第40話 祝春会 1日目ー研究発表ー
「皆さんお久しぶりです~。元気にしていましたか~。」
オレたちは久々に学校に来ていた。
今日は祝春会の1日目で、今はチャート領外から来た偉い人達を迎えているところらしい。
ちなみにアレク君はそちら側のお手伝いがあるので学校には来ていない。
他にも何人かは学校に来ていない子がいる。大変だなー。
「今日は皆さんの研究を町の皆さんの前で発表する大事な日です~。落ちついて自信をもって話してくださいね~。」
先生はいつもの調子だがオレたちはそうではない。
当然緊張しているし、中には青い顔をしている子もいる。
「今日の午後の発表が終わったら後はお祭りを楽しむだけです~。美味しいものを食べて、珍しいものを見て、お祭りでしかできないことをいっぱい体験してください~。」
先生の言う通り発表さえ終われば後はお祭り騒ぎだ。
オレは今年が初めての祝春会だし、メラニーに色々連れて行って貰うつもりでいる。
「では祝春会のパンフレットを配りますね~。」
おっとパンフレットはここで貰えるのか。
なんというか全体的に前世の運動会とか文化祭とかに似ている気がする。
学校行事+町行事=祝春会のようだ。
「皆さんくれぐれも注意事項は守ってくださいね~。祭りに参加するときは必ず1回読んでください~。」
注意事項は・・・特に普通のことばかりだ。
はしゃいで怪我しないとか、知らない人について行かないとか。
・・・特別なことは”魔法を使わない”と”宿屋には近づかない”くらいか。
まあ魔法は危ないし、宿屋は事故や事件に巻き込まれないようにするためかな。
偉い人や悪い人もいっぱいいるだろうから当然か。
「後はパンフレットに日ごとのイベントも記載されています~。どれも面白いのでぜひ参加してくださいね~。」
えと・・・このページだ。
軍のパレードとか力自慢大会とか面白そう。
あと高級品限定市場って何が売っているんだろう。みんなで見に行きたいな。
「では最後に!皆さんの最後の発表練習です~。ここで全力だして、本番では緊張しないようにしましょう~!」
一気に現実に戻された。発表やだなー。
「では第一班の発表からいきましょう~。」
「えと、はい!」
ちなみにセリフは飛ばしたし噛んだ。
そしてアロナにめちゃめちゃキレられた。
時間になったのでオレたちは先生に連れられて、中央広場近くの控室に移動していた。
そこに遅れてアレク君がやってきた。
「お待たせみんな。・・・どうやら最後の発表練習はうまくいかなかったみたいだね。」
「残念ながら。ですがそれは私達の班に限ったことではないですし、どちらかというと良かった方なんだですが・・・。」
「スヴェン!あんたセリフ暗記したんでしょ!それに原稿もあるのに何で間違えたり飛ばしたりするのよ!理解できないわ!」
「あーもう!うるさいな!さっきはできなかったけど次はできるって!」
「最初に言ったことだけど、私の邪魔したら承知しないから。間違えたら死ぬぐらいのつもりでやりなさい!」
「知ってるし!わかったって!何度も聞いたよホントにさ!」
「・・・練習が終わってからずっとこうなんですよ。どうにかしてくださいアレクさん。」
「メラニー君。君が諦めたら僕達の班はおしまいだ。」
「はい、頑張ります。・・・いや、それってアレクさんはお手上げってことですか?」
「アロナさん、スヴェン君。外でミーシャを見かけたよ。ちょっとみんなで声を掛けに行こうよ。」
「ミーシャ来てるんだ。どこ?」
「困ったときのミーシャちゃんね。困ったちゃんのスヴェンをどうにかして貰いたいわ・・・。」
「アロナさあ!いちいちそういうの言わないと気が済まないの!」
「ストップ!!ここでは他の班の迷惑になります!!一度外に出ましょう!!」
オレとアロナは外に引っ張り出されて、そのまま引きずるように目的地まで連れていかれた。
そこはちょっと高そうな喫茶店で、ミーシャは紅茶を飲みながら優雅に読書をしているところだった。
また喧嘩したの?今度の原因はなにかしら。」
「スヴェンが役立たずなのよ。何か言ってあげてミーシャ。」
ムカッとして言い返そうとしたところでアレク君に口を塞がれた。
放してよ!オレだって言いたいことはあるぞ!
「聞く限り最後の発表練習が思ったように行かなかったようだ。緊張のせいだろうけど。」
「本番は練習と違ってうまくいかないことってあるわよね。私も最近そんなことがあったわ。」
そうなんだ。何があったんだろう、気になるな。
「そういう時は色んな要素をなるだけ練習に近づけるといいのよ。」
「ミーシャさん、それはどうやってやるのでしょう。」
「難しいことはなしよミーシャ。スヴェンが”今”できないとダメだわ。」
「そうね・・・。発表会場ってたしか中央広場よね。」
「そうだよ。ステージが北側を背にして、発表者は南側を向いて話すことになるね。」
「じゃあ、ステージの正面の建物って何かしら?」
「お菓子屋さんですね。それがどうかしたのでしょうか?」
「練習の時って私が”聞く”係だったでしょ?だから私を見て、私に向けて発表すればいいのよ。」
「お店の2階で僕達の発表を聞いてくれると。それはいい案だけどミーシャを入れてくれるかな?今は祭りの準備で大変だと思うんだ。」
「お願いしてみるわ。もしダメでも見えるところにいるから。」
そういうミーシャは自信ありげだった。
「頼んだわよミーシャ。・・・ミーシャに色々やって貰うからには一発で決めなさいよ。」
「・・・わかった。頑張るよ。」
「よかった。いやほんと・・・どうなるかと思いましたよ。」
「僕も頑張らないとね。頼りにしているよミーシャ。開始は次の鐘が鳴ったときだよ。」
「一番最初の発表よね。任せなさい。」
えと、お菓子屋ってあの建物か。
二階に窓があって、その辺りを見てればいいのか。
「スヴェン、ちょっとこっち来て。」
「あ、うん。どうしたの?」
「あなたが本当に困ったときは私の目を見るのよ。」
「え?でも結構遠いからそれは難しいかも。」
「あなたなら届くわ。・・・じゃあ時間もないから私も行くわね。」
届く?よくわかんないけど・・・やることは変わらないか。
「スヴェンさーん!急ぎましょうー!時間がなさそうですー!」
「うわ!ごめんよメラニー!すぐ行くねー!」
中央広場に鐘が鳴り響きオレたちの出番がやってきた。
「そろそろ呼ばれますね。では各自担当の物を持って上がりましょうか。」
「いつでもいいわ。準備万端よ。」
「スヴェン君。始まりの挨拶さえ終われば細かい所は僕達の担当だ。景気よく大きな声で行こう。」
「代表者で呼ばれたら返事して、挨拶して、研究テーマを言う。・・・できるできる。」
そんなときファンファーレが流れ始め、マイクで拡張された先生の声が鳴り響いた。
『今から毎年の学生発表会を行います~。伝統あるイージス校の生徒たちがこの町を中心に、自由に!そして楽しく!心の赴くままに研究を行ってきました~。』
始まっちゃったー。そういえばこっちの世界にもマイクってあるんだな。
『それでは早速登場して貰いましょう~!第一班どうぞ前へ~。』
アナウンスと共にステージ上のライトが動き始めた。
想像してた100倍ちゃんとしてるんだけど!
前世はクラスに模造紙展示するくらいだったのに・・・。
「スヴェン!行くのよ!あなたが先頭でしょ!」
「うわわ!行かないと!」
『それでは第一班代表者、スヴェン・ツオイスさん~!どうぞ挨拶をお願いしますね~。』
先生にマイクを渡されて、背中を少し押されて前に出た。
正面下を見るとチャート様が座っているのが見えた。
その周囲には町長やアンドレ先生など知っている人もいれば、一度も見かけたことのない人もいる。
いやそれよりも・・・人数多くないか?
子どもの発表会に人集まりすぎだろ!
・・・ダメだ。発表に集中しよう。
『えと、皆さんこんにちは。第一班代表のスヴェン・ツオイスです。』
よし大丈夫。
『私達は皆さんにポーションの魅力を知ってもらうため、町の周囲に自生している薬草を用いてポーションを作成しようと考えました。』
まだ大丈夫。
『テーマは”いつものポーションってどうできるの?”です。発表の前半で薬草の場所を説明して、後半でポーションの作り方を説明します。』
もう大丈夫。
『皆さんよろしくお願いします!』
言い終わると同時に頭を下げる。
しばらく待っていると会場から拍手が送られきた。
よかった。上手にできたみたいだ。
「スヴェン君。お疲れ。」
「アレク君。後はお願い。」
オレはマイクを手渡すと肩がスッと軽くなった。
後は皆に任せれば大丈夫だ。
・・・そうだ、ミーシャが色々してくれていたのにそっちの方を見るのを忘れていた。
あ、居た!二階の窓を開けてこっちに手を振っている。
すごいな。どうやってお願いしたんだろう?
『第1班の皆さん。素晴らしい発表でした~。では質疑応答の時間になります~。広場の誰でも質問できますので挙手をお願いしますね~。』
質疑応答の時間はアレク君かアロナが答えることになっている。
オレはもう待っているだけで終わりだ。
チャート様を含めた偉い人何人かと、会場の目立ちたがりの人の質問をスパスパ捌いていく。
見ていて、いや聞いていて心地いいくらいだ。
そんな時だった。
『・・・ああ、ありがとう。代表のツオイス君。スヴェン・ツオイス君。君に質問したいことがある。』
え?オレに名指しで質問するなんて・・・誰だろう。
白いボサボサの髪にヨレヨレの服。知らない人だ。
『もしよろしければこのまま私が回答しますが・・・。』
アロナがとっさにフォローしてくれた。
でもそれだとオレが庇われたのがバレバレだ。
『アロナ・カウント君。君の質疑応答は実に自信に満ちていた。後でゆっくり話したいが今はスヴェン君に聞きたいことがある。』
オレはアロナからマイクを受け取る。
「スヴェン。無理なら分かりませんって素直に言いなさい。」
「わかったよアロナ。出来る限りやってみるよ。」
深呼吸、深呼吸。
『スヴェン・ツオイスです。質問は何でしょうか?』
『よろしく。私はシーン・トリニティ。本当の名前はもっと長いがこれでいい。』
トリニティ?なんだか聞いたことあるぞ。
どこで聞いたんだっけ。全く思い出せない。
『君は配布用の資料を担当したんだったね。それは間違いないかね。』
『はい。えと、週末の薬草採取の依頼で行った場所をまとめました。』
『それは結構だ。・・・それでこの配られた資料の地図に少し違和感がある。他のメンバーの説明と地図の場所が微妙に一致していない。』
『え?えと、それは・・・みんなで確認して・・・。』
『いや概要図であるならいいんだ。ただ地図の縮尺からして位置にもかなりこだわっているように見えたからね。しかし、特にこの辺りなんか大きくずれている。これは何かの意図があるように感じるが何かあるのかね?』
『えと、それは・・・。』
それは・・・どうだった?いつ作った?どう作った?
資料は他のみんなが作った1つの原紙をオレがいくつか書き写して、それをコピーしてもらった。
それに写した後の資料はミーシャが見てくれて、それで”問題ない”って。
「スヴェンさん。大丈夫です。ちょっとしたミスですよ。」
メラニーが小声で助けてくれている。
オレのミスだ。あの時ちゃんとやったはずなんだ。
でもあの人が言っていることは間違ってない。
アレク君のセリフも覚えてるけど、オレが作った資料の地図と薬草の生息場所が全然違うところがある。
『この地図には変な空白がある。職業病でね。それがどうしても気になるんだ。』
えと、えと。
・・・ミーシャ。ミーシャどうしよう。
心臓が痛い。なんでこんなに緊張するんだ?
オレは無意識にミーシャの方を見た。
ミーシャはまだそこに居てこちらの方を向いていた。
さっきまで手を振ってくれていたのに、今は動いていない。
・・・ああ、目を合わせてくれているのか。
それで”何か”が届くんだっけ?
もう、頭が真っ白だ。
白んでいく頭の中に別の人の声が響いていた。
『大変失礼しました。ご指摘の通りですトリニティ卿。ご存じの通り最近チャート領では上位種、冒険者の言葉で親玉級の魔物が多数発生しています。そのため長期に滞在できない場所あり、地図の精度にムラがあるのです。』
祝春会 イベント日程
会場 中央広場
【1日目】
午前の部
・開会の挨拶と余興
・主賓と来賓の紹介
・交流会
午後の部
・学生の研究発表
・研究成果の展示
【2日目】
午前の部
・軍部パレード
・力自慢大会
午後の部
・各研究機関の成果報告
【3日目】
午前の部
・ステージ演目(文化系)
旅芸人や吟遊詩人、演奏等
午後の部
・ステージ演目(肉体系)
大道芸人や冒険者による見世物
※危険なので遠くから見るように
【4日目】
午前の部
・高級品限定市場
午後の部
・表彰式
・閉会の挨拶




