表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

第七脱

時は少し遡り、ローラは空気ボンベの残量を確認していた。

1本あたりの持続時間の目安は30〜45分であり、

先程の移動でそれぞれ約15〜20分ずつ消費した。

許容範囲内ではあるがもう少し余裕を持たせたいので、

今後は空気を節約するために余計な会話を控えるよう心に留めた。


棚に並べられた空き瓶は相棒の遠隔操作でコツコツと拾い集めた物だ。

育ちのいい王都民はゴミのポイ捨てなどしないので探すのに苦労した。

治安の悪い地域に行けばゴロゴロ転がっていそうなものだが、

ウネリンは希少種であり戦闘力も低いので、もしスラム民に見つかれば

捕まって売り飛ばされるか、野生の魔物として狩られる可能性が高い。


夜の闇に紛れ、公園で眠りこける酔っ払いや

愛を確かめ合うカップルなどの目を盗んで入手した戦利品だ。

この空き瓶たちはウネリンが分泌する液体を保存するのに欠かせない。


「何これ… こんなに美味しい物は食べた事がないよ!」


ローラの補給作業を手伝いに合流したアレックスは感動した。

日本人村で新開発された辛口のレトルトカレーを食したのである。

下水道で茶色い液体を見た後で不安だったが、一口味わえばこんなものだ。

それは彼らが監獄生活を送っている間に開発された物だった。

確かに美味しかったが、ローラの舌には刺激が強すぎた。


栄養の次は重要アイテムの補給だ。

先述の通りウネリンは餌と消化能力の調整次第であらゆる液体を生成できる。

この性能に気がついたのは獄中だったので全てのパターンは研究できていない。


現在製法が判明していて尚且つ有用と思われる液体は腐食液、洗浄液、殺虫液、

そして最初から持っている凶悪な効果の服以外溶かす液体「溶解液」である。

その性質上、保存できる容器が無いので扱いが難しい。


まだ何度か下水道を移動するので洗浄液、殺虫液は必要だ。

とりあえず2回分用意して移動毎に1回補充する形でいいだろう。


腐食液はとにかく使える。

金属を経年劣化に見せかけて破壊できる性質は

証拠を残さず活動するのに適している。

これからも出番はあるので多めにストックしておきたい。


続いて今後の移動経路とハンドサインの再確認を行った。

アレックスは座学が苦手と言っていたがサインを完璧に覚えていた。

頭が悪いわけではなく、ただ単にやる気のない生徒だったのだろう。


ちなみにローラの化学知識は直感と独学によるものであり、

もし学校に通えていれば学者の道に進んでいたのかもしれない。

しかし、そうはならなかった。ローラはこの生き方しか知らない。


2人は補給作業が終わったので、明日の移動に備えて体を休める事にした。




翌朝、酒瓶を抱えながら眠るシンシアを起こして戦利品を確認し、

次の目標地点へ向かう前にささやかな朝食を取った。


「しっかしすごいなぁシンシアさん

 たった一晩でこんなに稼げるなんて…

 一体どうやって手に入れたんですか?」


「それは…、坊やにはまだ早いから内緒って事で」


唇に人差し指を当ててウィンク。被害者の息子が頬を赤らめる。

そんな2人のやり取りには加わらず、ローラは地図を凝視していた。


「ローラ、何か問題?」


「…問題というほどではないと思うけど、

 最新版の地図とは若干ズレがあるなと思ってね

 24時間いつでも情報収集できたわけじゃないし、

 不安要素はできる限り削っていかないと」


いくらウネリンの目を通して外で活動できたにしても、

それは刑務作業をしていない自由時間の時だけだった。

ローラには密造酒作りや作戦を練る時間も必要だったので、

どうしても最新情報の不足は生じてしまう。


「ま、そんなに思い詰めなくてもいいんじゃない?

 あんたが収容されてたのって半年ちょいでしょ?

 たった半年で世の中そんなに変わんないっしょ」


「そうだといいんだけど…」


ローラはレトルトカレーの空き箱を眺めた。

異世界人による新技術開発のスピードは異常に早い。

今回の移動で重要な空気ボンベにしても去年までは精々20分が限界とされていた。

警戒すべきはヤンディールの兵士よりも未知の技術を持つ異世界人かもしれない。




3人が狩猟小屋にいた痕跡はウネリンに始末してもらい、

防護服を装備して再び下水道へ突入する準備ができた。

ここからは1時間ほど歩く予定なので空気はギリギリになる。

再度ハンドサインの確認を終えてから、3人は虫の雲へと向かった。


歩き出してから10分後、地下鮫と遭遇した。

今度は2匹だったがアレックスの敵ではなく、あっけなく瞬殺できた。

昨日のよりサイズが小さく、死ぬまでの時間が短かった。


また一つ懸念材料が増えてしまった。

この道はウネリンを使って何度も通っているのだが、

魔物と鉢合わせた事は一度もなかったのだ。

連日戦闘になるだなんて、ただの偶然で片付けていいとは思えない。


その30分後、またしてもイレギュラーな事態に遭遇した。

定期点検の日でもないのにトンネル内に作業員がいたのだ。

そして、ただの作業員には似つかわしくない武器を持った者もいる。

おそらく護衛として雇われた冒険者だろう。

幸い彼らはこちらに気づいていないようだった。


「しっかし地下鮫の異常繁殖ねぇ… 嫌な年に当たっちまったもんだ

 あいつらは放っておくとネズミの如く増えやがるからなぁ」


その説明で地下鮫と出くわす理由は把握できたが、

ローラたちには悪いニュースでしかなかった。


いくら空気を節約しようと戦闘回数が増えれば運動量が増える。

必然的に多少なりとも呼吸が荒くなり、空気の減りも早くなる。

補充のために店に寄る回数も出費も増える事になる。

追われている身でそれはリスクが大きすぎた。


ローラたちが向かう方向に作業員たちも移動しているので、

遠回りになるが進路変更を余儀無くされた。

本来ならこの移動でヤンディール王国から脱出する予定だったが、

彼らの動きが読めないので仕方なく近場の出口へ向かった。


そこは関所のある都市で、人が多くて潜伏するのに適した場所だ。

しかしローラたちの目的は大陸脱出なので長居する気はなく、

必要な物資を補充したらさっさと次の目標地点に向かうつもりだ。


残りの空気もあとわずかになった頃、下水道の出口と蠢く虫の雲が見えてきた。

この作業をまだ何度か繰り返す必要があると思うと気が滅入る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ