第31話 冒険者学校の教授
「スヴェン君。大丈夫かい?」
「・・・大丈夫じゃない。」
オレは気が付いたらベッドの上に寝かされていた。
二人で運んでくれたのかな。起きてお礼をしないと。
「それにしてもその外套、本当にすごいね。スヴェン君の腕の怪我だいぶ良くなったみたいだ。」
「え?オレ怪我してたのか・・・。」
掛け布団を持ち上げた手は黒い布が巻き付いていた。
この前と同じように怪我を治してくれているみたいだ。
「1回ガブリとやられていました。あんまり無茶しないでください。次は腕が無くなるかもしれませんよ。」
「ごめん、メラニー。メラニーがオレのこと守ってくれてたのなんとなく覚えてる。」
「大丈夫ですよ。でも次ああなったら助けません。」
メラニーはいいやつだから心配してくれているんだろうな。
くそ・・・足手まといだな、オレ。
「前に説明した通り、スヴェン君は一度大怪我をしたことがある。しかも今回もその時と似た状況だ。ああなってしまうのも無理はないよ。」
「トラウマ・・・でしょうね。兵士の皆さんにも似た苦しみを抱えている方がいます。」
「二人ともごめん。助けてくれてありがとう。」
「いいよ。僕とスヴェン君の仲さ。」
「大丈夫ですよ。今は休んでください。」
いいなぁ。これもこんな風になりたいよ・・・。
「スヴェン。体はもういいのか?」
「えと、もう治りました。」
オレは左腕をマスターに見せた。
傷なんて最初からなかったかのような綺麗な肌だ。
「レインの贈り物か。すさまじい力だ。・・・元気ならいいのだ。」
「元気です!」
空元気だ。でもみんなに心配かけるわけにはいかないし、この後の話の方が大事。
「アレク、報告を頼む。」
「はい、マスター。先日洞窟方面で魔香草を採取している際に狼に襲われました。」
「なぜそうなった?あの辺りは森の浅い所だ。狼が群れて現れるところではない。」
「大型動物の咆哮・・・雄叫びが聞こえた後、逃げ出す鹿の群れとすれ違いました。そして怪我をした鹿を追っていた狼の群れに襲われたのです。」
「不運だったな。」
「そうですね。ですが今回で2回目です。雄叫びから狼に襲われる流れまで完全に一致しています。偶然で片付けるのは危険です。」
「確かにその通りだ。メラニー、すまないがアンドレを呼んできてくれ。」
アンドレ?聞いたことのない名前だ。誰だろう。
「アンドレさん・・・は何処にいらっしゃいますか?」
「受付だ。ナナリの傍にいる。」
受付?ということは冒険者なんだろうか。
「アレク、続きを頼む。」
「はい。それで気が付いた点についてーーーーー」
アレク君はあの日起きたことを詳しく説明した。
「ーーーーーそれで僕は魔香草を食べつくした犯人を推測したのですが・・・。」
「アレク、悪いがそこから先はアンドレに説明してくれ。」
マスターがそういうと同時にガチャリと扉が開いた。
「やあやあ、呼んだかいエイデン。」
リュックを背負ったぽっちゃりなおじさんが入ってきた。探検帽がよく似合っている。
正直あんまり強そうではない。
「呼んだとも。紹介しよう学者のアンドレだ。」
「アンドレです。レイヴン冒険者学校で教授をやっている。専門は魔物学そして精霊学だ。以後よろしくねぇ。」
冒険者学校の先生だったのか。よく見ると賢そうな顔をしている。気がする。
「要件は手紙に書いたとおりだ。そしてつい先日、同様のことが起こった。この者たちは当事者だ。」
「なるほどねぇ。子供達が狼に襲われるなんて大変だ。よく生きて帰ってきたねぇ。」
「アンドレ教授。なにかご存じなのですか?」
「ここに来る前に少し森の様子を見てきたんだ。正直あんまり状況はよくないねぇ。」
アンドレ先生がそう言うとめちゃめちゃ不安になるんだけど・・・。
何が起こっているんだろう?
「私から説明する前に、当事者から話を聞きたいんだ。3人共、少しいいかな。」
オレたちはもう一度この前の出来事を説明した。
「ありがとうねぇ。君達の話は大変参考になったよ。」
アンドレ先生は腕を組み少し考えた後、マスターに向き直って言った。
「これ子供の前で話すことじゃなさそうだけど。いいのかいエイデン。」
「契約だ。よろしく頼む。」
「はぁ。イージスねぇ。彼はとても誠実な人柄だけど、”精霊”なんだよねぇ。」
言いにくそうだ。よほど悪いことなのかな。
「ドラゴンが活動期に入った可能性がある。」
なぜ?ドラゴン?何の関係が?
「単純に生息地がずれてきているんだよねぇ。チャート領の平地の森はウインドベア、山の麓から中腹まではアイシクルウルフ、そして山頂付近はワイバーンが縄張りとしているんだよ。」
初めて聞いた話だ。山にはワイバーンが居るなんて知らなかった。
「そして平地は人族の縄張りだねぇ。当然縄張りは被っている部分も多いし、たとえ縄張りに他の動物がいたとしても普通だ。自然は広いからねぇ。」
それはそうだろう。村にウインドベアが出ることもあるし、森に狼だっている。
「問題は縄張りが押し出されるように動いていることだねぇ。」
「なるほど、そういうことだったのか。」
アレク君はわかったようだ。メラニーも苦い顔をしている。
「察しがいいねぇ。町にウインドベア、森に狼、恐らく山の中腹にワイバーンが出ているのだろう。違うかいエイデン。」
「アンドレの言う通りだ。銀クラスの冒険者が山の中腹でワイバーンを見たと言っていた。」
「そうなると山頂は誰の縄張りになったのか。確認しないとわからないが、答えはドラゴンだろう。」
「アンドレ、お前の知識ならドラゴンの個体についても予想がついているのだろう?」
あくまでも推測だからねぇ、と前置きをして少し間を置いた。
「暴竜ガラルグリンド。」
暴竜ガラルグリンドか、オレの良く知っている名前だ。
『物語の勇者』が戦った相手でもある。
だけどそうだとすると気になることがいくつかあるな。
「アンドレ先生!暴竜ガラルグリンドは魔族領にいると書いてありました!」
「おっ、詳しいねぇ。英雄譚では”山越え後すぐに”戦闘となったと記載されている。その山ってどこか知っているかい?」
「えと、知らないです。」
「実はね。チャート領が接している国境の山脈なのさ。」
チャート領で山!っていうと、北?南?と聞かれる。
北は魔族との国境の山脈だ。チャート領の北西部のみ接している。当然危険だから誰も近づかない。
南は他の領との領境となっている山脈だ。生活で利用する森や山は南側にある。
川も南側の山から北側の海に向かって流れている。
危険で険しい北の山となじみ深い南の山。
だけどオレたちが向かったのは南の山なので、さっきの話はやっぱりおかしい。
「おや、納得いかないという顔をしているね。山頂は竜の寝床になっている、これは問題ないよねぇ?」
「はい、わかります。」
「そして暴竜ガラルグリンドの寝床は北の山脈だ。だけど聞いたことあるだろう?ドラゴンは1回の羽ばたきで1ドラメトル(1Km)進むってねぇ。彼の縄張りはチャート領が接する北側の海、チャート湾周辺のすべての山脈なんだよねぇ。」
初耳ばっかりだ。でもそれならドラゴンが空を飛んでいるところを見ていないとおかしい。
「アンドレ教授。ドラゴンは高度な魔法が使えるのですか?」
アレク君は興味津々だ。
「そうだねぇ。私が出会ったドラゴンはまさに天変地異の魔法を使っていたよ。」
ははは、と大きく笑った。
ん?ドラゴンと出会った?
「言い忘れていたがアンドレは金クラスの冒険者で、私の師匠でもある。」
おい、最初に言えよマスター。
「最初に見せると驚かしちゃうからねぇ。」
アンドレ先生が帽子を取ると、赤く短い角が2本生えていた。
「鬼族のアンドレ。今年で120歳。改めてよろしくねぇ。」
うおぉぉ!鬼だ!前世でも見たことないぞ!強そう!
人物紹介
アンドレ
鬼族の120歳。
ぽっちゃりに見えるけど、バキバキのムキムキらしい。
マスターの師匠。穏やかでやさしい。
単語紹介
鬼族
最近人族として認められた種族。
筋骨隆々の体格と角が特徴。




