~初めての空手の大会~
―――空手の大会当日。町の総合体育館。
タイトルがない小さな大会とはいえ、近隣の多くの高校が出場しており会場はたくさんの人でにぎわっている。カノンが自分の高校が場所取りしているところまで行くとすごい人だかりだ。何の騒ぎだろうと近づくと見慣れた人たちばかりいた。
なんと応援の人数が事前に知っていた人数より増えているのだ。クラスメイト達も数人来る予定だったのがクラスの半分の人達が来てくれている。
それだけではなく親衛隊を作ったとされる隣のクラスの人たち十数名までも来ていたのだ。
(こ、こんなに来ていただけるとは…。恥ずか死ぬとはこういう事でしょうか…)
さすがのカノンも人数の多さに圧倒される。
「あー…皆さん。応援に来ていただいて有り難いのですが、なにぶん人数が多いので周囲に配慮しつつ控えめな応援をお願いいたします。」
主将が節度ある態度をと皆に説明しているとカノンが到着していることに気づき手招きする。
カノンが皆にしずしずと近づき照れながらもお礼と会場でのマナーをお願いし話がまとまったので各々が持ち場へと戻る。
応援の人たちは応援場へ。カノンたち出場者たちは更衣室で着替え準備を整える。
決勝を含め全部で四試合あり、思ったより出場者がいたのでブロックごとで試合をすることになった。カノンの試合はブロックの中では二試合目だ。
緊張はしているが今までの頑張りを出すだけだと部活や空手教室で習ったことを思い出し時間が来るまで精神統一していた。
部活や教室の後でも空手の技や型の基本的なことを家でも磨いていた。初心者だったはずなのに日頃の努力で今では部の中でも少しは腕が立つまでになっていた。
試合の時間が来た。精神統一のおかげで集中力がいつにも増している。
顔立ちや姿勢はいつもの柔らかい雰囲気はなくなり凛としキリッとしている。
その姿勢に応援に来ていたほかの人達も魅入っている。
(何者にも負けません。いざ、有言実行ですわ。)
カノンと相手がお互い位置に着き顔を見合わせる。場が緊張している中笛が鳴り試合が始まる。
カノンが先に相手の道着の襟をつかみ技を掛けようとする。相手も負けずと技を入れられないように防御に入る。双方の攻防が2~3回続いたところで相手の体制が崩れたのをカノンは見逃さなかった。その隙をついて1本先制した。カノンは何かをつかんだ気がしてその後も攻防を続けながら無事に勝利をおさめた。その後のブロック内の試合で勝ち進み突破した。
そうしてカノンの集中力が切れることなく準決勝を迎える。相手の帯は紫色の実力者。双方位置に着きお互い顔を見合わせる。緊張の空気の中笛が鳴り試合が始まる。
先に仕掛けてきたのは相手の方だ。相手の技を防ごうと間合いを取ったり技を仕掛けたりするカノンだが、ことごとくかわされお互いなかなか技が決まらない。
カノンが焦る気持ちを落ち着かせながらどうにか攻撃に出るが、相手に防がれカノンに一瞬の隙が出来それを利用した相手に先制を取られる。そうして攻防を続け試合終了の笛が鳴る。
結果は惜しくも4位。カノンの経験が足らず相手に勝利を納めさせてしまった。だがついこの間空手を始めたばかりとは思えないような結果に皆が驚きカノンの頑張りを称賛した。
カノンは(技術や知識があれど経験がまだまだ足りませんわ。次こそは)と負けず嫌いが発動し一層空手に身を投じるのだった。
全試合が終わり応援に来ていた皆に挨拶をするカノン。
「一ノ瀬さんかっこよかった~。応援に来て正解だったよ。お疲れ様~」
「一ノ瀬さん。お疲れさま!ついこの間始めたばかりなのにすごいね!」
「美桜ちゃんお疲れ様!かっこよかったよ。また美桜ちゃんの株上がるね!」
などクラスメイトや峰岸君、原さんたち皆が労いの言葉をかけてくれた。
「一ノ瀬さん。お疲れ様。未経験からのスタートで今日の成績はすごいよ。すごく努力したんだね。次の部活の時に昇級試験があるからこの調子なら飛び級で8級の青帯になるよ。冬の大会もまたあるから頑張って!」
と主将からも激励された。
カノンは今回の悔しさをバネに俄然やる気だ。次こそはトップ3に入ることを目指すカノンだった。
努力しても実らない時もあることを知っているカノンは努力したらした分だけ成果が実ることを知り今の生活が楽しくて楽しくて仕方がない。