~カノンの自伝(Ⅱ)~
社交界当日、挨拶回りをしながらカノンは貴族達の国の情勢に関する話を聞きながらそれとなく自分の意見を伝えてみた。
だが女が口を出すものではないと多方面から言われて相手にされなかった。表向きは女だからと一蹴してはいるが、内心は努力の知らない令嬢の戯言などと言うものが多い。
社交界とは煌びやかな所ではあるが怖いところでもあるのだ。貴族同士の駆け引きや交渉の場が多くまた、嘘か誠かわからないうわさも飛び交う場。
カノンの才や家柄をよく思わない者たちの口から社交界でのことが広まりはじめ、あることないこと言われるようになっていった。
そんな状況を知っていてもなお彼女はあきらめず政策に関する提案や意見を彼女なりに伝えていたのだがもはや誰も聞く耳を持たず、育ちのせいで我が儘な事を言っているなどと吹聴された。
いつしか彼女は一人だった。母は早くに他界しており、兄姉はすでに出家している為カノンを庇うものはいない。あんなに甘かった父でさえ冷ややかな目で見るようになっており、使用人たちも必要最低限カノンに関わろうとしない。
「あんなにも皆、鬱陶しいくらい甘やかしてきたのに令嬢らしくないからって一瞬で離れてしまうなんてしょうもない人達。何がいけなかったのかしら。政治に口を挟んだから?おしゃれに興味がないから?おしゃれは程々にたしなんでたはず。ほんとは努力してるとこを見せるべきだったかしら。いいえ、侯爵令嬢たるもの皆のお手本になるべく努力は影で、完璧を表に出すべきよ。本当に人生つまらないわ。」
ため息を交え自分なりに原因を考えるカノン。思い当る節はあるものの、負けず嫌いな性格が出かかった考えを心の奥に押し込んだ。気力を無くした今は社交界やお茶会に顔も出さず令嬢としての振る舞いや家の事などどうでもよく自室と書庫を行き来する生活になっていった。
そんな生活が数日続いたころ、カノンは自室で書庫から持ってきた古い本を読もうと一冊手に取る。その本の見た目は少しよれて古びた茶色の薄い本。作者や題名が書かれておらず、中を開けば古い文字で書かれている。カノンは歴史が好きで古い文字も読み書きできるように勉強していたこともあり、古い文字でかかれたその本を難なく読めた。どうやらおまじないの本のようだ。
カノンが一番興味をひかれたのは『人生一番つまらないときに唱えると奇跡が起きる』という内容のものだ。
「おまじないなんて」とらしくないと思いながらも読みふける。
「本当に奇跡が起きて何かが変わるのなら」そんな思いでカノンはおまじないを試みる事を決意をする。
その前にこうして自分の事を何枚にもわたり書き記し、奇跡が起きた後も日記として書き記そうとペンを走らせるのだった。