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SF遣い  作者: 梛矢長斗
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面接

 身体がガクガクと揺れるのを感じて、逢真雄介(おうまゆうすけ)は閉じていた意識を覚醒させた。


 逢真雄介、15才の冬休み。彼は高校の面接を受けるために飛行機で関西から東京へと向かっていた。


 22世紀にもなって顔を合わせての面接などほとんどなく、大抵はオンラインで済まされるだろう。雄介も時間の無駄だとは思うが、飛行機のチケットまで用意されては仕方がない。


 ただの中学生相手に飛行機まであてがうことに雄介の父親は不審がったが、息子の将来のためだと妻に諭されると渋々認めざるをえなかった。


 国立特別科学技術高校東京校、通称スペシャルフォース学園。それが雄介をスカウトしてきた学校の名前だ。


 ()()科学と言われるのは、所謂超能力と呼ばれる物だが、大抵の場合は科学現象で説明がつけられる。ただ、その力を意思によって行使できる者がいる。


 彼らは意思で現象を発生させることができるが、数年前に開発されたガジェット、科力球[スフィアフレーム]のアシストにより、より高速に発動でき、効果も高めることができるようになっていた。


 意思の力は科力[サイエンスフォース…略してサイファ]と呼ばれ、操ることができる者は人類の1%ほどしかいない。その中でも科力の総量や能力の優劣は確実にある。だが、科力[サイファ]を持っていることは社会的に力を持つ。議員や軍人などで出世するのに強力なアドバンテージとなっていた。


 彼ら、彼女らは畏敬の念を込めて総じてこう呼ばれる。


SF(エスエフ)(つか)い』と。



 そもそも雄介は目立つのが苦手で、自分が科力[サイファ]を使えることを家族を含む他人には隠していた。それなのに、こともあろうに衆人環視の前で使ってしまった。雄介は加減して[サイファ]を行使したのでバレていないと思ったが、全国的に[サイファ]使いを探している学園のスカウトにたまたま見られてしまったのだ。


 雄介が[サイファ]を使ったのは、とある投扇興(とうせんきょう)の大会の優勝の景品が幼馴染みの女の子が好きそうなアクセサリーだったからだ。ちょっと[サイファ]で扇を投げるコースや力を固定して高得点を出しただけだ。


 投扇興とは京都の伝統的な遊びで、実家が京都の宿泊施設である逢真家でも、代々習得するのが決まりだった。


 遊び方としてポピュラーなのは二人での対戦方式。枕と呼ばれる台にイチョウ型の蝶と呼ばれる的を乗せ、2メートルほど離れたところから開いた扇子を投げて、台、的、扇子の形、つまり配置で点数を決める。互いに10回投げて合計得点が高い方が勝者となる。


 運の要素も大きいが上級者ともなると、高得点を叩き出すことも可能だ。だが雄介はやりすぎた。形の中でも最高得点の『夢浮橋』を7回連続で出してしまったのだ。


 ちなみに形は流派によって多少異なり、逢真家ではポピュラーな源氏物語の章になぞらえた方式を採用している。


 雄介は景品を手に入れたが、意図せず特別科学技術高校のスカウトに目をつけられてしまった。


 スカウトの女性は水神道流(みずかみみちる)。なんでも特別科学技術高校の教師だそうだ。教師自ら生徒をスカウトするなんてどうかと思うが、有望な生徒を入学させることができるとボーナスが出るそうだ。


 道流先生は雄介の両親に学園に入るメリットを熱弁した。将来、一流の会社に入れることや、SFオリンピックに出られるかもしれないということ、などなど。決定的だったのは学費免除とSF遣いの家族への納税特割だった。家の財布の紐をガッチリと握る母親の鶴の一声で雄介の面接は決定してしまう。


 俺の意思は無視かよ、と雄介は思ったが東京に行くというのには少しワクワクしていた。SFオリンピックというのにも興味があった。それは二年に一度開かれるSF[スフィアフレーム]を使った大会だ。世界中から集まったSF遣いが技能を尽くして、地球の平和のために考案された競技で戦う。世界的に中継もされていて、雄介も子供の頃は憧れていた口だ。



 そして今、雄介は学園が用意した小型飛行機で関西から東京の羽田空港に向かっている。客席は20程度、一番後ろに学園の教師が二人、雄介をスカウトした水神と結城(ゆうき)という名の年配の男性。前方に雄介を含めた四人の推薦候補生が好き好きに座っていた。


 推薦候補生たちは今朝空港で初めて顔を合わせた。男子二人、女子二人の併せて四人だ。


「おっす、ヨロシク! 俺は天宮望(あまみやのぞむ)。得意技は、……まぁ秘密だ」

 学生服を着用した自信がありそうな表情の少年。背の高さは雄介より少し低い170程度か。SF遣いが得意な[サイファ]を隠すのは珍しくない。悪意のある相手に弱点を狙われる可能性があるからだ。攻撃的な[サイファ]を持つ者ほどその傾向がある。


「俺は逢真雄介。京都生まれの京都育ちの三人兄弟の末っ子。趣味は家庭の都合で投扇興を少々」

 雄介が自己紹介すると女子の一人が訝しげに問いかける。まあ、投扇興はマイナーな伝統遊戯だから聞かれるのはいつものことだ。


「投扇興って何ですか? あっ、すいません。私、島根の出雲から来ました星乃遙香(ほしのはるか)と申します」

 中学校の冬服らしい長袖のシャツと膝を隠す程度の長さの紺のプリーツスカート、星型のペンダントの首飾りを身につけた美少女はそう名乗る。細身の体型をしていてしなやかな身のこなしでこちらを見上げる姿は小動物のような可愛さだと雄介は思ったが、そんなことは勿論口にすることはなく投扇興の概要を説明してあげた。


「ふ〜ん、なるほど、なるほど。じゃあ、雄介君の得意な[サイファ]は運動系かな?」

 探りを入れるような声色で聞いてきたのは、もう一人の女子だった。四人の推薦候補生の中で唯一、私服で参加している。少し小馬鹿にしたような感じが好きそうな男もいるだろうか。


「さあ、どうだろうな。そういう分類はよく知らないんだ。えーと……」

 雄介はポーカーフェイスではぐらかすと少女に名乗るように促した。


「はいは〜い! あたしは桃林桃(ももばやしもも)。上にも下にも桃があるんだよ〜。得意技はね、精神支配だよ〜」

 グラマラスな肢体を見せつけるように、身体をブルンと揺らしながら[サイファ]を軽くかけてくるのでタチが悪い。


「桃だな」と雄介。

「ああ、見事な桃だ」と望。

 男二人の間で意見が一致する。


 そんな他愛もない自己紹介をして、皆で飛行機に乗り込む。何でも学園所有の小型機だそうだ。


 教師二人が一番後ろに座り、その少し前に女子二人が意気投合したのか隣り合わせに座る。雄介と望はそれぞれ別の窓側席に座った。


 出発は午前八時、フライト時間は一時間程度というアナウンスを聞きながら雄介は眠りについた。


 それから三十分程度が過ぎた八時三十二分に()()は起こった!

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