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第30話 トラウマ

「坊やたち頑張ってるな!お姉さんは鼻が高いぞー!」

「いつもありがとうございます。ナナリさん。」

冬の間はクレームの対応に追われていたけど、最近は元気が戻ってきた。

「・・・受付嬢さんはいつも元気いっぱいですね。びっくりします。」

メラニーは声が大きくてぐいぐいくるタイプは苦手みたいだ。


「今日は時間が余ったね。朝だけで依頼が終わっちゃった。もう一個依頼受けない?」

「僕は大丈夫だよ。メラニー君はどう?」

「私も大丈夫です。そうですね・・・この討伐系依頼はどうですか?」

討伐系依頼・・・。メラニーが参加する前から今まで色々な依頼を受けたけど、まだ一回も受けたことのない種類の依頼だ。

「メラニー君。討伐系の依頼はまだ受けるつもりがないんだ。ごめんよ。」

「そうなんですか?意外ですね。お二人であれば猪や狼の討伐依頼は簡単だと思うのですが。」

「簡単じゃないよ。猪に跳ね飛ばされたり、狼に噛まれれば死ぬ。1回でもね。」

アレク君が真剣な顔つきで答える。

「いえ、理解はしている・・・つもりです。想定が甘いでしょうか。」

メラニー困った様子だ。アレク君はいつも真剣だけど今日のはちょっと怖い。

「ありがとうアレク君。ごめんよメラニー、ちょっと嫌な経験があってさ。」

オレは薬草採取の途中に狼に襲われて死にそうになったこと、レイン様に助けてもらったことを説明した。

「スヴェンさん・・・あの時休んでいた理由はそれだったのですね。」

「今は元気だから気にしてないよ!」

「しかしそれほどの大怪我であれば一夜で治るとは思えないのですが・・・。」

「えーっとそれはね。超すごい装備のおかげなんだ。」

オレは外套を見えるように意識を向けた。

最近はもう慣れてしまったが脱げないので風呂のタイミングでも着たまま入っている。

「空中から現れるなんて・・・これはスヴェンさんの魔法ですか?」

「違うよ。なんか元々そうなんだ。脱げないし。」

「試してみてもいいですか?」

メラニーが外套を掴もうとした瞬間、すっと薄くなりメラニーの手は空を掻いた。

「これは・・・魔法装備(マジックアイテム)には間違いないですが・・・。」

「メラニー君。僕も色んな”なんで”を考えたけど答えは出なかった。わかるのはレイン様だけさ。」

「そうですね。一旦忘れます。」

なかなか話すタイミングがなかったけど、今日話せてよかったと思う。

パーティの仲間だしね!

「では今日は別の依頼にしましょう。」

「ちょっと待ってメラニー。討伐系の依頼受けようよ。」

「スヴェン君。また危険な目に合うかもしれないよ。」

「それは大丈夫だよ。体力もついたし、魔法の練習もしたし、背も伸びたし。」

「なんだか不安になってきました・・・。」

「あれ?どうして?」

「じゃあ今日は薬草採取にしようよ。慣れてるし、稼ぎもいいからね。」

メラニーにも反対されてしまった。いけると思うけど・・・ダメかー。

「そうしましょう。ではナナリさん。薬草採取の依頼を3人でお願いします。」

「はいじゃあこれね!坊やたち怪我するなよー!」

でも依頼を受けたからにはしっかりやるぞ。

今日の薬草は魔香草か。春先に生える背の高い植物だ。

どこにでも生えるけど、どちらかというと湿った場所や暗い場所に生えている。

「目標は森の水辺か洞窟かでしょうか。」

「そうなると洞窟だよね。」

「水辺は動物が多くて危ないからね。洞窟の周りの湿った場所を探そう。」

洞窟は森と山の間の山肌が崩れた部分にある。

普段は森より危険だから近づかないけど、水辺よりは安全という考えだろう。

オレたちはササッと準備して洞窟に向かった。



「・・・というわけで到着!」

「日陰の部分を3人で回ろうか。安全が確認できたら少し広がって探そう。」

「わかりました。ではあちらから周りましょう。」

魔香草は背が高いから遠目でも見つかるだろう。


「全然ない!なんで?!」

「他の冒険者に採られてしまったのでしょうか。」

「せっかく来たのに!無駄足だよ!」

「・・・スヴェン君。これ見てよ。」

アレク君が地面にしゃがみ込んでいた。

何を見ているんだろう。

「どうしたの?もしかして魔香草見つけた?」

「実はそのまさかかもしれないね。これを見てほしい。」

あれ、冗談のつもりだったのに。

これは、何かに食べられた植物の後だ。これがどうかしたんだろうか。

「何かの食べ後だね。動物が食べた後だよ。」

「アレクさん、スヴェンさん。これ魔香草の茎とか根の辺りに似てますね。」

メラニーが資料と見比べて確認をしている。

気が付かなかった。見せてもらうと確かに似ている。

「魔香草が動物に食べられたってこと?魔香草をわざわざ食べる動物はほとんどいないよ。」

「スヴェンさん。食べる生き物は魔物ということですか?」

「えと、そうなるね。ウインドベアとかも食べるけど、背が高いからわざわざ採ったりしないよ。木に登って木の実を食べるか、地面にある食べ物を掘って食べる方が多いはずだね。」

特に畑が荒らされから村ではすごく嫌われている。

「僕の知識だと、この辺りの魔物は他にスライム系か狼系しかいないはずだよ。」

「うん。オレもそれ以外に思いつかない。どっちかというとスライム?洞窟も近くにあるし。」

「その痕跡は少し探したんだ。でもスライムは痕跡をいっぱい残す生き物だからね。移動するときに草木を押しつぶすし、落ちた粘液が固まっていることがほとんどらしい。でもそれは見当たらなかった。」

「嫌な予感がします・・・。退却しましょう。」

「そうだね。この辺りにもう回復草はないみたいだし。帰ろっか!」

オレたちは諦めてギルドに戻ることにした。

そろそろ日も傾いてきたし、帰るころには夜になっているだろう。

「スヴェン君。メラニー君。僕もう一つ魔香草を食べる魔物に心当たりがあるんだ。」

何かを考えていた様子だったけど、突然話始めた。

「気になりますね。教えてください。」

「もしかして、親玉級のウインドベアなんじゃないかな。」

それはオレも一瞬考えた。多分メラニーもそうだ。

「親玉級って体が大きいから魔香草は食べれる高さだと思う。でももっと食べやすくてお腹がいっぱいになる食べ物が他に沢山あるよ?わざわざ魔香草を食べるのかな。」

「スヴェンさんと同じことを考えていました。親玉でなくとも体の大きなウインドベアは魚を捕ることも多いと記載されていましたね。親玉級になるには魔鉱石を食べることが条件なんですよね?」

「二人の言う通りだと思う。ごめん、忘れてほしい。」

親玉級のウインドベアについては結構調べているから、もしかしてそうなんじゃないかってなる気持ちはよくわかる。

「とにかくギルドに帰って依頼の期限を延ばせるか確認しないとねー。」


それは突然だった。

『グオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!!!!』

それはオレの人生のなかで一番嫌な音だった。

「アレクさん!これはなんですか?!」

「聞いたことがない雄たけびだ!でも多分これは・・・。」

「前に聞いたことがあるよ・・・。レイン様と一緒に薬草採取に来た時だ。」

心臓が高鳴る。この前は雄たけびの後に確か鹿の群れが来て・・・。

「この足音は・・・鹿の群れですね。声の方から逃げてきたのでしょうか。」

メラニーが森の方角を指さす。やばい、そうなると次は・・・。

鼓動が早い・・・止まらない・・・体が熱くなる。

「スヴェン君!大丈夫?!体が熱くなっているよ!」

来る・・・感じる・・・あいつらだ!

「あれは、鹿が怪我をしていますね。血が出ています。」

「それはかなりまずい!捕食者が寄ってくる!スヴェン君立てる?逃げよう!」

アレク君の大声が遠くに聞こえる。

「・・・あいつらはもう来ているよ。そしてより簡単な獲物を見つけた。」

「この音は・・・恐らく狼、複数います。アレクさん、指示をください!」

「もう囲まれたのか。不用意に動かず待機だ。まずは状況を正確に把握しよう。」

3匹・・・4匹・・・もう少し動いてる。

「メラニー君。一匹こちらに出てきたよ。気を引きしめて。」

「はい。・・・思い出せ、狼は複数で狩りをするから別々に仕掛けてくる。音を聞き逃さなければ大丈夫。勝てる相手だ。」

前は負けたんだ。負けて死にそうになった。

今度は負けない、怪我もしない!勝つのはオレだ!

「スヴェン君!危ない!座っているんだ!」

「スヴェンさん!やめてください!」

二人の声はもう聞こえていなかった。

「かかってこいよ!オレが!全員!焼いてやる!」

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