銀の槍のレイン様
銀の槍のレイン様 最近はそう呼ばれる。
金クラスで、チャート領にお呼ばれされた敏腕冒険者。
それが今の私だ。
連絡など寄越したことのない”偉大な”母から、私宛に手紙が届いた。
嫌味だろうか。手紙など使わずとも楽な方法など、万通りから選べただろうに。
手紙には季節の挨拶と私の体調を案ずる内容、そして”お願い”が書かれていた。
万回使われた形式には意味がなく、要は"お願い"を遂行しろということだ。
人生で一番気が乗らない依頼だが、無視する選択肢は存在しない。
私はため息をついて準備を進めた。
イージス町に到着し、領主には『森に現れた新種の魔物について調査』に来たと説明した。
領主からは改めて、滞在費・調査費を全て負う代わりに早急な解決を依頼された。
滞在の理由を手に入れた後は簡単だ。
昔なじみの教師に声をかけ、新入生の名簿を借り目標の名前を確認する。
「スヴェン・ツオイス」
居たな。待つのも面倒だ、直接赴くか。
そう思ったが、昔なじみに捕まり”つもる”話を連日聞かされたのは計算外だった。
昼間は体裁として森の調査を行うため、夜の時間を奪わないで欲しいが・・・仕方がない。
しばらく待てば向こうからこちらに来るのだから誤差だろう。
それに気になることもできた。アレク・イージスの存在だ。
彼の才能は驚異的だ。正に『今代の勇者』になる男だと感じた。
アレクは何を教えても呑み込みが早く、1週間で昔なじみの言う1年分の内容を覚えてしまった。
剣技や魔法も見せれば覚えるし、応用もできる。
今年で10歳になるとは思えない人格に、心の底から驚いた。
私は”役目”を果たす時が来たのだと確信した。
持ちうる技と魔法のすべてをアレクに教え、冒険の思い出を語った。
アレクが入学して1か月も経つ頃には教えることは、何も無くなった。
後は体の成長に伴い、アレク自身が完成させるだろう。
最後に昔使っていた剣をアレクに贈り、私は”役目”を終えた。
しかし”お願い”は遂行しなければならない。
私はアレクにスヴェンを連れ立ってギルドに来るように誘導し、魔法を使ってスヴェンに薬草採取の依頼を受注させた。
後はテレポートで人気のない森に連れて行き、母からの用件を伝えるつもりだった。
だがどうしてもスヴェンのことを試したくなった。
アレクが友人だと言うスヴェンの才能を確認したくなったのだ。
後は・・・母がスヴェンを気に掛けるその理由が知りたかった。
私は調査対象でもあった森の魔物を弱らせ、暴れさせた。
そして狼をスヴェンの方に追い立て、経過を観察した。
予想通り狼の群れとスヴェンが対峙することになった。
若い群れだ。新米冒険者でも十分に対応できる算段だった。
例えば、アレクなら一呼吸で仕留められる相手だと。
だが結果はそうではなかった。
スヴェンは子供だったのだ。当然のことだ。
子供の力ではどれだけ切れるナイフでも毛皮を貫通できなかった。
ましてや群れを相手にすることなどできるはずもない。
誤算だった?いやちがう、”計算通り”だ。
自分の欲が今からスヴェンを殺すのだ。
その事実が思考が鈍らせ、反応を遅らせた。
私が動き出した瞬間にはスヴェンは血を吹いて倒れていた。
スヴェン自身が魔法を行使できていなければ、間違いなく死んでいただろう。
スヴェンの行使した熱魔法は、一帯を木が燃え出すほどの高温に晒した。
結果、狼を倒し一命を取り留めた。
私はスヴェンに近づき魔法で傷口を塞いだ。
そして・・・彼に母からの贈り物である”黒い外套”を被せた。
「これはお前のものだスヴェン。私の母からの贈りものだ。大丈夫だ、必ず助かる。」
そう自分に言い聞かせ、私はスヴェンと共にテレポートした。




