第25話 精霊イージス
「お父様はあの後役所に技師を呼んで何かを作っていたよ。」
「へー。何ができるんだろうね?」
オレ達は日課の除雪依頼を済ませてお昼を食べていた。
「さあね。1週間後の昼までには間に合わせるつもりらしいよ。」
・・・アレク君の様子が変?
「アレク君なんか嫌なことでもあった?」
「いいや。何もないよ。」
おかしい。こういう質問をするとアレク君はオレが納得しそうな理由を説明してくれる。
最近あった特別なことは・・・前の会議ぐらい?
でも何か嫌な事なんて無かったけどなー。
「でもすごいよねアレク君のお父様は。オレ達の話を真面目に考えてくれるなんて。」
「・・・そう?お父様は新しい事が大好きだからね。」
ん?もしかして子供会議が途中で止められた事に怒ってる?
いや拗ねてるっぽい。超レアだ。
「最後まで会議やりたかった?」
「・・・あれはスヴェン君の案だ。それに僕達でも結論が出せたはずなんだ。」
「えと、オレは限界だったよ。」
「スヴェン君がいいならいいけど・・・。」
納得してませんって顔に書いてある。
「オレはこの雪がどうにかなるなら全然。」
「わかったよ。この話はおしまいだね。」
アレク君は自分で色々やりたいから、途中までじゃ満足できなかったんだな。
1週間後の昼過ぎ、イージス町の住民全員に中央広場に集まるよう呼びかけがあった。
そこには穴の空いた1mくらいの筒状のものが大量に並べられていた。
「なんだろうねあれ。アレク君わかる?」
「あれはパイプだろうけど、穴が空いているね。」
「あれを繋げて水を送るのか。」
「そうだね。でもそんなに単純な話なのかな。」
アレク君には問題が見えているらしい。
「イージス町民の皆さん!案内に従ってこのパイプを運んでください!今日が沈むまでに必ず終わらせます!ご協力ください!」
おっと役所の人から声をかけられた。
何が起こるかわからないけれど、この量のパイプを運ぶのは大変だ。
とにかく言われた通りに動こう。
「あ、これ捻ると簡単にはまるね。思ったより組み立てが楽そうでよかった。」
「反対に外すのは工夫が必要だ。簡単には外れない仕組みだね。」
しばらく経って、辺りを見渡すと大通りだけじゃなくて細道の方にもパイプが広がっていた。
結構頑張ったな。日が沈む頃には出来上がっているかも。
日が沈み火の光が辺りを照らし始めたころ、オレは休憩のために中央の広場に戻った。
そこでは暖かい飲み物や食べ物が配られていてようやく一息つくことができた。
「お疲れスヴェン君。お父様から役所に来るように申し付けられたんだ。動けそうかい?」
「ああ、うん。行くよアレク君。」
まだ後一仕事か。もうそろそろ眠たいな。
「皆さん!本日はお疲れ様でした!外にでていると危ないので必ず建物の中に入ってください!」
パイプは完成したんだ。そうなるとまた別の仕事?
「そんな顔しなくても大丈夫。お父様は完成品のお披露目をするつもりなんだ。」
「ああ、そうなんだ。そうするとメラニーとアロナも呼ばれてそうだね。」
役所につくと思った通りメラニーとアロナがいた。
二人とも疲れた顔をしている。
「アレクさん、スヴェンさん。今日は大変でしたね。」
「お疲れメラニー君。今日は手伝ってくれてありがとう。」
「・・・なんで私まで呼ばれているのかしら。もう家に帰りたいんだけど。」
「それはオレもだよ。目を閉じたらここで寝れそうだ。」
「いいわよ。朝になったら起こしてあげるわ。」
「まあまあ、今日は特別なものが見れるそうですから。」
「皆、お父様達がいらしたよ。」
アレク君の声かけでオレ達は背筋をピンと伸ばす。
そこに町長と・・・何か光るものを持った人たちがやってきた。
「子供達よ、まずは礼を言おう。この町を挙げての一大イベントは君達の発案から始まった。」
「身に余るお言葉をいただき恐縮です。」
アレク君が答える。
「今回の件、君達には説明が必要だと思ってな。」
そして町長は光るものを指さしてオレの方を向いた。
「スヴェン。これが何かわかるかな?」
「えと、わかりません。」
「ふむ。これは魔鉱石だ。魔族領が特産の魔力の元が凝縮された石で、工夫をすれば魔法装置の持続的な動力とすることができる。」
へー。つまり電池ってことかな。
「この一際大きな石は吸魔鉱石という。こちらは魔力の元を取り出すだけでなく、魔力を込めることで再び使用することができる。」
はいはい。充電式の電池ね。
「そしてこれを見てほしい。」
町長はオレ達が繋げたパイプと同じものを持ってきて説明を続けた。
「このパイプの中には銅線がいくつか入っていてな。熱を伝えることでパイプの中の水が凍らないようにしできる。」
もしかして難しい話か?ダメだ、絶対寝る自信がある。
「・・・すまない。要は水を凍らせずに町中に送ることができる。」
「すごいですね!」
「・・・持続的に水を出し続けることについては問題解決だ。では町の外にどう送るかを教えよう。」
町長は何かを唱える黒いもやもやが辺りに広がった。
少しすると徐々に集まり、人の形となった。
大きいな。3mぐらいあるかも。
「彼は精霊のイージスだ。この町と契約していて対価と引き換えに力を貸してくれる。そして・・・彼は魔族でもある。」
「魔族ですか?!」
心臓がきゅっとなる。授業で魔族とは何百年と戦っている相手だ。
これが魔族か・・・ちょっと思ったのと違うかも。
「魔族とは呼ばないように。我々は精霊だ。」
しゃべった。なんかこう、頭の響く感じだ。
「すまないイージス。アレク、魔族の定義とは何か。」
「はい。知性を持った肉体に主体を置かない生物のことです。」
「よろしい。イージスは肉体を持たない魔力で構築された生命体だ。ゆえにある見方をすれば魔族になる。しかし彼ら精霊は契約を守れば誰に対しても平等だ。これを忘れないでほしい。」
・・・つまり魔族でなくて精霊なんだな?
なんのために魔族の話をしたのだろう。
「スヴェン君。他の人には秘密ってことだよ。」
え?そうなの?でもアレク君が言うならそうか。
「メルガレア。早く要件を言え。」
「待たせたな、契約だイージス。冬が終わるまでの間、町の道路にある水を東門に向けて流れるようにしてほしい。」
「いいだろう。では対価だ。次の冬まで町をお前達の手で守れ、あらゆる脅威を町に入れるな。」
「心得た。では契約成立だ。」
その言葉を聞くと精霊は薄くなり消えてしまった。
なんというか、大雑把な契約だな。
それより精霊がいるなら今回の話は最初から精霊に任せればよかったのでは?
「ねえアレク。最初から精霊様に任せておけば私達必要なかったでしょ。」
アロナが先に言ってくれた。
「そうだね。でも契約の対価は精霊の言い値で決まるんだ。」
「なるほどね。じゃあ雪をどうにかしてくださいとはお願いできなかったのね。」
「ああ、では僕らがここに呼ばれた理由はそれですか。」
あれ?オレだけがよくわかってないな。
「子供達よ、その通りだ。一度精霊には契約を断られた。そこで別の条件を出したのだ。『町の子供が雪の問題を解決する案を出す。』代わりに『その案に可能な限り協力してくれ』とな。」
「お父様。なんという無茶な契約をされたのですか。」
アレク君は顔が引きつっていた。
「イージスは対価に町の守護や成長を要求する。ゆえに対価を先に支払うことで次の契約の対価を軽くしたのだ。」
「そうではなく。お父様は死んでいたかもしれません。契約不履行は命で償うはずです。」
なんだそれ!オレ達町長の命かけた会議させられてたのか。
めちゃくちゃだ!あまりにも大胆すぎる。
「アレク、お前やその友人ならば何か解決案を考え付くと確信していた。」
そう言って町長は辺りの人を連れて役所に戻ってしまった。
「アレクさんは今回の件の詳細はご存じなかったんですよね?」
「もちろんだよ、メラニー君。」
「ぶっ飛んでるわね。子供のままごとに命かけるなんて。」
「オレもびっくりだよ。でもこれだけ頑張ったし、明日からは楽になるといいな。」
驚くような話もあったけど、今日は疲れたし寮に戻って寝よう。
用語辞典
人族
知性を持った肉体に主体を置く生物。
肉体に主。魔法は個体差や種族によって大きく差がある。
魔族
知性を持った肉体に主体を置かない生物。
魔力の体が主。肉体は個体差や種族によってあったりなかったり。
人間
王国のほとんどを占める種族。
魔物
魔法が使える動物。




