シライ メイ
ああ、また見てる。
教室の末端の席で彼女が何を見つめているのか俺は知っている。
そのことが、俺を尚更イラつかせるから。
彼女の首に腕を絡ませた。
「クラ。また灰島くんみてんの~?」
「あつくるしいよ。シラ」
そう言いながら振り解こうとはしない君が愛おしい。
だけど、クラ。
気付いて。
笑顔の裏の嫉妬心。
気安さの裏側の憎しみ。
そうやって、素知らぬ振りの君にどれだけ俺の心が穏やかでないか。
酷いね。クラは。
「ひどいな~。クラ」
「8月にもなって何故アンタは長袖を着るの。腕まくりするならいっそ爽やかに半袖にしなさい。シャツもインして。腰パン止める」
「ええ~。インとかないでしょ。腰パンもパンチラしてないんだしいいでしょ~。なになにクラはオタ専なの?」
「別に。チャラ男が嫌いなだけ」
「ふ~ん。でも俺のことは嫌いじゃないでしょクラ」
そう言えば、胡乱な眼を向けてくるけど。
赤い耳が隠れてなくて俺は微笑する。
ああ、可愛いね。
「白井~見てみろよこれ」
「ん~?な~に?」
うるさい。邪魔するなよ。
せっかくクラと話してたのに。
なんて本音は隠して笑顔で返事をする。
クラは、意外と気遣いやさんだから、行かなかったら気にするしね。
此処は適当に応えておくのが無難、てところ。
クラの細い首に纏わせていた両腕をスルリと解く。
立ち去る前に一瞬捉えたクラの表情に、俺は心の中でニンマリした。
本当は俺が離れる時のちょっと寂しそうなクラの顔が嬉しいなんて。
俺は歪んでるかな。
呼ばれて行ってみたらくだらない。
グラビアを見せられて、どっちがタイプ?だ。
そんなことで俺とクラの時間を邪魔すんなよ。
「んー?俺的にどっちもナイ。俺は黒髪清純派がいいの」
媚びまくりの表情のグラビアアイドル達を一瞥して答えると、お前はもてるから寄り好み出来るんだと理不尽に怒られた。
なに、聞いてきたのそっちじゃん。
「黒髪ロング―。あーじゃあ蔵屋とかタイプなわけ?」
最近よく纏わりついてるよな。と一人が俺の肩に手を回しながら言う。
「白井チャレンジャーだな。蔵屋って無表情で何考えてんのかわかんないじゃん」
「何かこえーよな」
「そ~?」
口々に好き勝手言う奴らに俺はヘラリと笑って見せる。
当たり前。お前らにクラが何考えてんのか分かるわけ無い。
クラの事は俺が一番理解してるから。
お前らに理解して貰おうなんて思わない。
クラの事が好きなのは俺だけで十分。
「おれって博愛主義者だから~。みんな仲良く。人間みな兄弟」
にっこり笑って言えば、馬鹿笑いと共に「にーちゃーん。昼おごってー」とふざけた言葉が返ってくる。
「ばーか」
そう言って馬鹿笑いして。
本当に馬鹿だな。
何が博愛主義者だ。
欲しいのは。
クラの方に視線をやれば、ばっちり目があった。
「クラ~」
嬉しくなって手を振ったら、すぐにプイって逸らされる。
ああ、もう、ほんと可愛いなぁ。
照れ屋さん。
すきだよ。
好きだよクラ。
ねえ。
会いたいよ。クラ。
そのままのクラも可愛いけど、それじゃ駄目なんだ。
駄目なんだよクラ。
忘れたままなんて許さない。
思い出してよクラ。
そして俺に、俺だけに縋ればいい。