第41話 祝春会 2日目ー意地悪なアレク君ー
「おはようスヴェン君。少し話をしよう。」
2日目の朝。オレは起き抜けアレク君に声を掛けられた。
長い時間寝ていた気がする。
「おはようアレク君。それって大事な話?」
「大事な話さ。ほら、これを飲んで欲しい。」
アレク君は懐から瓶詰めのポーションを取り出した。
「朝からこれ?」
「味付けはおいしいよ。」
ならいいか。そういえばお腹も空いている。
「じゃあ貰おうかな。」
ポーションを受け取って栓を開ける。
この動作ももう手慣れたものだ。
「えいやっと。」
グイっと飲み干すと胃の中がチクチクし出した。
うう。味は甘ったるい感じなのに・・・。
「ずるいよアレク君。味は甘いけど、飲んだ後が良くないよ。」
「僕は割と好きなんだけどね。」
「オレはやだな。・・・それで何の話だっけ?」
「話は2つあるよ。悪い話と良くないかもしれない話だ。」
そのパターンはどっちか良い話だろ。
「じゃあ悪い話からするよ。」
しかも選ばせてくれない。
「ギルドマスターから聞いた話だけど。森の方でまた狼の被害があったらしい。」
「狼?」
「正確には親玉級ウインドベアを利用した狼の被害だね。聞いたところ僕達が襲われたのと同じパターンだったよ。」
またか。親玉級の雄たけびに驚いた草食動物を見つけて、狼の群れがそれを襲う。
オレも2回巻き込まれたし、本当に迷惑な話だ。
「狼が学習しているんだ。ウインドベアをつつけば同じ形で狩りができるってね。」
「それはちょっと、どころじゃなくて嫌だね。」
魔物は共有の感覚を持っているらしいから、狼からウインドベアが被害を受けると親玉級が助けようとするのだろう。
「前にアンドレ教授に説明を受けた通りこれは魔物の生息域がずれていることが原因だ。そしてそれに対してギルドは対策を取ったはずなんだ。」
「それはどうやって?ドラゴンが起きたせいだから無理って話だった気がするけど。」
「単純な話、親玉級の魔物を同じ数狩ったんだ。ウインドベア・アイシクルウルフ・ワイバーンをそれぞれ同時にね。」
知らなかった。
ここ最近はずっと発表準備に追われていたからギルドの情報はさっぱりだ。
「親玉級が少なくなると勢力も生息域も狭まる。だから町の近くでは影響がでないはずだった。」
「やり方を狼が覚えちゃったから、それを繰り返しているってこと?」
「それもあるだろうね。狼は似た見た目の魔物であるアイシクルウルフの影響力をうまく利用していただけだからね。感覚的なつながりが無いから気が付くのも遅れることはあるとは思う。」
その説明はよくわかる。
まとめると祝春会で色んな人が町に集まるから魔物を狩って安全にしようとした。
でも狼が楽な狩りの方法を覚えたから、まだ襲われる人がいる。
というところだろうか。
「でもそれって悪い話だけど・・・なんというかアレク君らしくない説明の仕方だね。」
オレがどうこうできない話をアレク君が重々しく話すのは変だ。
「ギルドの対応が入ってからこの事故は一度も起きていなかったんだ。」
「じゃあさっき言ってたのが久しぶりってことだね。」
「そうだね。直近では雄叫びを聞いたっていうレベルから、実際に狼に襲われたってレベルまで合わせて0件だった。」
「ギルドの対応前は?」
「レベルを問わなければ週に2件だね。」
それは結構違うな。だとすると・・・つまりどうなんだろう。
「これでもう一度僕の考えが復活した。誰かが意図的に親玉級を増やしているんだ。」
「それは・・・そうなのかな?」
親玉級に魔物を成長させるには、魔物に合う魔鉱石をバリバリ食べさせないといけない。
チャート領には3種魔物がいるから、最低3種の魔鉱石を食べさせて回っているのか。
「この短期間に魔物の勢力、生息域が回復するのは親玉級が新しく現れたと考えるのが最も自然だ。」
うーん。オレは依頼で魔鉱石に触れる機会も多いけど、魔鉱石は高い。
安い魔鉱石でも1個金貨何枚というレベルだ。
今回の1回だけなら気合い入れてやることもできるかもだけど、アレク君の考えだと何回も仕掛けているみたいだしなー。
例え悪いお金持ちが居たとしてこんな面倒なことをするだろうか?
「スヴェン君の考えはわかるよ。今この町に来ている人の中でわざわざそんな悪い事をする人はいない。前皆で話した時に出た結論でもある。」
顔に出てたか。でもアレク君の言う通りアンドレ先生とマスターの前で相談した話だ。
「・・・その時の話ってアレク君が『魔族が原因だ』って言ってたやつだよね?」
「その通りだよ。僕が言いたいのはそれだ。」
うーーーーーん。アレク君が珍しくこだわるなぁ。
「じゃあ魔族だとして誰がやるの?向かいの夢魔族?それはないって言われたじゃないか。」
「そうだよ。犯人は夢魔族さ。」
「夢魔族は・・・なんだっけ、戦うとか興味ないらしいし。」
「それは種族の話さ。正直な話、魔物に魔鉱石を食べさせるって言っても簡単な話じゃない。よほどの実力がないと自分が餌になるだけだ。」
「そうだろうね。ワイバーンとか超強いらしいし。」
仮にそんな実力があるなら町に直接攻め込んだ方が楽そうだ。
「夢魔族ならそれができる。彼女たちの魅了は本当に強力だ。魔力が通う相手なら誰だって操れる。」
「アレク君の話が全部正しいならそうだけど・・・。魔鉱石も魔族領から持ってきたらいいだろうってこともわかるよ。」
魔族領なら魔鉱石が簡単に取れるらしいし、色々かみ合ってそうではある。
「でもそれは本当なの?実際に魅了の魔法がそんなに便利かわからないよ?」
「それはその通りだよスヴェン君。有識者の話からそれぐらいだろうって今までは予想を付けていたんだ。」
今までは?なら今は確信があるってことかな。
「ここまでが悪い話とそれについての僕の考察さ。そして次は良くないかもしれない話をさせてほしい。」
「ああ、うん。いいよ。」
さっきの話が全部納得できたわけじゃないけど。
「ありがとう。じゃあ外を歩きながら話そうか」
寮から出たあたりで西門の方からファンファーレが聞こえてきた。
軍部のパレードが始まったらしい。
「じゃあ良くないかもしれない話だ。」
「さっきから気になっていたんだけど”かもしれない”って?」
「それはスヴェン君の返答次第で決まるんだ。」
今日のアレク君は少し意地悪だ。
さっきも変なポーション飲まされたし。
「昨日の発表の後、スヴェン君は何をしていたかな?」
「昨日?昨日は・・・午前が発表会で午後が展示だから・・・。」
なんとなく思い出してきた。
想像以上の人が展示会場にきて色んな質問をされたんだ。
あれこれ聞かれて対応するのが本当に大変で、寮に帰ったらすぐ寝てしまった。
そんな流れだった。
「展示会場にいて色々質問に答えていたよ。アレク君は・・・いなかったよね?」
「その通りだよ。僕は午後は別のことをしていた。アロナさんとメラニー君とスヴェン君の3人に後を任せてね。」
「そんな気がするけど、それがどうしたの?」
「シーン・トリニティ卿を覚えているかな?君に質問をした人のこと。」
あのボサボサの髪の人は良く覚えている。
あの人のせいであの時散々な目にあった。
その後もわざわざ展示会場に来て、色々聞いてくるから疲れてしまった。
「覚えているよ。迷惑おじいさんでしょ。」
その言葉を聞いてアレク君はこちらを振り向いて止まった。
まずい。怒らせてしまっただろうか。
「・・・スヴェン君。この質問は一度きりだ。一回しか質問しないし、一回しか答えられない。いいね?」
なんだなんだ?どうしたんだ?本当に様子が変だ。
「えと、どうしたのアレク君。朝から変だよ?」
「君が作った配布用の地図。僕の説明と相違があった。その理由を答えてほしい。」
「それ迷惑おじいさんがしてきた質問でしょ?オレが答えたんだからわかるよ。」
えっとなんだっけか。
たしか・・・たしか・・・。オレのミスで・・・。
「オレのミスで地図の位置を間違えて写して・・・。」
「その理由は?」
「・・・わからない。でも!昨日はスラスラ言えたんだ!」
「わかっているよ。僕もその場所にいたからね。」
アレク君が手を挙げた。
その瞬間オレは気が付いたら地面に倒されていた。
「スヴェン。いい子だからおとなしくしていなさい。」
パパの声だ。
「もしかしてパパ?これってどういうこと?痛いよ!」
「もう一度言う。おとなしくしていなさい。わかるね?」
真剣な声だ。よくわからないけど黙っているしかない。
「スヴェン君。この話は良くないことだったらしい。」
アレク君は後ろを向いて言った。
「この埋め合わせは必ずするよ。でもしばらくは拘束させてもらう。・・・君のためにね。」
オレはその後目隠しをされてどこかに運ばれた。
目隠しが外された後目に映ったのは、鉄格子と岩肌。
つまり牢屋だった。




