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~美桜の自伝(Ⅰ)~

――朝食を済まし美桜の部屋に戻ったカノンはこれからどうしようかと勉強机にむかい椅子に腰かけた。

机の上には見覚えのある本の背表紙が目に入った。昨日カノンが手に持っていたおまじないの本だ。その本を手に取りページを開いていると紙の束が挟まっていた。その紙を広げてみると美桜の自伝が書かれていた。カノンは躊躇いながらも美桜の自伝を読み始めた。


普通の家庭に生まれた勉強が好きで少し内気な高校生、一ノ瀬 美桜。

父は料理上手のサラリーマン。母はフリーのイラストレーター。そして4つ上の大学生の兄がいる。

好きなものや興味があるものはとことん調べたり、技術として身に着けるところがある。

それ故に学年での成績は常にトップであり、美術や調理実習など人並み以上に技術として身に着けている反面、運動に関しては努力をしても向いていないのか伸びる気配がない。

彼女の性格や物事にのめりこむ様子を見ている同級生たちからは理解もあり友達もそれなりにいる。


だが、大学生の優秀な兄の影響で家庭では少し違う。兄は幼少のころから遊んでばかりいるのに成績がトップなのだ。本人曰く「授業を受けていれば余裕だ。」というのだ。それも一つの才能かもしれないが、兄の場合性格にも少し問題がある。

いつ頃だったか学校や家で自分の才能をひけらかしたり、努力している人を小ばかにするようになった。両親が何度兄と話をしても直る気配がなく、次第に諦めた。


美桜に関しても例外ではない。高校受験の時期はさすがに何も言っては来なかったが、中学・高校にわたり美桜が何かしらに興味を持ち勉強したり技術を身に着けることに対して「勉強したってどうせ俺みたいに成績が良くなるわけでもないのにやめとけよ」「そんな技術持ったって何の役に立つんだよ、そんな技術で世の中渡り歩けるほど簡単じゃねえよ」等とやる前から諦めにかかるような言葉を投げかけてくる。


最初こそ両親が止めに入ったがキリがなくなり次第に止めに入るのも辞めた。美桜も内気な性格ではあるが負けじと反論を試みたが、おどおどした様子なので反論の意味をなさない。何を言っても話にならない兄を次第に無視し始めた。家族の問題なのに見て見ぬふりをし始める両親とも距離を取り始めた。美桜と家族がこうして距離が離れていく一方で兄と両親は以前にも増して仲良くなっていった。


きっかけは兄が両親の望む一流大学に一発合格したことだ。また兄は、学校や美桜には横柄な態度だが両親の期待には難なく応えるほど態度が少し違う。親の言うことを聞かない時は美桜に関することだけなので「親の期待に応える分には問題ない」と両親は判断し兄を甘やかし始める。美桜もそれなりに両親の期待に応えてきたのだが兄と比べられ、「そんなもんか」と知識や技術を認めてもらえなかった。

勉強ができれば兄に認めて褒めてもらえる、もしかしたら一緒に勉強もできるかもしれない、美術ができれば母の仕事のイラストレーターのお手伝いができるかもしれない、料理ができれば父と一緒に台所に立てるかもしれない。そんな思いで日々頑張ってきたのが認めてもらえず自分は一ノ瀬家の一員ではないような虚無感をだんだんと覚え始め、誰に聞こえるわけでもない声で「人生つまらない」そう呟く。

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