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「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」  作者: 桜庵
最終章~最後の入れ替わり 最後の異世界生活・美桜編~
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~満開(後編)~

美桜一人が馬車に着き、後ろの方にいるであろう皆のもとに戻る気も起きず、一人馬車に乗って待つ事にした。

美桜は馬車の壁にもたれかかり、物思いにふけっていた。


「(どうして…急に、他人行儀になったのでしょう…。あんなに楽しそうに一緒に行動してくれて、お話ししてくれたのに…。何か…しでかしたでしょうか…。


私にとって…アザレアで復興に関わった事は、自分を変えるきっかけになって…自信にもつながって…とても貴重な体験をさせてくれました…。

私の中で、大切な場所だと思っていたのですが…。勝手な思い入れだったのでしょうか…。


努力しても実らない…そんな世界を知っていて…。それでも、実る事があるのも知ってる…。けど、今回は…実ってなかったのでしょうか…。復興の為に動いて…友達や、やっと付き合えた大切な人や、仲良くなり始めた家族を残してこの世界に来た事…間違っていたのかな。………こんな事考えている私…つまらないな…。)」


美桜は少し自嘲(じちょう)し、息を一つ吐き上を向き、目を閉じた。

美桜は泣き疲れた事もあり、意識が段々と遠のき、眠りについた。


美桜が眠りについてしばらくして、サントリナやアイリス達が馬車に戻ってきた。

サントリナが先に馬車に乗り、美桜が眠りについているのを見て、優しい笑みを浮かべ、すぐさま先ほどのハンプスとのやり取り見ていた事もあり、表情が少し曇り、複雑な表情を浮かべた。


皆は寝ている美桜を起こさないように馬車に乗り、帰路に着いた。


美桜達の馬車はフローライト家に着き、美桜はサントリナに揺すり起こされ、眠気眼(ねむけまなこ)の中家の中に入り、侍女のリリーとともに自室に戻った。


その日の夜の夕食。


皆で食堂に集まり夕食を採っていた。

その場の空気は少しだけ重く、皆が黙々と食事をしている中、カノンの兄、フロックスが場を和ませようと、明るく振る舞った。


「今日の式典!予想以上に盛り上がって大成功だったね!!準備したかいがあったよ!!あの貴族達の驚いた顔、すごく見応えがあったよ。(明日も楽しみだ!)そうだ、美桜ちゃん!明日、僕に付いてきてくれるかい?一緒に行きたい場所があるんだ。」


フロックスに突然話を振られた美桜は、急な事に動かしていた手が止まり、驚いた顔でフロックスを見て頷いた。

その様子を見てフロックスは満面の笑みで食事を進めた。

美桜も戸惑いながらも食事に戻り、黙ったまま食事を進めていたが、空気が和やかになった事で、フロックスはさらに手を動かしながらも、サントリナやアイリスに苗植の時の事を聞いて話に花を咲かせた。



翌日の朝。

美桜はフロックスと約束した通り準備を整え、一緒に馬車に乗りフロックスの思う目的地に向かった。


「そういえば、サントリナお姉ちゃん達、朝ごはんを食べた後、どこかに出掛けて行きましたが、どこへ行ったのでしょうか?」

「ん~~…どこだろう…。でも、きっと…花を咲かせに行ったんだと思う。」


美桜の問いにフロックスは笑顔で答え、美桜はそんなフロックスの言葉にキョトンとした表情で首をかしげた。


美桜とフロックスが馬車内で和気あいあいと話していると、フロックスが窓の外をふと視界に入れ、目的地はもうすぐと美桜に話した。


美桜はフロックスの言葉に窓の外を見ると、先ほどまでの穏やかな表情が一変し、今までのアザレアでの出来事を思い出し、表情に緊張が走った。


そんな美桜にお構いなしに、馬車は目的地、アザレアに着いた。


フロックスは意気揚々と馬車から降り、美桜は顔を強張らせながら馬車を降りた。

フロックスの軽い足取りに着いて行く形で、美桜は俯きながら、重い足取りをどうにか動かし歩いていた。


しばらく歩いていると、フロックスの足が俯いていた美桜の前で止まった。

美桜は俯いたまま、顔を上げられず、次第に体は震え、右手は胸の前でギュッと握り、左手はドレスの裾を掴み、心の内で葛藤していた。


「(……顔…上げなければ…わかっています…。だけど…顔…上げるの…怖いです。」


「美桜ちゃん、顔…上げてみて。」


葛藤する美桜にフロックスは、美桜にしか聞こえない大きさで優しく声を掛けた。

その声に美桜は、胸の前で握っていた右手に少し力が入り、深呼吸を軽く幾度かし、意を決し、ゆっくりと顔を上げた。


「………え。」


ゆっくりと顔を上げた美桜の目に飛び込んで来たのは、アザレアの大通り、マラカイト通りで、そこにはサントリナやアイリス、オリヴァーにライラック、それとハンプス含む、アザレアの街の人達が集まっていた。


「…えっ……と…。」


その光景に美桜は唖然とし、言葉が上手く出なかった。

そんな美桜にサントリナがにこやかに近づき、美桜に飲み物を渡した。


美桜が飲み物を受け取ったのを確認したハンプスが、美桜の前に近づき、街の人達がいる方を見て言葉を発した。


「皆、このアザレアは、過去の災害を機に、国や他の街から見放され、ついこの間まで、スラム街として周囲に認知されていた。だが!!一人のご令嬢が手を差し伸べた事によって、今は見違える程になった!!


新しい政策を、次々とこのアザレアにもたらし、光を差してくれた!!そのおかげで、他の街からの客足が止まらないでいる!!他の街からも、国からも、認められたこのアザレア!!私は!!このアザレアと!アザレアを復興に導いてくれたご令嬢を!!誇りに思う!!!皆!!準備はいいか!!今日は、ご令嬢に感謝し!!スリジエの花の開花を祝うと同時に!!!……(…すぅ)街の復興祭だーー!!」


「「「「わぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」」」」

「「「ありがとうーーー!!!カノン様ーーー!!!」」」


アザレアの長、ハンプスの熱意のこもった演説。

その言葉の終わりと同時に、その場にいる皆は満面の笑顔で、美桜に向かって、飲み物を持っていた手を突き出した。


美桜は突然の出来事に言葉を失ったままだったが、今、目の前で起こる光景に胸が熱くなった。

今まで抱いた自分の気持ちを恥じ、再び胸の前で拳を握り、溢れてくる感情を抑えきれず、涙を流した。


「私…バカですね…こんなの……。………よかった……ここにも…花と…笑顔が

、満開です。」


涙を流しながらも、美桜が久しぶりにアザレアで見せた満面の笑顔。

その笑顔に街の人達はまたも声を上げ、美桜の周りに集まる人もいれば、飲み物をカチンと合わせる人、お互いに抱き合う人達で溢れた。

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