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「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」  作者: 桜庵
第一章~最初の入れ替わり生活・カノン編~
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~家族と会話~

―――。

期末試験や空手の大会が無事に終わりカノンがこの世界で目が覚めて早ひと月が経とうとしている。

目まぐるしい生活の中で一番の変化は美桜の家族が集まり一緒に食事をする時間が増えていった事だ。美桜自身、家族と距離を感じ一緒の時間を過ごす事が減っていた。今までならそれを気にも留めなかった家族だが今は違う。このひと月の間でカノンの言動や行動に家族としての在り方を徐々に各々見直し始めたのだ。


今夜は兄の帰りが遅いとのことで父と母、カノンの三人での食事になった。

料理を前に手を動かすのを止め父が先に話し始める。「そういえば…。いつだったか前に料理を手伝うと言って美桜が台所に来てくれた事あったな。その時は料理が出来ない美桜を断ったんだっけ。それからは料理を出来るようになるって頑張っていたのにお兄ちゃんばかり見て美桜の頑張りを認めなかったんだよなぁ。」

「私も…いいかしら…。私も、美桜が私の仕事のアイディアの参考になれればってデッサンを一生懸命勉強していたのにお兄ちゃんばかりで美桜の事全然見ていなかったの…」

カノンは手を動かすのを止め父と母の二人を見て言葉を静かに聞いた。

「勉強も日頃の行いも頑張っていたのに。お兄ちゃんと比べて「そんなものか」って言ってしまったんだ。」父はぽつりぽつりと話し、次第に涙が出て指で拭う。

「私も…お父さんと同じことを美桜に言ったわ…」母も涙が出始め指で拭っている。

「「美桜……」」

「おまちください。」父と母が言葉を発しようとした時カノンが言葉で遮る。

「お父様、お母様、頑張りを認めてもらえなかったのは確かに寂しかったです。お兄様しか見ていなかったことも。《《今は》》お父様やお母様の言葉を聞いても許す気はありませんの。その言葉の先はわたくしの口調が戻りお父様とお母様の中の《《美桜》》が帰ってきた時にお話しくださいませ。その時は恥ずかしさを捨てて今わたくしにお話しした事をもう一度聞かせてくださいな。」そう父と母に伝え再び食事の手を動かし始めた。

「そう…だよな…。わかった……今は美桜の言う通りにしよう。」

「美桜……。そうね…わかったわ。」

父と母は納得してくれた。

父と母の言葉は明らかに謝罪の言葉だった。ただ、その謝罪はカノンが受けるべきではなく入れ替わりが戻り本当の美桜がこの体に返ってきた時に聞くべきだとカノンは思ったのだ。


食事を終えた頃、外は雨が降ってきた。

傘を持っていない兄から迎えに来てほしいと連絡があり、カノンが母に頼まれた。カノンは自分の傘と兄の分を持って駅に向かう。

駅で兄と合流し、二人で傘を差しながら家に向かう。雨の夜の住宅街。辺りは静まり返り雨の音だけが二人の耳に響く。

先に沈黙を破ったのはカノンだ。ずっと気になっていたことを聞いてみる。

「お兄様。どうして妹をいじめるような事をしていましたの?お勉強が出来て才能がありますのに性格のせいで評価が半減ですわ。」

「うるせぇよ。」カノンの言葉に悪態をつき少しの沈黙の後に兄が話し始める。


「中学の時に仲良かった奴がいたんだ。そいつは努力家で勉強もそこそこできた。俺は授業聞いただけである程度できて宿題とか勉強はやるにはやったが、そいつほど頑張る事はしなかった。それでも仲は良かったんだ。趣味が合うし一緒にいると気が楽だったんだ。…けどそう思っていたのは俺だけだったみたいだ。高校受験の時にレベルは高いけど一緒の高校に行こうって話になって、そいつは絶対に行きたかった高校で必死に勉強をしていた。俺もしてはいたんだがそいつから見たらあまり勉強していないように見えたらしい。結果、俺だけ受かって落ちたそいつにあることないこと周りに言いふらされ、そいつ含め周りから人がいなくなった。どんだけ努力しても叶わないこともある。あげく裏切られることもある。だいたい、美桜もそうだろ…あんなに仲良かったのに俺から離れて勉強ばかりやり始めた。だから努力してるやつ見ると怒りやら悔しさやら込み上げてきてあんな態度になっちまう。」

話を聞いていたカノンはところどころ自分の過去と重ねていた。

兄の過去や思いを聞いたカノンは美桜の自伝の一部を兄に伝える。

「お兄様、話してくださりありがとうございます。わたくしは勉強が出来たらお兄様に褒めてもらえるのではないかと思いましたの。あわよくば一緒に勉強が出来たらとも思い勉強に励んでいましたのよ。それなのにいじわるばかりなんですもの」と少し拗ねてみるカノン。

「それと、過去は変えられませんが、未来はいくらでも変えられます。わたくし含め今からでもやり直しはきくはずですわ。(お兄様はたださみしかったのですね…。だからあのような態度を美桜さんに……。きっと繊細な方なのですわ)」カノンは自分も含めこれからでもやり直せることを兄に伝える。

「美桜………す」

「お待ちください」ここでもまた兄が言いかけた言葉を遮る。先ほどの父や母と一緒だ。なのでここでも同じように伝える。

「その言葉の先はわたくしの口調が戻り、お兄様の中の《《美桜》》が帰ってきた時に聞かせてくださいな。できればもう一度今のお話と妹への愛もお願いしますね。」

カノンはそう美桜の事を思いながらも兄へ意地悪い笑みを浮かべて言う。

「わかった……って妹への愛ってなんだよ!言わねーよ!んなこっぱずかしい事!」

兄は久方ぶりに妹の前で笑っていた。だがカノンは複雑な心持ちだ。こんな風に笑いあうのは本来、美桜のはずなのだから。

(美桜さん……今どう過ごしていらっしゃるのですか……。帰ったらまた日記の続きを書かなくてはなりませんね。美桜さんとわたくしが元に戻っても現実を把握できるように)

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