~カノン誘拐事件(後編)~
カノンが連れ去られてから数十分が経ち日はもう完全に落ちている。
護衛達はいくらアザレアの人達に聞き込みをしても街中を探してもカノンと合流できない事に焦りを感じさらにアザレアの街中をくまなく探し回る。
そんな護衛達の様子がおかしい事に街の人達が気付き、訳を聞き各々が声を掛け合いながら街の大人達で手分けして街中を隅々まで探す。
だがカノンは見つからない。
護衛の一人が侯爵家に既に帰っているのではと言いだし確認の為急いで馬を走らせる。
その間に残った者達でまだ探していない所はないかもう一度見て回るものもいれば、他の街にいるのではとアザレア以外の街に探しに出る者もいた。
侯爵家に着いた護衛がカノンが帰っているか屋敷の者に確認するとまだだと言われさらに顔が青ざめる。
ちょうどその場を通りかかったオリヴァーに何の騒ぎか聞かれ状況を説明すると、その場にいた皆が顔を青ざめた。
「カノンが…。やはりあの噂…。調査も急がせねば…。すぐに侯爵家の護衛から捜索隊を出す。皆、準備に取り掛かってくれ。」
事情を聴いたオリヴァーはある噂と嫌な予感が脳裏をよぎり、手遅れになる前にとすぐに指示を出し自らも行動に出る。
オリヴァーはアザレアに関する嫌な噂を耳にしてから秘かに調査を行い、王宮にも報告をしており万が一の時にはと要請を出していた。
噂とはアザレアの領地権を放棄した貴族の中でアザレアの重要性を理解し始めたものが領地権を取り戻そうと裏で暗躍しているという内容だ。
その貴族が誰なのか、またその者の黒い噂までも調べはついており証拠がそろい始めたと言うところで事が起こったのだ。
その日オリヴァーから報告を受けとうとう行動に出たのかと、要請を受けていた王宮も動き出す。
事前に報告書やそろい始めの証拠を目にしていたとはいえ、にわかに信じられないと国王は驚くが、街や国の再建に関わる令嬢の事を思い早々に動いてくれた。
話を聞いたライラックも居ても立っても居られず剣を携え騎士たちと共に夜の街に駆け出す。
カノンが姿を消した翌日。陽が昇り始めた頃。
「ん……。」
カノンは目が覚めゆっくりと瞼を開ける。
「ここは……う…なんだか少し…気持ち悪い…ですわ…。」
カノンは気持ち悪さが残っている中、現状を把握しようと何度か深呼吸をした。
「ふぅー……。少しは…マシに…なってきましたわ…。」
意識がはっきりし始め体を起こし自分の現状や周囲の様子を確認する。
「たしか昨日、帰ろうとしたら待ち合わせ場所に護衛の方がいなくて…。侯爵家に向かって歩けば合流出来ると思い街中を歩いていて…。あ…人通りがない場所で後ろから何か匂いを嗅がされたのですわ。今のわたくしの現状は…手は前で縛られていますが、足は縛られていないですわ。目も少し慣れてきましたわ。陽の光が微かに差し込んでいるので朝が近いのですわね。人の気配はないようですが部屋というよりほこりっぽい匂いや木箱の匂いがあるので倉庫…と言ったところかしら。」
カノンは自分と周囲の現状をわかる範囲で整理し、どうにか手の縄をほどく事はできないか試してみる事にした。
幸い人の気配もなく足も自由に動かせるので倉庫と思われる中をゆっくりと散策し始めた。
「さすがに縄を切れるような道具はありませんわね。木箱や何かで摩擦をおこして切れないかしら。そういえば、護身を調べている時に…」
カノンは護身術を調べてる時にみた縄の解き方を思い出し、前で縛られている左右の手を交互に前後に動かした。
数回手を動かしていたら調べた通り片手がスルッと簡単に縄から抜けた。
「やりましたわ!これで手足が自由ですわ。あとは…」
カノンはさらに動きやすいように一度ドレスを脱ぎコルセットを脱いだ。
さらにドレスのフリルを力いっぱい引っ張りドレスから剝いでいく。
そうしてドレスが身軽になりもう一度着る。
カノンが着替え終わり脱出を試みた頃外から人の声がし始めた。
助けが来たのかもと思ったが、警戒もして物陰に隠れた。
「おい、女の様子を見るぞ。あの方から殺すなとの命令だが何かあれば高い報酬は無しだ。失敗は許されないからな。」
外の声が聞こえ、会話から敵だと知りあの方とは…とカノンが考えようとした矢先、扉が開き数人の足音が中に入ってくる。
「おい!女がいないぞ!どこに行ったか探せ!中にいるのは確かだ!逃げられないように入り口は固めろよ!」
人数は5人でナイフを持っているようだ。中を探し始める2人と入口に3人。
「(致し方ありませんわ。)」
意を決したカノンは隙をついて外に出る事を考え人数は多いが扉が開いている方に飛び出し敵の不意を突いて顔面に回し蹴りを繰り出す。まず1人目。
いきなり飛び出された事に驚くが入口の残り2人は戦闘態勢に入り1人は入り口をふさぎながらカノンに襲い掛かり、1人はカノンを中にしか逃げられないように回り込む。外に出られたらと考えたがそう甘くはなく、攻撃をかわしながら大人相手なので出せる力いっぱいに手や足を使い空手の術を繰り出す。「せぃっですわ!」2人目。
中を探していた2人も入口の騒動に気付き応戦に入る。
3対1になったので木箱を持ち投げてみようと試みたが思いのほか重く使えなかったので素手にすぐ切り替えた。
武器を振りかざされたりしながらも、かわしたり間を取りつつどうにか戦うが、敵の武器が少し腕をかすった。
だが、傷は浅く出血もひどくない。
気にせず応戦している途中、間を取った際に右足のドレスの裾が尖ってた木箱の端に引っかかり少し破けた。
邪魔と思ったカノンは破けた裾を自らの手で太ももの付け根まで引き裂きスリットが入っている状態にした。
さらに動きやすくなったカノンは力いっぱいに追い打ちをかける。
「はぁぁっ!ですわ!」
「お、おぃ……。俺達…令嬢を捕まえたはずだよな…。」
「あぁ…。あの方が言ってた人相と一致している……。間違いない。」
敵は令嬢を捕まえたはずなのにこんなにも戦える令嬢を前に混乱で上手く戦えずにいる。その隙をつき3人目、4人目…と、とうとう全員打ちのめした。
力いっぱい空手の術を使ったのもあるがヒールという踵が固い靴を履いており足技を組み合わせた事でなんとか女であるカノンでも上手くいった。
このまま動かれて追いかけられ、また戦う事になるのはキツイと考えたカノンは、息があがっているのを整えながら先ほどまで自分が縛られていた縄と剥いだドレスのフリルを使って敵を縛り始めた。
最後の1人を縛っている時、外からまたもこちらに走ってくる足音が聞こえた。
足音は1人分だがこれ以上縛る物もなければ体力的に応戦できるか不安もよぎる。
だが、そんな事を考えている場合ではないと判断したカノンは最後の1人を早々に縛り終え、入口に近づいてくる足音に体を向け身構えて戦闘体制を取った。
足音は入り口で止まる。と同時に声が掛かる。
「はぁ…はぁ…カノン…嬢…?」




