第1話 船上にて
国語の教科書とかに乗ってる魯迅の「故郷」の
オマージュバトル小説です。
ギャグにしてはだいぶ内容が深いですし、真剣かと
言われれば、設定がバカすぎるのでNoです。
当然魯迅さんは関係ないですし
敵はだいたい自分のオリキャラです。
故郷ガチ勢の方は閲覧をお控えください。
ちとグロいので苦手な方もお控えください。
それでは、どうぞ!
ズドンッッッッッ!!!!!!!!!
水上の静寂を切り裂く轟音で私は飛び起きた。順調に思えた船旅は、突如として終わりを迎えた。念の為自分の得物であるハルバード(鈎、斧、槍がひとつになったような形状をした、15世紀頃の西洋で流行った武器)を持ち、船内の寝室を出る。そこには操船士の屍の腕を縛り上げ、胴乱のごとく持った、大柄の老人とその取り巻きらしい男2人が立っていた。
「私は木落。ホンルを置いていけばお前とお前の母親は見逃してやる。」
老人は鋭く、それでいて深みのある眼で私を見つめ、静かに呟く。私の甥になんの用があるというのか。ひとまず戦況を確認するため私は周囲を俯瞰する。まず、ムールゥオと名乗る老人。明らかに80代は超えているがそれを感じさせないオーラを纏い放っている。得物は剣1本。無駄と隙が一切見あたらない。次にムールゥオの右隣。細身だが戦闘において
筋力が無いことは必ずしも弱点にはなり得ない。筋肉は脂肪よりも重く、高速移動をする際の障害にしかならない。得物は短剣二刀流。もちろんその意図があっての細身だろう。最後にムールゥオの左隣。細くも太くもない街で出会っても強さは感じられないような青年だが問題はその得物だ。彼の得物はバルディッシュ。バルディッシュにも色々あるが、彼のそれはハルバードから槍の機能を無くし斧を伸ばしたような形状だ。
「どうした?はやくホンルを出せ。」
「ひとつ聞いても?」
ムールゥオの催促に私は問う。
「なぜホンルが欲しい?ホンルはただの少年だ。」
「首領からの指令だ。私もよく分からないが
ホンルはいずれ世界を滅ぼすそうだ。」
「世界を滅ぼす?ホンルが?有り得ない。」
「私も同感だが首領の指令には逆らえない。いい加減ホンルを渡さないのなら、力ずくで貰うぞ。」
背後から物音。振り返るとホンルと母もこの物音で起きたようだ。
「ホンル、母さん聞こえるか?絶対に出てくるな!」
「どうやら本当にホンルを渡す気はないようだな。」
「渡さない。欲しけりゃ力ずくでやってみろ!」
「......残念だ」
ムールゥオがそう言うと同時に両隣の男達が突っ込んでくる。
が、2人の相性は最悪だった。
あちこちを動き回り私を翻弄したい短剣の男に対し、
バルディッシュには基本大振り以外の選択肢が無く、
どちらも好きなように動けない。バルディッシュの男が攻撃する際、射程内に短剣の男がいれば、短剣の男も巻き込まれるため追撃ができない。逆も然り。短剣の男が私に攻撃している時バルディッシュを男が追撃すれば、当然短剣の男も巻き込まれる。条件次第では負けるかもしれないが、ここは狭い船上。つまり、私は1人づつ丁寧に潰せば良いだけの話だ。ハルバードとの相性を考えると、自由に動けると手強いのは素早い短剣の方だ。ならば自由に動き回れないうちに短剣の男を潰すのが得策。そう考えた私は短剣の男を先に潰すことに決め、短剣の男が射程内に入ってきたことを
確認し、間髪入れずに全力でハルバードを振った。
バシュッッッッッッッ!!!!!!!!!
一瞬だった。
短剣の男の身体の半分は吹っ飛び、内臓は飛び出し、ピチャッという甲高い音と共に、男の屍は倒れた。その光景を見ても全く動じないムールゥオに対し、バルディッシュの男は腹の底から大声で咆哮した。人間、恐怖に怯えきると大声で脳を騙す。某賭博漫画の鉄骨渡りでそうだったように、だ。しかし騙された脳が極限状態で適切な判断を下せる訳も無く、考えもなしに私に突っ込んできた。
「待て!!」
ここまで静観を決め込んでいたムールゥオが叫ぶと、思い出したようにバルディッシュの男の動きが止まった。
「お前独りでこの男にかなうとでも思ったか?自惚れるな!」
「失礼しました。ではムールゥオ様、共にたたk...」
フォンッ
という風を切るような音がしたかと思えば、目の前にはバルディッシュの男の屍が転がっていた。
「共闘なんてものは足の引っ張り合いだ。私は常に独りで戦い、独りで勝ってきた。最後の勝負だ!」
今まで敵ながら感じていた優しさのようなものが一瞬にして消え去り、決着をつける時が来た。ハルバードと剣の相性は可もなく不可もなくといったところか。
ムールゥオは姿勢を低く保ち剣先を私に向ける独特な構え。対して私は斧を主体とした戦い方から槍を主体とするためハルバードを持ち替える。お互いの準備が整ったことが、戦闘開始の合図だった。先手を取ったのは武器の特性上ムールゥオだ。地面を強く蹴り、ドンッ!と聞こえた一コマ後目の前に切っ先。
フォンッ
バルディッシュの男を切った時と同じ音がした。
間一髪で避けた私はすぐさま反撃に移る。
バチィィィ!!!
私の突きをムールゥオは剣の面ではなく線で受け止める。怖くないのだろうか。
私はハルバードを回転し、斧で2撃目をいれる。そのはずだったがムールゥオは既に背後にいた。
ブォンッ!!!!!!!!!
今度は違う音、重い感じだ。
掠っただけでうなじの辺りから多量の血が出てきた。
ムールゥオは私の正面に再び現れ、あの構えをする。
そしてもう一度目の前に切っ先。
私はまた反撃。
バチィィィ!!!
最初と全く同じ局面で私はまたハルバードを回転。しかし、今度は逆回転で鈎を使う。私は鈎先を地につけ膝で支点を創る。そして持ち手を押し込み、てこの原理で鈎を高速で持ち上げムールゥオの右脚踝の周辺の裾の部分に引っ掛ける。そのまま一気に手前に引くと、ムールゥオの重心は当然左脚に集中する。
刷り込み効果というやつだ。
先程の局面。私はハルバードを回転し斧で戦った。そこでムールゥオに、私は鈎を扱うのが苦手だと刷り込んだのである。左側に身体全体が傾いているムールゥオは、必ず身体を中心に戻してくる。そう考えた私は迷いなく、現時点では虚空の、直立状態でのムールゥオのみぞおち辺りに槍部分を突き刺した。
ドスッ カンッ
普通の鈍い音の直後に硬いものどうしがぶつかりあった時の鈍い音がした。
私の予想通りムールゥオを身体を中心に起こし、ハルバードの槍部分はムールゥオのみぞおち辺りにしっかりと突き刺さっていた。感触からするに、カンッという音はムールゥオの脊椎に槍が当たったのだろう。私はムールゥオの体内で槍を動かし脊椎を避け、船の床に槍を突き刺し、ムールゥオの身体を固定する。そして転がっているバルディッシュを拾い上げ、ムールゥオの喉仏辺りに一閃。さっきのうなじのお返しだと言わんばかりに。
その際ムールゥオの遺した「...ウ様」という言葉に
若干の違和感を覚えつつ、私はホンルと母を呼ぶ。
「ホンル、母さん、もう出てきて大丈夫だ。この船はもう使えない。この辺りは街も近いし船がよく通る。次通った船に乗せてもらおう。」
今船上で起こっていたことを母やホンルに話しながら待っていると、20分ほどで街方向へ進んでいく船が通りかかった。
「おい、そこの船。私達を街まで連れて行ってくれないだろうか?もちろんタダでとは言わない。」
私が言うとその船の主人らしき人物は快く受け入れてくれた。その船に飛び移った際の振動で目が覚めたのか寝室から、つい9日前までの私のストレスの源だったコンパスが出てきた。これは幻覚だろうか?確かにうなじの傷で意識は朦朧としているからその可能性が
無きにしも非ずと言ったところか。この船旅はまだまだ終わらないと悟った私は、敵意が無いことを示すため、船の主人に断り寝させてもらうことにした。