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white&gray  作者: 空野みち
4/5

ハイジマ ミサキ

裏庭で、変な子に会うた。

呼び出しくらって、髪引っ張られて。

大丈夫かて聞いたら、キョトンとして俺を見て。

ちぐはぐな返答して。

それから、笑った。


笑った顔がえらい可愛い、変な女の子。



***


「へー。ショーコちゃん言うん」


「そう、です」



隣にちんまり座る女の子はコクンと人形のように頷いた。

長い髪も手伝って、まるで日本人形みたいやと思う。

いつもの俺一人の領域にスルリと入り込んできた女の子。

ミーハーに近付いてくる女と違うて、この子には不思議と嫌悪感がない。



「俺、灰島岬」


「知ってます」


「へ?なんで?」


「シラ…、クラスメイトが教えてくれて」



シラ。

白井命。

知っとる。

俺的にかなりの要注意人物。

人形みたいにえらい整った顔した男。



――ねえ。灰島岬って、君?

――年上のクラスメイトに興味があってさぁ。

――俺シラ、白井命。仲良くしようね。灰島君。


いきなし俺の前に現れて、言うだけ言って去って行った妙な奴。

友好的な言葉と笑顔。

やけど、あの目は笑っとらんかった。

まだ色濃く残った奴の目を振り払おうと俺は空を見上げた。


ああ、振り払うはずだったのに。

なんで、見てしまうんかな。


「シラて、白井命?」


「え?何で」


教室の窓際に白井命が佇んでいた。

距離はあるが、寒気がするほどの視線。

いつからみとったんや?

俺を?

いや、もしかして。

あいつが見とんのは・・・。


予感とともに横で不安げに俺を見る女の子と視線を合わせる。


「俺、クラスメイトやし」


「え?でも」


もごもごと言いづらそうにするショーコちゃん。

何となく、この子の言いたいことを理解して、俺は襟足をかいた。



「あー。俺ダブりやねん」


「あ」


ますます気まずそうに視線を泳がすショーコちゃんに思わず笑ってしもうた。

ほんま、顔によう出る子やね。


「ちょっと病気しとっただけや」


「病気」


「なまぐさ病。現在進行形」


病気という単語に、さっと心配そうに顔を歪めるショーコちゃん。

コロコロとよく変わる表情に和みながら、彼女の頭をわしわし撫でた。

素直でわかりやすい子は好きや。

反対に、何考えとんのか分からん奴は嫌いや。

ちらと見上げる。



「おっと、こっわ」


白井命は笑っとった。

殺気の籠もった目を向けてきながら。

何やあれ。

ほんま、怖いわ。


ぱっと、ショーコちゃんの頭に乗せていた手を離す。

ああ、これで確信が持てたわ。

彼奴が執着しとんのは、隣に座る素直な女の子。


「きみも、えらい大変そやね」


不思議そうな顔をするショーコちゃんを横目に、奴の姿の無くなった教室の窓を見上げた。





***




ショーコちゃんを教室にかえし、俺はそのまま堂々とサボりながら目を瞑って風の音を聞いとった。

ざわざわという音に混じり、砂を踏む音がする。

それは、丁度俺の目の前で止まった。

ああ、やっぱり来おった。


「灰島くん。あの子のこと気にいっちゃった?」


低く通りの良い声が響いた。

俺はなおも、瞼を下ろしたまま。

白井は構わず喋り続ける。


「だめだよ。あの子は。あの子はあげない」


耳の側で囁かれてゾワっとした。

こどもみたいに拙い言葉。

せやけどコレがコイツの一番の本音なんやってわかる。

コイツはやばい。

体中に感じるコイツの乱気。

警鐘ががんがん頭に響く。

おいおい。こんな奴やったんかいな。

やっかいなんに目つけられたわ。

こんなんに執着されて、ほんま気の毒やショーコちゃん。



「でもま、灰島くんなら大丈夫か~」


はよ、どっか行け、と心の中で悪態を付く俺をよそに、白井は軽い声を出した。

クスクスと笑みを含ませた言葉。



「だって」




「欠陥品だもんね?」



ケッカンヒン

欠陥品


かっとなった。

気が付いたら、起き上がって奴の胸倉を掴んどった。

頭に血が一気に上って、耳元でドクドクうるさい。

動揺した。

触れられたくないモノに素手で鷲頭かまれた。


「てめぇ。もういっぺん言うてみぃ」


「あ、やっぱり起きてた」


ぎりりと睨み付けても、何処吹く風のヘラリとした笑顔。

確信犯かい。

ますます嫌な奴や。

ぎりっと拳を握った。


「あー。駄目駄目。俺平和主義者だし。それにさ~」


胸倉を俺に掴ませたまま、白井は人差し指で俺の左胸を軽く突いた。



「そんなに興奮して心臓、大丈夫?」




ほんま俺、こいつ嫌いや。

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