ハイジマ ミサキ
裏庭で、変な子に会うた。
呼び出しくらって、髪引っ張られて。
大丈夫かて聞いたら、キョトンとして俺を見て。
ちぐはぐな返答して。
それから、笑った。
笑った顔がえらい可愛い、変な女の子。
***
「へー。ショーコちゃん言うん」
「そう、です」
隣にちんまり座る女の子はコクンと人形のように頷いた。
長い髪も手伝って、まるで日本人形みたいやと思う。
いつもの俺一人の領域にスルリと入り込んできた女の子。
ミーハーに近付いてくる女と違うて、この子には不思議と嫌悪感がない。
「俺、灰島岬」
「知ってます」
「へ?なんで?」
「シラ…、クラスメイトが教えてくれて」
シラ。
白井命。
知っとる。
俺的にかなりの要注意人物。
人形みたいにえらい整った顔した男。
――ねえ。灰島岬って、君?
――年上のクラスメイトに興味があってさぁ。
――俺シラ、白井命。仲良くしようね。灰島君。
いきなし俺の前に現れて、言うだけ言って去って行った妙な奴。
友好的な言葉と笑顔。
やけど、あの目は笑っとらんかった。
まだ色濃く残った奴の目を振り払おうと俺は空を見上げた。
ああ、振り払うはずだったのに。
なんで、見てしまうんかな。
「シラて、白井命?」
「え?何で」
教室の窓際に白井命が佇んでいた。
距離はあるが、寒気がするほどの視線。
いつからみとったんや?
俺を?
いや、もしかして。
あいつが見とんのは・・・。
予感とともに横で不安げに俺を見る女の子と視線を合わせる。
「俺、クラスメイトやし」
「え?でも」
もごもごと言いづらそうにするショーコちゃん。
何となく、この子の言いたいことを理解して、俺は襟足をかいた。
「あー。俺ダブりやねん」
「あ」
ますます気まずそうに視線を泳がすショーコちゃんに思わず笑ってしもうた。
ほんま、顔によう出る子やね。
「ちょっと病気しとっただけや」
「病気」
「なまぐさ病。現在進行形」
病気という単語に、さっと心配そうに顔を歪めるショーコちゃん。
コロコロとよく変わる表情に和みながら、彼女の頭をわしわし撫でた。
素直でわかりやすい子は好きや。
反対に、何考えとんのか分からん奴は嫌いや。
ちらと見上げる。
「おっと、こっわ」
白井命は笑っとった。
殺気の籠もった目を向けてきながら。
何やあれ。
ほんま、怖いわ。
ぱっと、ショーコちゃんの頭に乗せていた手を離す。
ああ、これで確信が持てたわ。
彼奴が執着しとんのは、隣に座る素直な女の子。
「きみも、えらい大変そやね」
不思議そうな顔をするショーコちゃんを横目に、奴の姿の無くなった教室の窓を見上げた。
***
ショーコちゃんを教室にかえし、俺はそのまま堂々とサボりながら目を瞑って風の音を聞いとった。
ざわざわという音に混じり、砂を踏む音がする。
それは、丁度俺の目の前で止まった。
ああ、やっぱり来おった。
「灰島くん。あの子のこと気にいっちゃった?」
低く通りの良い声が響いた。
俺はなおも、瞼を下ろしたまま。
白井は構わず喋り続ける。
「だめだよ。あの子は。あの子はあげない」
耳の側で囁かれてゾワっとした。
こどもみたいに拙い言葉。
せやけどコレがコイツの一番の本音なんやってわかる。
コイツはやばい。
体中に感じるコイツの乱気。
警鐘ががんがん頭に響く。
おいおい。こんな奴やったんかいな。
やっかいなんに目つけられたわ。
こんなんに執着されて、ほんま気の毒やショーコちゃん。
「でもま、灰島くんなら大丈夫か~」
はよ、どっか行け、と心の中で悪態を付く俺をよそに、白井は軽い声を出した。
クスクスと笑みを含ませた言葉。
「だって」
「欠陥品だもんね?」
ケッカンヒン
欠陥品
かっとなった。
気が付いたら、起き上がって奴の胸倉を掴んどった。
頭に血が一気に上って、耳元でドクドクうるさい。
動揺した。
触れられたくないモノに素手で鷲頭かまれた。
「てめぇ。もういっぺん言うてみぃ」
「あ、やっぱり起きてた」
ぎりりと睨み付けても、何処吹く風のヘラリとした笑顔。
確信犯かい。
ますます嫌な奴や。
ぎりっと拳を握った。
「あー。駄目駄目。俺平和主義者だし。それにさ~」
胸倉を俺に掴ませたまま、白井は人差し指で俺の左胸を軽く突いた。
「そんなに興奮して心臓、大丈夫?」
ほんま俺、こいつ嫌いや。