~GHD!~
カノンが倒れ、目を覚ましてから数日後の平日の放課後。
クラスメイト達は皆すでに帰宅したり、部活に行っており、教室にはカノンと原さん、峰岸君の三人だけが残っていた。
カノンは部活に行く準備をしており、原さんと峰岸君は帰る準備が整ったのか、カノンの席まで声を掛けに来た。
あの後カノンは体調も特に問題なかったので、すぐに学校へ復帰した。
担任の先生の言葉通り、カノンと峰岸君は廊下を全速力で走った件について、生徒指導室へ呼び出され説教を受け、原さんと峰岸君の補習に関しては、今回はお咎めなしと言う結果に終わった。
「ねぇ、カノンちゃん、期末の勉強、どんな感じ?もう二週間後だし、来週からは部活お休みなんだよね。」
「お勉強はバッチリですわ。抜かりありませんわよ。」
「さすが。原さんは?」
「………峰岸君…わかってて聞いてる?」
「……いや…予想はついていたけど…一応聞いてみようと思って。」
「はい!確信犯!!そういうのは聞かないのが暗黙の了解なのよ!……暗黙の了解の使い方…当たってる?カノンちゃん。」
「…当たってますわ…。この間のわたくしの夢に関する発言は、ものすごく賢い感じがしましたのに…。」
「カノンちゃんの夢は、ファンタジー要素が強いからね。ファンタジーなら任せて。」
「「………。」」
原さんのいつもの調子のいい言葉に、カノンと峰岸君は呆れた顔を向けた。
「そんな事より、カノンちゃん、そろそろ部活の時間だよね。長々と引き留めてごめんね。」
「…そんな事で済ませた。」
「たしかに、部活のお時間ですわ。行って参ります。」
「うん、今日もケガがないようにね。あ、あと、例の噂にも気を付けてね!」
「え、えぇ…あの女の人の噂ですわね…見かけたら、全速力で逃げますわ。では、また。」
カノンが原さんや峰岸君と別れ部活に向かい、普段通りの部活動を終えた。
「ふぅー…今日もいい汗かきましたわ。あの練習試合の後以降、調子いいですわ。
このまま試合もいい結果が出せるように努めますわよ。
……陽が落ちるまでお時間、まだありますわね。」
カノンは着替えを済ませながら時計を確認し、徹の言いつけ通り連絡を一報入れ、武道場を出た。
そうしてカノンがテスト勉強や部活、日常の諸々に程よく力を入れて難なく生活を送る事一週間。
期間は期末テストを来週に迎えており、その間、例の噂話は日に日に生徒達の話の中心となっていった。
そんなある日の朝の教室。
「おっはよ~、みーおちゃん。」
「……おはようございます…いのりちゃん。」
「うわ、どうしたの…目の下…すごいクマだよ…。」
「…ここ数日…よく睡眠が取れていませんの…。」
「…もしかして…例の噂の…。」
「……はい…。」
「おはよう、原さん、美桜ちゃん。…?どうしたの?」
「………。」
「実は……。」
原さんとカノンがカノンの机で話をしていると、峰岸君も登校し、教室に入ってきた。
峰岸君もカノンを見るなりやつれた顔をしている事に疑問が生じ、問いかけてみると、口の重いカノンに変わり、原さんが説明をした。
事情を把握した峰岸君は納得した表情をしたのと同時に、心配の表情を浮かべた。
「んー…僕達に何かできる事…ないかな?」
「うーん……あ!噂ってさ、誰かが目撃したから生まれた…とか、興味本位でホラ話から生まれた…とかだよね。
この際、私達で噂をたどって、カノ…美桜ちゃんの為に、真実を暴こうよ!!」
「……でも、いのりちゃん…その噂…暴いても、本当にお化けだったらどうするんですの…。」
「その時はその時だよ。お化け対策をしたらいいと思う!!」
「…アバウト過ぎませんか…。」
「じゃぁ聞くけど、このまま正体不明の噂に負け続けてもいいの?
今もどこかでこうしてビクビクしているのを、嘲笑っているかもしれないよ?」
「…それは…とても不愉快ですわ。」
原さんの焚き付けるような言い回しに、カノンは闘志を燃やし、先ほどまで抱いていた怖さよりも負けん気の方が勝り、生気の無かった目に力が宿った。
「…原さん…焚き付ける言い方…。」
「ふっふっふ、結果オーライよ。これより、GHD活動開始!!!ちょうど部活も休みに入るし、さっそく今日の放課後からね!」
「…ん?なんて…?」
「…いのりちゃん…ジー…何ですの?」
「ジーエイチディーよ、GHD!ゴースト・ハンター・ディテクティブ!
幽霊退治探偵!!いのりちゃん!!」
「「………。」」
原さんは得意げな様子で説明し、腰に手をあて、目の横でピースを作り、ポーズを決め、名乗った。
その様子について行けなかったカノンと峰岸君は唖然とした様子で原さんを見ており、原さんはそんな二人の様子に恥ずかしくなり、顔を赤くした。
「二人してその表情やめて!ハズいじゃん!もぅ!とにかく、今日の放課後から噂に関して動くからね!ホームルーム始まるから席戻る!!」
原さんは、ちょっとだけ拗ねながら自分の席に戻って行き、カノンと峰岸君はそんな原さんの様子に顔を見合わせ、可笑しさが込み上げ笑顔を見せた。