~父と娘~
カノンの部屋にはカノンと父オリヴァーだけが残った。
「カノン…。疲れているだろうが…。少し…話をいいかい?。」
オリヴァーはベッドにいるカノンに体を向けて気遣いながら問う。
「えぇ。大丈夫ですわ。お話しとは何ですの?」
カノンの承諾にオリヴァーはベッド横の椅子に近寄り座る。
椅子に腰かけ、話をする承諾はもらったが、何からどう話していいかわからず無言でうつむくオリヴァー。
だが、意を決した。
「カノン…。先に…謝罪させてくれないか…今まで、すまなかった。」
「お前の出産は、難産だった…。母子ともに危険だという中、お前の母が命を賭けてお前を産んだ。しばらくは産声がなかったんだが、母や皆の協力のおかげで産声を発した。その時はどれほど嬉しかったか…。だが、母は…スリジエはお前の産声を聞けたのと同時に力尽き逝ってしまった…。
もともと体が弱かったのだが、子どもが多く欲しいと彼女は願い、私はどうしてもというスリジエの願いを聞いた。彼女の最後は満足そうに良い笑みだった……。その経緯があり私含め皆がお前に甘く接した。」
謝罪の後生い立ちから少しずつ、ゆっくりと話し出す。
「お前は幼少の頃から勉強や楽器など、令嬢としての教養を全て卒なくこなしていた。優秀な家庭教師を呼んで学ばせても、短期間で講義を全て終えてしまうくらいに完璧だった。私は自慢の娘を持ったと嬉しかった。だが…お前が政治に興味を持ち始めた頃、私は令嬢らしくないからとお前の考えを受け入れられず一蹴した…。お前は諦めずその後も夜会に出ては他の貴族に掛け合ったが相手にされず、それをきっかけとし次第にフローライト家の事をとやかく言われ始めた。
私は怖かったのだ…。他の貴族達から受ける言葉が心に刺さり、お前を遠ざけた。
逃げたのだ…。お前からも、貴族の言葉達からも。そのせいもあってか屋敷の者達もお前には必要最低限しか接しなくなった。やがてお前は書庫と自室にこもりきりになった。」
カノンは静かに父の話に耳を傾ける。
「三ヶ月前になるかな。お前が部屋から久々に出たかと思えば、急に今まで以上に行動力が長け屋敷の皆を巻き込み、多彩な発案とともに街の復興にも尽力していった。私はそんなお前の様子を見て考えを改めなければと思ったのだ。でなければ今まで通りの生活を送るだけだ。少しずつお前と向き合っているうちに私は今までの自分を恥じた…それと同時に後悔をした。他の貴族の言葉など関係ない。もっとお前の言葉に耳を傾けるべきだったのだと。
正直…今回の件で改めて思い知った。お前という存在が私にとってどれほど大切なのか…。一度大切な妻を亡くしたというのに…。また大切な者を失うのかと怖くなった。貴族の言葉よりもカノン…お前を失う事の方が私には耐えられん。
今更だとは思うが…本当にすまなかった。」
下を向きながら話していた父オリヴァーだったが、次第に顔を上げカノンと目を合わせながら話す。
父の話に最後まで耳を傾けていたカノンが最後の謝罪を聞き、自分の気持ちを伝える。
「本当に…今更ですわ…。ですが…わたくしも至らなかったのです…。わたくしもこの三ヶ月と少しの間、多くの事を学びました…。
ただ発言するだけの令嬢は所詮、他の方達からは戯言にしか聞こえなかったのです。
発言するだけでなく、行動する事に意味があったのですわ。
わたくしはそれに気づくのが遅く、周りのせいにしてやるべき事に自ら目を逸らしました…。お父様だけの責任ではありません。わたくしも…申し訳ありませんでした。ですが、これからは違います。わたくしのやるべき事を全うします。令嬢としての振る舞い、家やアザレア、国の為に何が出来るのかを考え行動します。どんなに周りに反発されようとも、もう目を逸らしません。正々堂々と正面からぶつかりますわ。」
カノンの宣言に驚くが負けず嫌いな彼女らしいと思うオリヴァー。
「さすがは私の娘だな…。今までしてこなかった分、私ももっとお前の言葉に耳を傾け私自身できる事をしていく。お前が戦うというのなら一緒に戦おう。
……今まで、家の為に影で努力していたのだろう?誰にも見せないようにしていただけで…。
家の為に多くの努力をしてくれた事、誇りに思う。ありがとう…カノン。」
オリヴァーの言葉にどうしてそれをと聞こうとしたカノンだが、愚問だと思い聞くのを止めた。それと同時に気づいてくれた事にどこか肩の荷がおりた感覚がした。
「(今思えば、わたくしは今まで完璧でいようとしました。人に頼ることもせず一人でこなそうともしていました…。近しい人になら完璧ではない所を見られたりしてもよいのですわ…。……時には周りの方の協力を得る事も必要なのですわ。意地の張り過ぎは…よくないですわね…。)」
カノンは父との会話で今までの自分の考えや性格を少しだけ改める。すぐに性格を変えるのは難しい事だ。
時間はかかるだろう。だが、少しずつ、自分を変えていこうと心に思うカノン。
「そういえばお父様、今後もご協力してくださるのは大変ありがたいのですが、以前のような甘やかしは不要ですわよ。さすがにこのお歳であの甘やかしは不釣り合いですわ。」
カノンの言葉にそれもそうだなと苦笑いをしたオリヴァー。
「お父様…。今回の件でご心配お掛けして申し訳ありません。お父様に無事でよかったと言ってもらえて…嬉しかったです。こうしてまたお話しできる事も嬉しいです。ありがとうございます。」
カノンはオリヴァーに謝罪と感謝を伝え、オリヴァーはその言葉に涙を流した。
親子の溝が少しずつ埋まっていく。
オリヴァーが次第に落ち着きを取り戻す。
「疲れている所、長居してすまなかった。
話を聞いてくれてありがとう。
今日はもうゆっくり休みなさい。
何かあれば言うのだぞ。またすぐに駆けつける。」
「わかりました。お言葉に甘えますわ。」
カノンの部屋を出ていくオリヴァーの背中を見送ったあと、安心からなのか急に眠気がきたカノンは起こしていた体をベッドに預け心地よく眠りにつくのだった。




