。」
それはよかった。
全然良くないけど、まだいい方だ。
「ここって先生の部屋の地下なんですか?ほら、前もそうだったし。」
「答えません。すべては解放された後に説明しましょう。」
うーん。本当に何を聞いてもダメそうだ。
「あなたは賢く分別があります。脱走なんてしないでしょうが、試そうとしないことです。」
先生の態度から『おとなしくしていろ』という意図はビリビリ伝わってくる。
でもなにも聞かされていない中でそう言われるのは納得できない。
「おとなしくするべきならそうします先生。でも今はそうするべきかわからないです。」
先生は小さくため息をついた。
「あなたは楽観的なのか思慮深いのかわがままなのか、どれが本当なのかわからない時がありますね。」
今までならそうなんだで終わるところだ。でも今は違う。
「どれでもいいんです。オレは怒っています。アレク君が最後にした質問の意味を教えてください。」
「重ねて言いますが答えません。それに怒るのはお門違いですよスヴェンさん。あなたのこの状況は多くの人があなたを思って動いた結果です。」
わかる。先生が言っていることはわかるんだ。
「あんなに意地悪なアレク君と話したのは初めてです。せめてアレク君と話しをさせてください。アレク君ならオレに伝わるように説明できます。」
その言葉に先生がピクッと反応した。少し気に障ったようだ。
「先程の言葉を撤回したくないのですが・・・もう二度と言いませんよ。”誰も”あなたに説明しません。すべては解放された後です。」
そう言い残すと先生は部屋を出てこうとした。
だけど思い直したようにこちらを振り向いて、腕を振るような動作・・・多分魔法を使った。
そうすると牢屋の中に食べ物と飲み物が現れた。
凄い魔法だ。オレが使っている魔法と根本的に違う何かを感じる。
この前はわからなかったけど、さっきは空間が捻じれるような感覚の後にいくつか言葉にできない感覚が続いていた。
「トイレもそこにありますから。おとなしくしていなさいね。」
今度こそ先生は部屋を出て行った。
これにてオレの祝春会は終了・・・というのは納得できない。
オレだって魔法が得意なんだ。時間さえあればこんな牢屋ぶっ壊すことだってできるはずだ。
・・・本当に壊してしまうかは別として、できそうかどうかは確認しよう。
心臓に熱を・・・ってあれ?全然熱くならない。
なんというか熱を出したそばから抜き取られている感覚だ。
これは魔法封じ的なあれなのだろうか。
前世の知識だと手錠を付けると能力が使えなくなったり、魔法封じの剣で切られると魔法がつかえなくなったりしていた。そんなものだろうか。
「誰かいませんかー?」
大声を出してみたけど反応なし。
これは本当に困った。
じゃあもうオレが知っていることだけでこの状況を理解するしかない。
「それが思いつくならここにいないんだろうなー。」
その言葉と同時にお腹がグーと鳴った。
そういえば今日食べたのはあの甘くて胃がチクチクするポーションだけだった。
・・・ご飯食べよう。
オレは脱獄を一旦忘れてお昼飯?を楽しんだ。おいしい。
お腹もいっぱいになって少しお昼寝をした後、そろそろ真剣に考え事をしようと思いアレク君の最後の言葉を思い出していた。
アレク君の考えでは夢魔族が魔物を使った嫌がらせをしているらしい。
そしてオレはその後の質問を答えられなかったから捕まった。
最初からわかってはいたけれどオレは疑われているようだ。
ただどんな理由で疑われたかは分からない。
それに狼の事故だって一番大きな怪我をしたのはオレ自身だ。
他の人のは見てないけど、オレ以上の怪我ならすごい騒ぎになっているだろう。
「考えてもダメだー。アレク君、メラニー、答えを教えてよ。・・・別にアロナでもいいや。」
そこまで名前を挙げてふと一人忘れていたことに気が付いた。
「ああ、ミーシャか。」
なんで今まで思いつかなかったのだろう。
最近この町に現れた不思議な女の子ミーシャ。
最初にあれだけ疑っていたのだから、ミーシャも疑われていて当然ではある。
でもそれこそ気になるところだ。
アレク君がそんなところを見逃すのだろうか。
怪しすぎて反対に怪しくなくも見える。
「ミーシャを信じるなら西のレイヴン領出身。嘘なら北の魔族領出身。どっちが本当かなんて調べればわかるだろうしなー。」
「本当にそう思うか?スヴェン。」
ビクッとして扉の方を振り向くとそこにはファラド様が立っていた。
「タクチャーさんには見せられない姿だな。」
「悪いことなんてしてないです!」
ファラド様はオレの言葉を無視して牢屋の前の椅子に腰かけた。
「私はスヴェンの質問に対して何も答えない。だが休憩がてら後輩に一般論を語って聞かせることはできる。」
「それは・・・ありがとうございます?」
「紅茶でも入れよう。長い話になるかもしれないしな。」
そう言ってファラド様は手を何もない所に伸ばすと紅茶セット一式を取り出した。
うわ!先生と同じ魔法?ファラド様ってそんなすごい魔法使いだったのか。
「差し入れだ。」
そういって垂れた紅茶を何もない所に置くとオレの目の前の床にそれが現れた。
すごすぎる。何度見ても感じても理解しきれない。
オレとは相性が悪そうな魔法だ。
「飲むといい。私の好きな銘柄だ。」
「ありがとうございます。いたただきます。」
前世では紅茶よりジュースの方が好きだったし、こっちでは水かポーションしか飲まないから紅茶の良し悪しなんてわかりっこない。
それでもわかることがある。この紅茶は最高においしい。
「こんなにおいしいの生まれて初めて飲みました。ファラド様すごいですね。」
「手軽にできる趣味がそれくらいだったのだ。自慢するものではない。」
なんだか意外だ。ファラド様ってこんなことできるのか。
やっぱり尊敬できる先輩だ。それに今日は話していても緊張しないや。
人物紹介
ファラド・クレイグニル・チャート
領主様の息子。11歳とは思えない雰囲気。
話かけられるとめちゃめちゃ緊張する。




