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天体観測  作者: TADASHI
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ミルキーウェイ

 大河の縁に作られた祭壇。

 悠久の刻を経て今まさに朽ち果てようとする祭壇に、何人もの人が提灯を持ちより、それぞれが今まさに持ち場についた。


「首が1つ多いようだが。同志よ」


 白い衣装を着た女が男に尋ねる。


「此奴は口を割らなかった。よって処罰した」


 男は抑揚のない声で答えた。


「そうか。苦労をかけたな」

「いえ、これも大河の導きです」


 そして高らかに女は受け取った首を掲げた。


「諸君!これが見えるか!」



 駆けつけた諸侯に動揺が広がる。



「おお」

「偉業ではないか」

「やはり采女は素晴らしい才能の持ち主じゃのう」

「まさに」



「これが裏切り者、牽牛と鵠星の首である!」



「我らはこれより天帝の意に逆らいし極悪人の首を差し出し!一方を贄にすることによって天帝様のお怒りを収める。翻意はないか!」



 采女と言われた女は辺りを見回す。



「おお!それは素晴らしき儀ではないか!」

「ぜひとも、ぜひともお願いいたそう!」

「善は急いだほうが良い!」



「では!天帝よ!この首が見えるか!」

「そこまで言わなくとも、朕には見えておる」


「な!天帝様!」

「天帝様がお見えになったぞ!」

「これで我らは救われた!」



 諸侯は全員が振り返った。


 いつの間にか後方に荘厳な龍が天を泳いでいたのだ。



「で、では…」

「朕は失望した」

「え…」


「な、なぜ!」

「裏切り者の首を用意したではないですか!」


 諸侯の言葉を深く聞いた龍は答えた。


「身を呈して友である牽牛とその妻の織女を守った鵠星は当然のこと。お主らの言う”裏切り者”の牽牛でさえ、朕は怒っておらぬ」

「え…」

「確かに牽牛は牛を守らなかった。だがそれは織女が倒れたからだ」


 諸侯は静まり返った。龍の深い声だけが場を支配する。


「だがその牛を鵠星は責任をもって代わり飼い、勤労の放棄の罰によって牽牛夫妻は年に一回しか会っておらぬではないか」

「し、しかし天帝はお怒りに」


 その諸侯の一言で天帝の雰囲気が変わる。


「だれが朕が怒ったと言った」

「い、いえしかし…」

「そもそも努力しない者が悪いというのはうぬらが勝手に決めただけであろうが」


「どうしても努力ができない者、それに相応する理由がある者が勝手にうぬらに悪者にされているだけであろう」


 天帝は静かに怒っていた。

 それを感じ取った者は黙ったが。感じ取れない者は無粋な質問を続けた。


「で、ではなぜ奴らの逢瀬のために七夕で我らの大河をお止めになったのですか!」

「我らの大河ぁ?」


「だれがお主らの大河だと言った!」


 天帝ははじめて声を荒げた。


「そもそもこの自然全てが朕の物であろうが!自然はうぬらのために作られたものではないぞ!人間共よ!森羅万象の全てが生きる場所であるこの場所を自分の物呼ばわりとは勘違いも甚だしい!現にこの河も”天の川”であろうが!朕はあやつらが逢瀬出来ぬようにああしたまでだ!」

「うっ…」


 問答を横目に見た采女が天帝に話しかける。


「しかし我らにとっても調和を乱す奴らを罰せねばならないのです!」

「ほう、そのわけを聞こうではないか」


「奴が牛を飼うことを放棄したことで我らに牛の乳は届かず、布も届かなかった!」

「だからそれはうぬらが朕に裁定を仰ぎ、朕は罰を与えたではないか」


「しかし…」

「朕に逆らうというのか」

「しかし、承服できません!」


 龍はその長い首を完全に采女のほうへ向けた。


「ではお主よ、今朕に死ねと言われたら死ぬか」

「え…」


「あやつらにとって、二人が二度と会えなくなることは、お主にとっての死と同じだったと言うことだ」


 そして龍は目線を祭壇に向ける。


「見よ。首が飛んでおるぞ」



 祭壇からは朱く燃えた二つの首が飛ぶ。



 それはいつしか青白く光り、鵠星は楼閣の上に折りたち、牽牛は自分の体に戻った。

 そして織女は体とともに水によって対岸に寄せられた。








 上を見上げてみれば、今も彼らはこちらを望んでいる。



 大三角は、まだまだ光り続ける。

これにてこの物語は完結となります。至らぬ点も多くあり、テンポも悪い小説でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。


これからはこういう読み切りみたいな感じのも月イチのペースで出せていけたらなと考えております。


少しでもこの小説が良かったな、と感じていただけましたら下の☆マークでお知らせしていただくととても幸いです。


ありがとうございました。

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