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white&gray  作者: 空野みち
3/5

クラ

「ちょっといい?」


このクラスに来て初めて声をかけられた。

顔を上げれば、少々化粧の濃い女子生徒達が私を見降ろしていた。

あまり友好的な感じでないのは見て取れた。


「な、に」


今日初めて喋るせいか、少々声が掠れて出た。

ちょっと来て、と茶色の綺麗な巻き髪をいじりながら一人が言う。

不穏な空気を感じながらも、私は黙って席を立った。



***


「蔵屋さんと命ってどんな関係なの?」


「どんな、といわれても」


裏庭に連れて来られ第一声にそう尋ねられた。

ああ、そうだ。この子たち、いつもシラの周りにいる派手な人たちだ。


「命、最近超付き合い悪いんだけど」


「はっきり言って、蔵屋さんと命つり合ってないから」


「はっきり言って目ざわり」


リーダーなのか真ん中の巻き髪が喋ると、両サイドの二人も後を追うように文句を言ってくる。

はっきり言って、と前置くのが彼女たちの約束なのだろうか。


「私はシラに纏わり付かれてるだけだし……」


「うっざ」


ポツリともれ出た本音に、彼女たちは鮮やかに表情を歪めた。

うっざて。

じゃあ、私はどうしたらいい。

私からシラにくっついてる訳じゃないのに。

そんなの…。


「きーてんのかよ!」


「っっ」

ぼんやりと考えていたら、巻き髪の子が私の髪の毛を掴んできた。

ぎりりと力一杯引っ張られて、流石に痛くて顔が歪む。


「っっ」


イタイ。

イタイのはキライ。

やだ。

やだやだ。





――さん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


目の前が、――く、染まる。





「あらら。やっかいなん見てもーたわ」



場に相応しくない、陽気な声が乱入したことで彼女の手が離れた。

飛びかけていた思考が戻って来る。

ヒリヒリする頭皮をそっと撫でた。


「なん?これいじめ?」


「は、灰島先輩」


「ちが、これは…」


「ね。もう行こう」


彼女たちは、何やら焦った顔で、忙しく去って行った。


「行ってもうたわ」


ジャリと砂を踏む音が背後から聞こえた。

振り返る。

あ、やっぱり。

裏庭の彼。

裏庭の猫。

灰島岬。

結構な問題児で授業にまともに出ないらしいと、聞いても無いのにシラが教えてくれた。

何時も裏庭の木に寄りかかって、のんびりとしているチェシャ猫みたいな人。

私は窓際の席からそんな彼を眺めるのが好きだ。

自由で、のんびりしていて、まどろむ猫を見るような穏やかな気持ちになる。

だけど関西弁なのは意外だった。

でも、彼にとてもよく似合っている。


「きみ、大丈夫なん?」


ぼんやり彼を見ていたら、顔の前で手をひらひらされた。


「なんで」


「ん?」


「何で、あの木に何時もいるんですか?」


灰島さんは、唐突な質問に目をぱちぱちさせた。



「何でて、涼しいからやん?」


こともなげに言う。

涼しいところに行く、まさに彼は奔放な猫。

私は可笑しくなって、笑った。

灰島さんは行き成り笑いだした私に首を傾げつつも、変な子やね。と一緒に笑った。



***


「へー。ショーコちゃん言うん」


「そう、です」


灰島さんが何時も涼んでる木の下に、二人して座り込んで話をしている。

何時も、見ている人の横に居るのって何か不思議。

現実じゃ無いみたい。

でも、地面の固さも、風の心地よさも、すべてがリアルだった。

灰島さんの言うとおり、樹幹が陰になっていて此処はとても涼しい。

ザワザワと風が吹く度、葉と葉の間から光が漏れて綺麗。

木に守られてるみたい。


「俺、灰島岬」


「知ってます」


「へ?なんで?」


「シラ…、クラスメイトが教えてくれて」



教室から何時も見ていたから、ていうのは内緒。

何と無く。


灰島さんはふーんと言って空を仰いだ。

さわさわ風に髪が揺れる。

灰島さんは、シラとは別種類のカッコ良さがある。

自然体というか。精悍?



「シラて、白井命?」


「え?何で」


何で知っているのか。

今度は私が聞き返した。

灰島さんはまだ上を見たまま。

何か面白いものが有るのだろうか。

つられて視線を上げようとしたら、ひょいと顔が戻ってきて視線が合わさる。


「俺、クラスメイトやし」


「え?でも」


彼がシラとクラスメイトなら、私ともクラスメイトのはず。

さっき彼女たちは「灰島先輩」と言っていなかった?

私の疑問が分かったのか、灰島さんは気まずげに襟足をかいた。


「あー。俺ダブりやねん」


「あ」


そうですか。

へえ。

どう答えていいか、分からず沈黙してしまう。


「ちょい、病気しとっただけや」


「病気」


この陽気でのびやかな人が?

灰島さんは何故か笑って、私の頭をわしわし撫でた。


「なまぐさ病。現在進行形」


つまり、サボり癖で留年したということか。

此処まで朗らかに言われると、呆れ返るのを通り越して感心してしまう。

笑った顔が、眩しい人だ。

教室では詰まる息も、この人の前では自然と深く緩やかになる。

不思議な人だ。

こんな風にずっと、ずっと撫でてもらいたくなる。



「おっと、こっわ」


「?」


ぱっと、頭に乗っていた手が離れた。

それが少しだけ残念で、彼を見ると苦笑が返ってきた。



「きみも、えらい大変そやね」


「?」


灰島さんはまた上を見上げて不思議な事を言った。



















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