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第八脱

辺境都市クルーナ。

そこは王都ほどではないにせよ栄えている都市で、

関所の出入国審査待ちで滞在する商人や異邦人で溢れかえっている。

逃亡中の一行が紛れ込むには都合のいい場所だった。


ここでやる事は現金の入手と空気の補充だ。

宝石を買い取ってくれそうな商人ならそのへんにたくさんいる。

シンシアは宝石箱から首飾りを取り出すと、それをアレックスに渡した。


「それじゃあこれお願いね

 あたしは要注意人物として顔が割れてる可能性あるし、

 ローラみたいな小さい子が高価なもん持ってたら怪しまれるからね

 …出どころを聞かれたら『祖母の形見なんです』とか適当によろしく」


アレックスの母親の首飾りだが、彼は気づいていない様子だ。

この()()()()状態が彼にとって保険になる。


それが不当な手段で入手した事を知らずに売買した際、

たとえ盗品だと発覚しようが罪には問われない。

円滑な取引のために大陸中の商人ギルドが定めたルールだ。


「あたしの見立てだと大正貨300枚ってとこかしらね

 そんな石っころの加工品で10年分の食費になるんだから

 やっぱり貴族の金銭感覚って狂ってるわよねぇ…」


「え? 10年分なら3000枚じゃないですか?」


「貴族……!」




シンシアに蹴られた尻をさすりながら、アレックスは商人を探した。

狙いは荷物が少ない割に護衛の数が多いタイプの商人だ。

それだけ高価な品物を扱っていると推測できる。


「あの、すみません 商人の方ですよね?

 見たところあなたは宝石を扱ってるようですが、

 もしよければ僕の祖母の形見を買い取ってくれませんか?

 本当は手放したくはないんですが、お金に困ってまして……」


宝石商はアレックスを一瞥し、没落貴族の息子だと見抜いた。

貴族のボンボンにありがちな締まりがない顔つき、

少しボサついてはいるがそれほど傷んでいない髪、

栄養状態のいい爪、姿勢や歩き方、声の調子、

ズボンの中にシャツを入れる着こなしなど、判断材料はいくらでもあった。


「ふぅん、婆さんの形見をねえ…

 随分と切羽詰まってそうじゃないか、お坊ちゃん」


「あはは、実はそうなんですよ

 ……それで、見積もるだけでもお願いできませんか?

 祖母が購入した時は大正貨1000枚はしたそうなんですが…」


「1000? 馬鹿言っちゃいけねえよ

 そいつは新品で精々500ってとこだろう

 200なら買い取ってやってもいいぜ?」

 

シンシアから教わった交渉術はドアインザフェイスと呼ばれるものだ。

初めに無茶な要求をして相手に断らせ、次の要求を通しやすくするテクニックだ。


「えぇ……、じゃあ400でどうですか?」


「200だ」


「350なら…」


「200だ」


「…300!」


「200つってんだろガキが…

 なに下手な交渉しようとしてんだよ

 お前は目先の金が欲しいんじゃねえのか?

 儲けを出すのは俺ら商人の領分なんだよ

 欲張ると何も得られないぜ? お坊ちゃんよぉ…」


「すみませんでした…」




「……それで、その商人に200枚で売ってきたと……馬鹿じゃないの?

 他にも商人なんてそのへんにゴロゴロいるんだしさあ、

 交渉術だって色々教えてやったでしょうが…」


仲間の元へ戻ったアレックスはシンシアから叱られていた。

上手くやればあと100枚は稼げたものを、自分の早まった判断で

みすみす取り逃がしてしまったのだから当然の罰だと受け入れた。


「やめときな、シンシア

 私たちはそいつに仕事を任せたんだ

 自分でやらなかった以上、他人にやらせた以上は

 どんな結果になろうと文句を言うべきじゃないよ

 …それに200なら上出来だ 宝石はまだあるし、順調だよ」


ボスのフォローに涙ぐむアレックス。

シンシアはお叱りを切り上げ、それ以上責めるのをやめた。


「…んで、次は空気の補充よね

 ボンベの蓋開けて、また閉じりゃいいんじゃないの?」


「いや、コンプレッサーっていう専用の機械が必要になるから

 それを取り扱ってる店に立ち寄る必要がある

 周辺の地図を見た限り、ここなら充填できるはず」


3人はローラが指差した場所へ向かった。




そこはマリンショップと呼ばれる形態の店舗で、

主に海のスポーツ用品を販売している場所だった。

ここ数年、貴族の間でダイビングという遊びが流行しており、

それに必要な空気ボンベの販売・充填サービスも行なっている。


今はシーズンではないというのに店内には客が10人ほど居て

カップルが南の大陸のパンフレットを読みながら談笑していたり、

友人と楽しそうに水着選びをする女子の姿などが見受けられた。


「いらっしゃいませ! 何かお探しですか?」


冬なのに胸元が大きくはだけた半袖のシャツの店員が話しかけてきた。

彼は金髪だが根本が黒く、どうやら色を染めているようだ。

日焼けした肌に引き締まった筋肉と、爽やかな笑顔の持ち主だった。


アレックスは今度もヘマしないように気を引き締めて用件を伝えた。

店員はボンベ6本と聞いて少し驚いた反応を見せたが仕事は引き受け、

店内に運ぶのに何度も往復させないように台車を貸してくれた。


「…へぇ〜、お客さん炭鉱で働いてるんすね〜

 THE 男の仕事って感じでカッコイイなぁ〜

 え、海の男もカッコイイって?

 いやいや、漁師ならともかく俺は遊んでるだけよ?だははは!」


彼は手際良く機械を操作しながらアレックスの作り話に花を咲かせた。

それが営業トークなのか彼の性格なのかはわからないが、

話していて楽しいと思わせる何かがあった。


「ほい、そんじゃこれで終わりっと!

 代金は小正貨で……え、大きいのしかない?

 まあいいけど、両替手数料とかあるから

 ちょっと割高になっちゃうけどOK?」


アレックスは頷き、代金を支払った。

今度は失敗なく取引を終える事ができた。

通常の買い物をしただけではあるが、少し自信を取り戻せた。




「……それで、余計なもんまで買わされたと……馬鹿じゃないの?

 ウェットスーツなんてどう考えても必要ないでしょうが…

 あと何?そのでっかい板は… 目立ってしょうがないじゃないの」


他にもパラソルや浮き輪、バナナボートなどの夏セット完備で戻ってきた。

アレックスはまんまと丸め込まれて海の魅力に取り憑かれたのである。


「あれ、もしかして怒られてる…?

 これはやらかしちゃったかな……」


助け舟が欲しくてローラに目を向ける。


「このクズがっ!!」


アレックスは尻を蹴られた。

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