第33話 国境の向こう側
「グレジオ先生ー!スヴェンですー!」
オレたちは学校の職員寮で先生を呼び出していた。
「近所迷惑ですね・・・。」
「でも扉ノックしても出てこないし。」
次は窓をノックしてみるか。
「困った。どこかに出かけてしまったかな。」
「アレクさんも止めてください。」
「ああ、ごめんメラニー。・・・先生の行動パターンだと今の時間はここで自分の研究をしているはず。」
そうなんだ。先生はオレたちに教えているだけじゃないんだ。
「とりあえずもう一回。先生ー!・・・ってうあああああああああ!」
オレは声を出した瞬間、突然扉に吸い込まれた。
「うげ!」
オレは床にべちゃっと吐き出された。
そこは地下の・・・仕事場?研究室?みたいだ。
薄暗い部屋の奥から先生の声が聞こえた。
「泥棒さん。あんまり”お痛”しちゃいけませんよ~。」
「あ!先生!スヴェンです!」
オレの声を聞いて先生がこっちに寄ってきた。
後今更気が付いたがここは鉄格子がはめられた独房らしい。
「・・・スヴェンさんですか。全く何をしたんだか。」
はぁとため息をついて、鉄格子の扉の前で指をクルリとする。
「鍵を開けましたよ。出てきてください。」
「よかった。あ、それで先生にお話があってみんなで来たんですけど・・・。」
「待ちなさい。その前に話があります。」
オレは大声で先生を呼んでいたら扉に吸い込まれたことを説明した。
「普通に近所迷惑です。もっと考えて行動しなさい。」
「ごめんなさい先生。」
「それで他のお二人は外に?」
「わからないです。でもここにはオレ・・・僕だけです。」
「そうなのですか?これは”泥棒除けの罠”の魔法と言って家の前で粗相をした者を吸い込むのです。」
「そんな・・・泥棒なんてしません!」
「いえまぁ、そこは術者の調整次第で対象を決められますから。しかし泥棒と判断したなら周囲の人をまとめて吸い込むはず・・・。」
先生がブツブツと言って空中でなにかを操作し始めた。
「あの、それで先生にお話しがあって・・・。」
「ああ、そうでしたね。それでは上に行きましょうか。」
先生が指をパチンとすると、オレはソファに座らされていた。
すげー!でもなんだろうこの魔法。
なんだかうまく言えないけど・・・なんの感覚もしなかった。
他の魔法だったら何か熱い、冷たい、硬い、とかの感覚があるんだけどな。
・・・もしかしたらこの部屋には他の魔法がかかっているかもしれない。
ちょっと確認してみよう。熱を出して・・・。
「スヴェンさん、それはマナー違反ですよ。」
「あ、その、ごめんなさい。」
ばれた。
「お話があるのですよね。では外のお二人を呼びましょうか。」
先生が指をパチンとすると部屋の扉が開いた。
「スヴェンさん!」
「よかった。無事で安心したよスヴェン君。」
「ごめん。泥棒除けの罠に引っかかったみたい。」
扉に吸い込まれた後の話を軽く二人に説明した。
二人とも驚いたみたいだ。
「泥棒除けの罠って、もしかして迷宮の・・・」
「皆さん私に何か御用があったのでは?」
やべ。すっかり忘れていた。
「失礼しました。急な訪問で申し訳ございません先生。今日は報告と相談に参りました。」
「相談は問題ありませんが・・・報告ですか?アレクさん説明をお願いします。」
アレク君はアンドレ先生と話した内容を報告し、嫌な推測について説明した。
「なるほど。問題の原因が魔族の工作なのではないかと疑っているのですね。」
「はい。先生はどうお考えですか?」
「急な話で考えがまとまっていないのですが・・・。夢魔族が手の込んだ工作をするとは思えないですね。」
夢魔族》?また新しい種族が出てきたぞ。
「夢魔族はチャート湾を挟んだ向かい側を治める魔族です。もし戦争になれば最初に戦う相手になるでしょう。」
「そうなんだメラニー。夢魔族ってどんな種族なの?」
エッチなお姉さんだということは前世知識で知っている。ゲームに出てきたし。
でも自分からは言いたくない。
「そうですね。私が知る限りでは女性だけの種族です。そして非好戦的で・・・というより戦うという発想があまりないですね。」
「それだけ聞くと悪い種族じゃなさそう。」
「ですが、その、はた迷惑な種族なのです。夢魔族の食事は他種族の魔力なんですよ。」
メラニーが言いにくそうにしている。つまりは・・・エッチなお姉さんなんだな!
「はいはいそこまでです。つまり食べ物が他種族の魔力なので、”戦う”という行為に全くメリットを感じていないのですよ。数が減ると困りますからね。それに夢魔族は開放的で刹那的です。ですから工作などと言う回りくどいことはしないですね。」
「ですが、それだと定期的に国境に魔族軍が現れる理由がわかりません。」
アレク君は少し不服そうだ。
「夢魔族には戦う意思が無くても、女性に格好つけたい人は結構いるんですよ。」
うーん。
つまり『オレは人族を10人倒したぜ!』『キャー!格好いいー!』を狙っているわけか。
本当に迷惑な話だ。
「それではその”格好つけ”で工作を行うというのは?」
「その、あまりうけがよくないと言うか。モテないというか。とにかく可能性としては薄いです。」
あれやこれやする話は人気がないのか。
そうなると先生の言う通り、魔族の工作ではない気がしてきた。
「そうですか・・・。残念です。」
「ではこの話は一旦終わりです。皆さん報告ありがとうございました。・・・それではフィールドワークの今後について町長に相談しますので、皆さんは家で待機していてください。」
職員寮を出た後、オレたちは生徒寮の部屋で作戦会議をすることにした。
「手詰まりですね。待機と言われた以上、町の外に出るのは控えましょう。」
「メラニー・・・。そうだね。そうしようか。」
アレク君が珍しく意地を張っている。
「そっちも大事だけど、オレたちはフィールドワークの題材が無くなっちゃった。新しいのを考えないと。」
「そうですね。何かいい方法がないでしょうか?」
「「「うーん。」」」
初めからってきついなー。間に合わせることはできるだろうけど、内容が精霊イージスの満足できるものになるとは思えない。他のグループに混ぜて貰うのも厳しいかな。人数が多くなりすぎる。
「あ、そういえば一つあった。」
「聞かせてください、スヴェンさん。」
「スヴェン君。なんとなくわかった気がするよ。」
オレの表情を読まれたかな。
「時間もないし、急ごう!」
オレたちはある所を目指して走りだした。
「それで私のところに来たわけ?恥を知りなさいよスヴェン。」
「アロナ先生!そこをどうかお願いします!」
「是非お願いしますアロナさん。可能な限りお手伝いしますので。」
「僕ができる範囲なら何でもやるよ。材料の調達とかね。それでもダメかな?」
「・・・まぁ時間も余ってたし。試してみたいレシピもまだあるし。今回だけよ。」
「やった!アロナ先生バンザイ!」
「邪魔したらしばき倒して除名するからね。覚悟しなさいよスヴェン。」
「どうしてオレだけ!」
「アレクもメラニーも邪魔なんかしないのよ!」
「まあまあアロナさん。私達の鍋の温度管理はスヴェンさんにして貰えるので。」
「スヴェン君の魔法を使えば色々とできることも増えそうだ。それに彼は僕が見張っているから心配ないよアロナさん。」
「アレク頼んだわよ。それが最低条件ね。」
ククク、これは予想通りだ。アロナは(オレに)色々文句を言うがアレク君とメラニーが居ればなんだかんだで許してくれると思っていた。
これでオレたちの発表については問題なさそうだ。
「じゃあ3人共、これ買ってきて頂戴。」
えーと、ポーションの材料か。爪とか瓶とか結構あるな。
「よしじゃあ買いに行ってくるよ。」
「スヴェン君。僕にも見せてよ。・・・これはなかなかだね。」
「アロナさん容赦ないですね。」
ん?そんなに高そうな物あったかな。
「それではこの”冒険者用高級小型調合鍋”は金貨3枚になります。お買い上げありがとうございます。」
金貨3枚って、オレの冬の稼ぎが・・・。
「やっぱり皆で割りましょう。スヴェンさんだけ可哀そうです。」
実は下に小さく”スヴェン用の鍋”と記載されていた。
「いいよ。オレが断れなかっただけだし。」
怒ったオレが『冒険に持っていける最高の鍋を買うぞ』と息巻いたところを店員さんに聞かれていて、流されるままに最新式の鍋を買わされるハメになった。
「でもこれすごくいい鍋だよ。将来絶対役に立つと思う。」
アレク君が言うならそういうことにしよう。
・・・お金は使っちゃったけど、目の前の問題はどうにかなりそうだ。
単語紹介
夢魔族
魔族。他種族の魔力を食べる女性だけの種族。
(おそらく)エッチなお姉さん。
開放的で刹那的な性格。他種族からは男女問わず人気がある。




