第五十九話
「宮野警部、お忙しい中すいませんね」
『ああ、忙しいよ』
「四年前の〇〇町で起きた事件で調べて欲しい。女性が飛び出して車に撥ねられて即死、近くに女子高がある」
電話の相手は警官の宮野。何度か案件で関わり顔馴染みであった。
『四年前、〇〇町、飛び出し、女性即死……だなんてキーワード少ないな』
「あとこの〇〇町の坂で白いものを追いかけると痛い目にあう、という噂がありますがもちろんご存知ではないですよね」
『ええ、あなた方のやってることは眉唾物ですから……信じません。見えないものに恐怖を抱くのは馬鹿馬鹿しい』
宮野はオカルト、ホラー、階段に関しては興味はないしコウ達がやっていることに関しては全く信じもしない。
「とりあえずさっきのキーワードだけでわかったら何か情報ちょうだい」
『はいはい、ではー』
「ではー」
と家に戻ってリビングで唐揚げを食べながらコウは電話を終えてその間に調べていた由貴がプリントアウトしたものを眺めている。
「その様子じゃまたあしらわれてるね」
「どうせまた解決したら自分の手柄にする気だろ、あの宮野」
「コウ、また僕の分食べてる」
「お前がとろとろ食べてるからだよ」
と唐揚げを取り合いしていつものように一悶着を起こし、落ち着いたところで資料に目を通す。
「あの女子高……私立だから社長令嬢とかお金持ちが通う学校みたいだね」
「渚さん、男手一つ手塩に可愛がられて育てられた超温室おっとりお嬢様だからなぁ」
「コウ、それは言い過ぎ。でもマスターも可愛い一人娘に変な虫がつかないようにと女子高に入れたのかなぁ」
「それが良いのかそうじゃないのか」
「……今はその議題じゃなくて」
渚が書いた白い綿のようなもの。
「あの綿には特に黒いモヤや強い念は感じ取られなかった……なのに怪我をさせたり転ばせたりするのは何故なのか」
「もう一度会わないと。僕らが降りた時には全く出てこなかった」
「……てことはなんだ?」
コウが由貴を見た。
「……もう一度、渚さんを……」
「またここ通るの嫌よ」
「大丈夫です。僕が横にいますので何かあったら後ろからもコウが出てきますし」
「でもぉ、それに……この格好」
少し緊張気味の由貴と怖がる渚が立つのはあの坂の上。そして渚の格好は女子高の制服だ。生徒から借りたものであり、髪型以外はアルバムの渚そのものである。
先にこの2人が歩き、後ろにはコウが歩く。渚を歩かせて白い綿が出てきたところで後ろからコウがそれと対峙する。そして場合によっては除霊するのだ。
「一応今は通りが少ない。少し下校時間をずらしてやっている。格好はこないだ転んだ女子高校生と同じ制服、髪色、髪型。女性を狙ってるのか、高校生を狙ってるのか、髪型なのか。とりあえず2人の共通点を合わさった格好にした。聞くところによるとまだこちらの道も使っている生徒や住人もいる。だが怪我したという情報は少ない、まぁ噂が先に出たからってのもあるけど」
後ろからコウがそう言いながら三人は歩き出した。
「渚さん、僕が命懸けで守りますからね」
「由貴君、そんなに意気込んでいたらお化けも怖がっちゃいますよ」
由貴は首を横に振る。大好きな渚を守るために必死なのだ。
「由貴君、会った時よりも男前ね」
「えっ」
突然の渚の言葉に由貴は驚いた。渚も目線を合わせず更にこういった。
「もし、あの白いのが出てきて守ってくれたら……何か奢るよ」
「え、そ、そ、そのー」
と、その瞬間。
「でたっ、白い綿!」
「なにっ!」
そう、目の前に急に出てきた白い綿。
「僕も並走するので渚さん、ゆっくり追いかけてください」
「……はいっ!」
渚は追いかける。由貴も一緒に。後ろのコウも少し遅れて早歩きする。
「全く何も何も感じない……なんなんだあいつは!」
そして白い綿はピョーンと飛び跳ねて車線に飛び出したと同時にそれを追いかけていた渚は何もないところで躓いて体が浮いた。
「あっ……」
「渚さん!」
そして白い綿に目掛けてコウが瞬時に呪術を放った。




