~Another story~
カノンと美桜が元の国に戻り、日常を送る事数日後。
―――現代日本。
「(前略、カノンちゃん。
私は今、『夏休みが明けると、高校三年生は受験やら進路の事やらで忙しくなるから今のうちに遊んだほうがいい』
と言う要お兄ちゃんの提案で、雅君やいのりちゃん、お父さんにお母さん、それからお兄ちゃんとグランピング施設に遊びに来ています。
カノンちゃんの日記…読みました…。
夢の中で聞いた以上にいろいろされてて…休み明けの学校が少しだけ怖いです…。
ですが…いのりちゃんとの写真…とてもかっこよくて、カノンちゃんらしいなって思いました。
最近では、家族との会話も以前より増え、今回のグランピング施設の近くにフルーツ盛沢山のスイーツがあるとお母さんが張り切って調べていました。
スイーツのデザインの参考になればいいなと、楽しみです。
家族皆、私の夢を応援してくれています。
それでもお兄ちゃんは相変わらず不愛想です。
けど、前より話す事が多くなって、不愛想の中に優しさも見えて、改めて不器用な優しさを持った人なんだな…って思った今日この頃です。
あ、それと空手は、部活は引退ですが、外の教室は高校卒業するまで通う事にしました。
カノンちゃんみたいに強い人でいられるかわかりませんが…私なりにやってみます!
そうだ!この間、いのりちゃんからカノンちゃんの演奏を録音した物を聞きました。
すごく心に響いて、カノンちゃんらしいなってイメージ出来たのと、皆、カノンちゃんに優しかったんだなと思うと、すごく嬉しかったです。
……カノンちゃんも、皆宛に手紙…書いていたんですね。
読んだ皆の反応…見せたかったな…。
特にお兄ちゃん…珍しく、涙目でした。
いのりちゃんとお母さんは号泣してて…。
お父さんも涙目になってて、雅君も寂しそうなお顔でした。
いのりちゃん曰く『カノンちゃんも美桜ちゃんも同じ世界にいたらよかったのに…。』と言ってくれたんです。
私も…カノンちゃんと同じ世界で生活してみたかったです…。
カノンちゃんは今…どう過ごしてますか?
私はこれからも前を向いて頑張って行こうと思ってます。)」
「みーおちゃーん!!!早くしないと置いてっちゃうよーー!!!」
「いのりちゃん、待ってーーー!!!」
美桜は、車から降り、荷物を持ちながら考え事をしていた。
そんな美桜を少し遠くの方から原さんが呼び、皆のもとへ駆け出す美桜だった。
―――。
一方、アルストロメリア王国。
「………。」
「「~♪~~♪~♪。」」
「………あの…お二人とも…。」
「「ん???」」
「いい加減、わたくしから離れてくださいまし。
暑苦しいですわ…。」
「そんな!冷たい!!カノンが戻って幾日だが!!君がいない間、と~~っても寂しかったんだ!兄ちゃん!!!」
「……そのお言葉…何度目ですの…。
殿下もですわよ…。
離れてくださいまし…。」
「フロックス殿に同意だよ。
君がいない間、すごく寂しかったからね。
もう離さないよ。」
「いえ…離れてくださいまし…。
歩きにくいですわ。
それに、早めにお仕事を済ませないと、この後も予定は詰まっていますのよ?!
療養施設の経営で欠かせないお部屋の模様替えに、食事の考案、緑や畑の増量、雇用、女性の鍛錬…。
いろいろ視察もしないといけないですし、まだ発展途上でこれからって時にくっついている場合ですか!!
しかも!公衆の面前で!!道着姿の淑女に!!
大の男二人が!!」
カノンは療養施設の経営の為、現代日本で学んだノウハウを活かしている途中で、普段は父のオリヴァーや兄のフロックス、皇太子のライラックと書類整理をしている。
だが、この日はカノンが女性陣に空手の技を教えるため、鍛錬場へと足を運んでいたのだが、屋敷を出る時から鍛錬場に来るまでの間、フロックスはカノンの左腕を組み、ライラックは右腕を組み、何度離れてと言っても聞く耳を持たない二人。
ちなみに道着は、服飾に力を入れているカーネリアン家と、フローライト家御用達の仕立て屋のサーラに依頼をして作ってもらった。
「カノン様、道着と言うお召し物…とてもお似合いです。
サイズもぴったりでよかったですわ。」
「ありがとうございます、アイリスさん。
……それにしても…お二人とも…いい加減、離れてくださいまし!!!」
「「うぉ?!」」
カノンは鍛錬場についてもいまだ離れない二人の腕を振り払い、一歩距離を取り、当たらない範囲を保ちながら回し蹴りで二人をけん制した。
その動きに二人はカノンの思惑通り、体を飛びのけ、少しだけ距離を取った。
それを見た女性陣はかっこいいとカノンを称賛し、もっと見せて欲しいと駆け寄って来た。
カノンはその様子に戸惑いながらも、技を見せ、空手の基礎を教えていった。
カノン一人だと教えるには人数が多いため、フローライト家の用心棒のジェードとシェルにも手伝いをしてもらっている。
「…あぁ…カノン…女性からあんなにモテモテで…。
お兄ちゃん寂しい…。
それにあの動き…たしかにかっこよかったが…。
だんだんと強く逞しくなっていって…。」
「あれはさすがにカノンに同意ですわ…。
お兄様が悪いですわよ…あと、殿下も…。
寂しかったのはわかりますが、ここ最近ずっとくっついているではありませんか。
しかもカノンがお仕事している間も!!」
「サントリナ様の言う通りですわ!!
カノン様の邪魔になるような事は控えてくださいまし!!」
「うむ……今回ばかりは…私も助けられぬ。
カノンから習った言葉で…えぇっ…と…励ます言葉…。
あっ……ドンマイ。」
カノンが女性達に指導をしているのをフロックスやライラックは寂しそうに見ており、オリヴァーやアイリス、サントリナは呆れながら二人を説教していた。
カノンは指導の途中、自分の動きをやめ、家族と、友達、大切な人の様子を見ながらにこやかな笑顔を浮かべた。
「(前略、美桜ちゃん。
お元気してますか?
わたくしは以前にも増して、今の生活が楽しく思えて仕方がありませんわ。
国に帰ってきて、スリジエの花が咲き誇っているのを見て、とても胸が熱くなりました。
サプライズというものですわね…。
とても…嬉しかったですわ…。
帰ってきてしばらくは、お兄様達が美桜ちゃんロスをしていましたのよ。
お兄様なんて、お兄ちゃん呼びがそうとう気に入ったのか、ずっとあの調子なんですの。
美桜ちゃんからのお手紙…すごく喜んでいましたわ。
殿下以外、皆さん泣いていたのは今も鮮明に覚えています。
殿下は寂しそうにしていましたわね。
それから、アザレアの皆さんもイキイキとしています。
お菓子もすごく広まっていますし、この調子でどんどん現代日本での知識や技術を駆使して国をもっともっと良くしていきますわ!!
国が安定したら…三種の神器を作るのに励みたいですわ!!
この国にも冷蔵庫やエアコンが欲しいのです!!
美桜ちゃんがこの国に残した物…ちゃんと守っていきますわよ。)」
カノンは青く晴れ渡った空を見上げながら美桜の事を思っていた。