~夜景を見たのちに~
美桜と峰岸君がテラスガーデンでしばらく夜景を堪能していると峰岸君は少し肌寒さを感じた。
スーツ姿でジャケットを羽織っている自分が肌寒いという事は美桜はもっと肌寒いだろうと思った峰岸君。
美桜はドレス用の羽織を着ているとはいえ、生地が薄いドレスだ。羽織だけでは足りないと思った峰岸君は美桜に自分のジャケットを羽織らせた。
美桜は驚きで体を震わせたが、峰岸君の予想通り肌寒かったのだろう。
抱きかかえるようにジャケットを握る美桜の手が少し震えていた。
「あったかいです…ありがとうございます。」
峰岸君のジャケットに腕を通し俯きながらお礼を伝える美桜の横顔に愛しさを感じた峰岸君。
「一ノ瀬さん…さっきまで体調を悪くしていた君に…こんな事言うのは違うと思うけど…。
抱きしめても…いいですか。」
峰岸君は美桜に体を向け真剣な眼差しで伝える。
美桜は唐突の言葉に少し驚いた顔で峰岸君の顔を見て、恥ずかしそうに俯き少しの沈黙の後、夜景に向けていた体を峰岸君に向け両手を軽く広げ小さく頷いた。
美桜の頷きを確認した峰岸君はそっと美桜に近づき、力を入れずに優しく抱きしめた。
美桜も峰岸君の背中に力を入れず軽く腕を回す。
「(…唐突に言ってしまったけど…嫌がられなくて良かった…。一ノ瀬さん細いなぁ…腕の中にすっぽり収まってる…いい匂いがする…。…あぁ…好きだなぁ…。)」
「(雅君の腕の中…心地いいです…。…さっき向かい合った時…ヒール履いてる私の身長をちょっとだけ越していたように思います…。それに…お体…見た目に反してがっしりとしていて、階段で受け止めてくれたあの時よりたくましくなっているような…。…雅君の匂い…落ち着きます…。……大好きです。)」
お互いに優しく抱きしめあっていたが、自分の気持ちを再確認した二人は抱きしめる腕の力を少し強めた。
お互いに抱きしめる腕の力が入った後、峰岸君が美桜の左の耳元で囁く。
「一ノ瀬さん…この間は途中で終わってしまったけど…。キス…してもいい?」
そう伝え、抱きしめていた腕の力を緩めて美桜から離れ顔を覗き込む。
「……はい」
峰岸君の言葉に静かに返事をして顎を少し上げ、峰岸君の胸に両手をそっと添え目を閉じる美桜。その手は緊張で微かに震えていた。
美桜から返事をもらえて安堵し同時に嬉しくなり、美桜の両頬を自身の両手を添えて優しく包み込み緊張しながらもゆっくり顔を近づけ、次第に伏し目がちになりそっと触れるくらいのキスをする。
二人はそっと触れていた唇を離しゆっくりと閉じていた瞼を開ける。
唇が触れていたのはほんのわずかで二人の中では短いようで長い何とも言えない感情を抱く。
「幸せ」それが今の二人の表現にはあっているだろう。
美桜と峰岸君は恥ずかしく照れながらはにかんだ笑顔を見せあう。
「ごめん…もう一回。」
美桜の笑顔にもう一度したくなり峰岸君は美桜に宣言して今度は触れているのがわかるくらいに口付けた。
美桜はそれに応えるように再び目を閉じる。
峰岸君は最初より長く口付けていた唇を離し、美桜の顔を見て愛しそうに優しく微笑む。
「あの…雅君…。キス…する時は宣言しなくてもいいですよ…。いざ言葉にされると恥ずかしいです…。」
美桜は恥ずかしそうに頬を赤らめキスする時の宣言はなくてもいい事を伝えた。
「…わかった…なら遠慮なく……。」
美桜の言葉を聞き了承したのと同時に先程の緊張が嘘のように、今度は宣言なしで美桜の唇、頬、額、また唇と優しくキスを落としていく。
それにはさすがに嬉しいのと、くすぐったいのと恥ずかしいの感情に襲われ慌てて峰岸君を止めた。
「い…いきなりは…その…えっと…」
「ん?一ノ瀬さんが宣言なくてもいいって言ったから。なんか違った?」
美桜の慌てふためく言葉に少し意地悪な笑顔で言葉を返す峰岸君。
「…違わないです」と恥ずかしさで少し涙目の美桜に意地悪しすぎてごめんと謝り美桜の頭を撫でる。
二人はお互いに愛しいような恥ずかしいようなそんな感情が溢れ次第に笑顔がこぼれた。
もう少し甘く幸せな時間の中で過ごしていたかったのだが、体は火照っていてもやはりまだ肌寒さの残る季節の為、惜しくも中へ戻る事にした。
時計を見るとちょうど閉会式の時間が近づいていた。
美桜は借りていたジャケットを峰岸君に返しお礼を伝え、ジャケットを受け取った峰岸君はジャケットを羽織り美桜の体温が残っている事に温かい気持ちになる。
二人は手を繋ぎながら会場へと向かった。




