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～もう一度…（後編）～

皆が夕食を食べ終わり各々の時間を過ごすべく、食堂で別れた。

ライラックは別でもてなしを受けており、カノンはリリーによって湯あみを済ませていた。

カノンが湯あみを済ませてベッドに入る時間までゆっくり過ごす為、自室のソファに座り本を読んでいると部屋のドアがノックされた。

中に入るように返事をするとドアを開け入ってきたのはライラックだった。

カノンは慌てて読んでいた本をソファに置き、立ち上がる。

「やぁ、カノン嬢。ゆっくりしている所失礼するよ。……お邪魔だったかな。」

「い、いいえ、そんな事はありませんわ。…どうぞ。」

「ありがとう。」

カノンの返事を聞き安堵したライラックは、カノンが座っていたソファに一緒に腰かける状態で座った。

「本を読んでいたのかい？」

「はい…もっと知識を得たいと思いまして。……あの…殿下…。」

カノンは体を少しライラックに向け、俯き覚悟を決めた表情で真っ直ぐにライラックの瞳を見た。

「わたくし…もう一度、異世界へ行きたいのです。」

「……カノン嬢。」

「いつ行けるかわかりません…。行けたとしてもいつ戻ってこられるか…わかりません。それでも…わたくしを婚約者として、待っていて…くれますか。」

カノンの真っ直ぐな瞳。

その瞳に迷いはないが不安が少し交じり潤んでいる。

ライラックはそんなカノンの後頭部に手を回し、自分のおでこをカノンのおでこにくっつけた。

カノンが初めてライラックの行動にときめいたあの日のように。

「待つよ。気が強くて、負けず嫌いで、どのご令息よりも強くて、どのご令嬢よりも可憐な君を。ずっと待ってる…カノン。」

ライラックはくっつけていたおでこを離し、寂しい感情を心の奥に押し込み、優しい笑顔を見せた。

カノンも自分で言った事ではあるが、寂しい感情が溢れ出しそうなのを心の奥に押し込んだ。

「殿下……。」

カノンはライラックの両頬を自分の両手で包み込み優しく口づけた。

そっと口を離し、顔を赤くして驚いた顔をしているライラックに優しく微笑んだ。

「大好きです…ライラック様。お菓子がお好きな所も…剣の腕がお強い所も…わたくしだけにお優しい所も…全部。」

「（それは…反則だよ。）……敵わないなぁ。」

ライラックはそっとカノンを抱き寄せて腕の中におさめ、カノンも優しくライラックの背中に腕を回した。

お互いの温もりを確かめ合うように二人は少し強めに腕に力を入れた。

「あの…一つ…お願いがあるのです…。」

「ん？」

「もし…おまじないの効果でわたくしの体にお友達が入っていても…手助けをして頂きたいのです。…お願い…できますか？」

「…うん、わかった。人格は違っても君の体だから、無理させない為にも協力するよ。任せて。」

「…ありがとう…ございます。」

「…そろそろ時間だ。それじゃ…おやすみ、カノン。」

「おやすみなさい…ライラック様。」

ベッドに入る時間が来た二人は名残惜しそうに抱きしめ合っていた体を離し、カノンの部屋の前で言葉を交わし別れた。

一人部屋に残ったカノンはやらなければならない。

そんな衝動に駆(か)られ、おまじないの本を手に持ちベッドに入った。

本を抱きかかえ、目を閉じて強く願いながらおまじないを唱えた。

「……リアライズチェンジ…どうか…叶えてくださいまし。」

おまじないを唱え終えたカノンは本を枕元に置き、眠りについた。

――翌日の朝。

侍女のリリーがカノンを起こしに部屋へ訪れるが、いくらドアをノックしても返事がない事に疑問を抱き、断りを入れて部屋の中へ入ってきた。

ベッドまで近づきカノンに声を掛けるが反応はない。

体を揺らしてみるが起きる気配もない。

息はあるのになかなか起きる気配がない様子に次第に焦り、カノンの部屋を飛び出し、執事のカクタスに医者を呼ぶようにお願いした。

リリーの騒ぎを聞きつけた父や兄、姉、ライラックは事情を聞きカノンの部屋へ急いだ。