第32話 魔物の話
「さて、話を身近な問題に戻そう。」
マスターが話を再開させた。
「そうだねぇ。まず親玉級のウインドベアの目撃情報は見間違いじゃないだろうねぇ。」
「それではあの雄叫びはウインドベアのものでしょうか?」
メラニーが尋ねる。
「確認しよう。よく聞いててねぇ。」
ん?アンドレ先生が大きく息を吸っている。
『グオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!!』
うそだろ!最悪だ!やめてくれ!
「スヴェン君!落ち着いて!」
「ああ、うん。大丈夫、大丈夫・・・。」
危ない。また頭が真っ白になるところだった。
落ち着け、落ち着け。深呼吸、深呼吸。
「あまりに似ているので驚きました。ですがもうやらないでください。あまりいい思い出ではありません。」
「ごめんねぇ。今のは無神経だったねぇ。」
アンドレ先生はしょぼんとしている。
大事なことだったから確認したかったのだろうし、仕方ない。
「メラニー、同じで間違いないな。」
「はい。同じです。」
「ドラゴンが目覚めて魔物の縄張りがずれた。それはよくわかった。そして最近狼が森の浅い所で狩りをするようになった理由もなんとなくわかった。」
マスターは腕を組んで少し上を向いた。
アンドレ先生も顎に手を当てて目を細めている。
どうやら話が見えてきたようだ。オレにはわからないけど。
「アンドレ、状況をまとめてくれ。全部推測でいい。どうせ合っている。」
「エイデン、君の悪い所だ。師匠が常に正しいとは限らないと何度も言っているのにねぇ。」
アンドレ先生は膝をバチンと叩いて説明を始めた。
「子供達、よく聞いてねぇ。」
「アンドレ教授の説明を受けたうえで、改めて問題と状況の整理をします。」
「アレク、よろしくねぇ。」
「現在の問題を書き出します。」
アレク君が問題を書き出した。
1.町や村にでるウインドベアの被害
2.森の浅い所にでる狼の被害
3.森の深い所にでる親玉級ウインドベアの被害
「今まで僕達はこの問題を親玉級ウインドベアを倒せば全て解決すると考えていました。」
そう・・・だったんだ。親玉が見つかったから探そうよってだけだと思っていた。
「そうですね。共通の認識です。」
メラニー、オレができてないよ。・・・今できたらいいか。
「アンドレ教授の説明では、単純に親玉級ウインドベアを倒すと悪影響があり対策が必要だそうです。」
「倒してしまうと狼の縄張りがより広がっちゃうよねぇ。」
そうなるとレイン様はあえて倒さなかった可能性が高いのか。
これで疑問は1個解決だ。よかった。
「問題は・・・解決策が思いつかないことです。自然の摂理だと言われればそれでおしまいです。」
「またドラゴンが寝るのを待つの?」
「最終的にはそうなるねぇ、4年くらいの活動期を終えたらまた20年くらいの休眠期に入るんだ。」
4年かぁ、長すぎるな。薬草や動物の毛皮なんかかは全部森から貰っている。
それができない・・・とは言わなくても、生活がかなり苦しくなる。
冒険者も気軽に依頼を受けれない。薬草を取りに行って狼に襲われました、なんて冗談じゃない。
「・・・でも気になる点もあるんだよねぇ。」
「アンドレ、最初からそれだけが気になっていたんだろう。」
マスターが少し面倒そうに言った。
「確認は大事さエイデン。」
「もしかしてそれは親玉級が2体いるかもしれない、ということでしょうか?」
話が最初に戻ってきた。みんなで相談したときから親玉級が2体いるかも、という疑問があった。
嫌な方の予想が当たるな、よくない感じだ。
「チャート領の立ち上げには鬼族も関わったんだよねぇ。その時に周辺調査は綿密に行った。結論から言えば親玉級が2体現れるほどの魔鉱石はこの土地にない。」
「なぜそう言い切れるのでしょうか?ウインドベアはこの土地の魔物です。住みやすい環境なのであれば、風の魔鉱石があるとも考えられます。」
アレク君が質問を重ねる。
人族領で魔鉱石が発見されるのは超レア、ということはアレク君もわかっている。
レアな中でも見つかる方だからウインドベアが増えた。言いたいことはこんな感じかな?
「簡単な話なんだ。親玉級が2体いると喧嘩するのさ、1体になるまでね。だから狭い土地に親玉級が2体いることはあり得ないんだよねぇ。これは魔物全てに言えることなんだよ。」
「南の森はそんなに小さいとは思えませんが・・・。」
メラニーが反論した。オレもそう思う。
「同種の魔物には魔法的なつながりがあるんだよねぇ。だから何かに大きな環境的要素・・・山とか大きな川とかに遮られていない限り同じ縄張りなのさ。」
へー。魔物ってそんな生き物なんだ。
「だけど無限ってわけではない。親玉の個体差によって縄張りの範囲はあるからねぇ。大森林とかだとその限りじゃないよ。」
大森林か英雄譚にも出てくる人族領と魔族領の国境でもある森だ。
あまりの大きさに普通じゃ抜け出せないけど、道の勇者が初めて突破したと書いてあった。
「・・・それだと少し時間が経てば親玉級が1体なりませんか?たとえ2体だったとしても問題にならないです。」
確かに。アレク君は鋭いな。
「普通ならねぇ。でも他の魔物の親玉が2体いたとしたらどうだろうか?」
つまりウインドベア・アイシクルウルフ・ワイバーンの親玉が2体ずつってこと?
「同種より他種との縄張り争いが優先されるんですね。」
アレク君の言う通りだ。争っている場合じゃないってことな。
「そうなると・・・なぜ親玉級が同時に複数現れたかが鍵ですね。」
「魔香草を食べて魔力を補給しないとだめな個体がいるとすると、あるいは2体以上かもねぇ。」
「話は分かった。すぐにメルガレアに・・・町長に報告する。」
そういうとマスターは出て行ってしまった。
「では僕も仕事にでるかな。ナナリに信用できる冒険者を集めて貰っているからねぇ。」
おっと急だな。
「アンドレ先生!ありがとうございました!」
「お忙しいところを僕たちのために・・・ありがとうございます。」
「なにかありましたら西門の衛兵にお声かけください。寝食ともに準備します。」
「君達も頑張ってねぇ。期待しているよ。」
そうして部屋を出て行こうとしたとき、不意に振り返った。
「スヴェン、さっきは悪い事したねぇ。困ったことがあれば力になるよ。」
そう言って何かをこちらに投げた。
「うわっ、えと、ありがとうございます。・・・これは登録証?」
「冒険者学校の名刺さ。連絡手段はそれに書いてあるから。じゃあまたねぇ。」
アンドレ先生は今度こそ部屋を出て行った。
「スヴェンさん、アレクさん。この後どうしましょうか?」
「どうしようかって言っても・・・。何か依頼受ける?それともご飯にしようか?」
ちらりとアレク君を見るととても真剣な顔で何かを考えていた。
「これはグレジオ先生にも言わないとダメかもしれない。」
「確かに。フィールドワークをしている状況ではないかも。」
「ですが精霊イージスとの契約があります。町長の・・・アレク君のお父様が心配です。」
自由研究が春の授業の全部を占めている理由は、精霊イージスへの捧げものとして十分な内容にするためだ。
フィールドワークができないと契約違反になる。
「それは何とかなるよ。町の中できることを探して貰おう。・・・それよりも僕は今の状況がもっと悪いものだと考えているんだ。」
「どんな風に考えているの?」
「親玉級の複数体の同時出現、それも複数種であること。これは人為的なものだと思う。」
「魔族の工作ということですか?それは前に話した時、マスターは違うと判断していました。」
「・・・そうだね。じゃあもう一人意見を聞きに行こう。」
「グレジオ先生に聞くってこと?」
「そうだね。グレジオ先生の意見は貴重だ。」
オレたちはギルドを出て学校に歩き始めた。
「そういえばなんでグレジオ先生なの?」
「グレジオ先生はエルフ族なんだ。前の勇者が生きた時代を生きた人・・・つまり魔族と全面戦争を体験した人さ。」
そうなんだ。・・・いやびっくりするところか!
なんか最近色んな事がありすぎて、驚きどころがわかんなくなってきた。
人物紹介
グレジオ・グレート
オレ達の担任の先生。語尾が伸びる。
博識で優しい。冒険者だったこともあるみたい。
それにエルフ族らしい。
エルフ族
長い時を生きる種族。
すらりとしてしなやかな体を持つ。魔法も得意。
争いごとは嫌いで自分の趣味に生きる人も多い。




