表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
white&gray  作者: 空野みち
1/5

クラヤ ショウコ


「クラ。また灰島くんみてんの~?」


「あつくるしいよ。シラ」



私の首に腕を絡ませながらユルい口調で話しかけてくる男。

白井命しらい めい



「ひどいな~。クラ」


然して酷いとも思っても無いくせに。

その証拠に、その腕は以前として私に纏わりついたまま。


「8月にもなって何故アンタは長袖を着るの。腕まくりするならいっそ爽やかに半袖にしなさい。シャツもインして。腰パン止める」

どこまでも、ゆるみきった奴。


「ええ~。インとかないでしょー。腰パンもパンチラしてないから大丈夫だよー?なになに。クラはオタ専なの?」


「別に。だらしないのが男が嫌いなだけ」


「ふ~ん。でも俺のことは嫌いじゃないでしょクラ」


と小首を傾げるシラを、私は何も言わずにジト目で見た。

どこから来るのその自信は。


「白井~見てみろよこれ」


「ん~?な~に?」


クラスの男子に呼ばれるシラ。

私の首から温もりは離れて、シラはそっちに行ってしまう。

シラは男子にも女子にも人気だ。

持って生まれた端麗な容姿。

それを鼻に掛けない、砕けたゆるい態度。

今風に着崩された制服。

明るい髪は空気を包み込むように無造作に整えられている。

変な考えだけど、彼は完成されたゆるさだと思う。

彼の纏う空気は、周りに圧力を与えない。

彼はクラスの中心。

みんなシラが好き。


私とは正反対。

陰鬱な真直ぐで長い黒髪も。

人見知りで、言うこときつくて、笑顔一つまともに作れないとこも。


私は、ずっとクラスに馴染めていない。

此処に転校して来てからずっと。

1ヶ月前、この教室で緊張の挨拶を終えて。

長い髪をカーテンのようにして俯かせていた時。


『クラ!クラ。俺、憶えてる?シラ。白井命!』


シラは、白井命は、

まるで歓喜するような、泣いているような、縋るような、

何とも言えない顔で私の腕を掴んだんだ。


***


たくさんの人の中心で談笑しているシラを、教室の末端の席から眺める。

同じ教室内にいるのに、遠い。

まったくの別人種。

溶け込むことのない液体のような。

光と影のような。


「クラ~」

目が合って、私にヒラヒラと手を振って来るシラ。

見つめていたことが今更気不味くて、フイっと窓の外に視線を動かした。

数分前に捉えていた人物は、まるで微動だにせず同じ佇まいでそこにあった。



私に懐いてくるシラ。

彼の真意など分からない。

何故、こんなに私に構うのか。

私を知っていると言うシラ。

だけど、だけどさシラ。

私は、シラのこと何も知らないの。



「クラ一緒かえろー」

帰りの駐輪場で、待ち合わせてもいないのに、シラは当然のように私を待っていた。

これは最近の日常。

何故か私が自転車の後ろにシラを乗せて帰る。

普通、男がこぐんじゃないの?って言ったら。

『だってクラの自転車じゃーん』

ってムカつく答えが返ってきた。

乗せたくないけど、いつも勝手に乗ってくる勝手な男。

振り落とすように乱暴にこげば、後ろでわきゃわきゃはしゃぐのがうざい。

いい加減面倒で体力の無駄だから、最近は普通にこいでる。

帰りは割と下りが多いから、男一人後ろに乗せても結構平気。


「ねえ。何でクラは何時も灰島くんのこと見てるの~?」


大きな坂道に差し掛かかって、キュッとブレーキを鳴らした時シラが言った。

肩に置かれた手が離れて、後ろの気配が消える。

ひょいっと私の横に現れたシラは、ニッと探る様に笑った。


「好き、とか?」


「…別に」


自転車のハンドルをシラに奪われて、長い坂道を並んで登る。

これもいつの間にか日常。

シラの首筋に汗が伝って流れていた。

只でさえ暑い夏。

自転車なんて押して坂を登るから。

しかも、長袖。暑苦しい。


「ふ~ん。なら良かったー」


シラの首元に目を奪われていたせいで、一瞬反応するのが遅れた。


「…何で?」


「俺、好きだし」


「え」

思わずぎょっとしてシラを見たら、してやったりと笑った顔にぶつかった。


「灰島くんとは前から仲良くなりたかったんだよね~」


「…シラってそっちの人だったの?」


「どっちも来い!だよ~。俺、博愛主義だもん」


「そんなの博愛じゃないし。だもん言うな。かわいくない」


「いけずだなぁ。クラは」


クスクス笑うシラの真意は見えない。

ザワザワと葉の擦れる音と、日暮らしの切ない声が聞こえてくる。

何でもない事なのに、それらはふと、郷愁を誘うから不思議だ。




「こうやって一緒に帰ってると昔に戻ったみたいだね~」


「……」


私は答えずにそっと目を瞑った。

カナカナカナ…と日暮らしが鳴く。


そうやって、たまに言うけど。

ねえ。

シラ、昔って何。

私シラのこと知らないんだよ。


言葉に出来ない思いが、言いようのない不安となって、苦しくなる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ