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「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」  作者: 桜庵
最終章~最後の入れ替わり 最後の異世界生活・美桜編~
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~何もない~

美桜が一人でアザレアに行ってから一週間後。


王宮で会議を終えたライラックがフローライト家に戻り、オリヴァーやフロックス、サントリナもこの日は出かける事もなくフローライト家にいた。

いつもの日常。

のはずが、美桜だけが様子が違っていた。


美桜はアザレアから帰って来るなり書庫や自室にこもりきりになり、それが一週間経った今も続いている。

その様子はまるで入れ替わる前のカノンようだ。


ご飯は皆と食べるが、黙ったまま常に俯き、元気がないようにも考え込んでいるようにも見える。

それを知っている屋敷の皆は美桜に具合が悪いのか、街で何かあったのか声を掛けるが美桜は「何でもないです」の一言を返すだけだった。


この日も美桜は朝食を食べたのち、すぐさま書庫にこもった。

「(私に出来る事…何も…ない…。本を読んでこの国の事、もっと知る事が出来たら…何か出来るかもしれないと思っていたのに…。この一週間…さらに知る為に古い文字とか勉強して…少し読めるくらいになって…それでも出来る事……ない。私はいったい、何のためにこの国に来たの…。)」


美桜が書物を取っては読み戻し、また取っては読み戻す。

幾度そうした事だろうか気が付けばお昼を過ぎており、侍女のリリーが美桜を呼びに来た。


美桜とリリーが食堂に着くと、すでに皆が揃っており、美桜はいつもの席に着いた。

食事が運ばれ、黙々と銀食器を動かしていると、サントリナが美桜に声を掛けてきた。


「美桜ちゃん、この一週間…食事以外、書庫と自室にこもりきりで…気分転換に私とお出かけしない?実は…カーネリアン家のアイリス嬢も誘っているの。どうかしら?」

「お出かけ…行きます…。」

「よかった!お茶やお菓子も用意してもらいましょうね。楽しみだわ~。ふふっ。」


美桜は少し気乗りはしなかったが、サントリナの嬉々とした様子にこもりきりも良くないと少しだけ気持ちを切り替えた。


そのやり取りを見ていたカノンの兄フロックスやカノン父、オリヴァーが話に入ってきた。


「僕も行きたい!……と、言いたいところだけど…女の子同士のお出掛け、楽しんできて!」

「気を付けて行ってきなさい。あまり…帰りは遅くならないように。」


フロックスとオリヴァーの言葉を聞いた美桜は少し微笑んで返事をした。

「はい…行ってきます。」


今までやり取りを静かに見ていたライラックも話に入ってきた。


「女の子同士のお出かけ…か。僕も遠くから見守る形でついて行くよ。」

「……お兄様よりは安心ですので…あくまでも見守る形で…お願い致します。」

「僕より安心って何?!どういう意味!サントリナ!!」

「そのままの意味ですわ。」

「ははっ楽しみだなぁ。お許しもらえてよかった。」


目の前で繰り広げられる楽し気な会話。

美桜は楽しく思う反面、少しだけ寂しさも混ざり複雑な感情を抱きつつ食事を進めた。


美桜達の食事も終わり、出かける準備を整え、玄関先に集まった。

「さて、私も美桜ちゃんも、殿下も…準備、整いましたわね。参りましょう!あ!アイリス嬢とは現地で待ち合わせしているの。」

「そう…なのですね。」

「ふふっ。さ、行きましょう!」


サントリナに腕を掴まれ、引っ張られる形で馬車内に乗り込んだ美桜とサントリナ。

ライラックは言葉通り別の馬車に乗り、距離を取りながら二人を追いかけた。



しばらく馬車で移動していると、見晴らしのいい殺風景な場所に差し掛かった。

馬車の小窓から外を眺めていた美桜が呟いた。


「何も…ない。」


その呟きを拾ったサントリナが小さく笑い美桜に声を掛けた。


「何もない…か。今の美桜ちゃんみたいね。今の美桜ちゃん…何も熱意…感じられないわ。この世界に来て、お兄様に立ち向かった時のあの熱意…また見たいわ。」

「…サントリナお姉ちゃん…。」


「たしかにここは何もないけど…素敵なモノ、いっぱいあるの。それに…何もないって事は…何かを作ったり、事を起こしたり…これから何でも出来ると思うの。今から行く所…孤児院で…教会と併設されていて、広いお庭があるの。そのお庭…フローライト家に負けないくらいに広くて、お野菜を育てていたり、お花を育てていたり…。この時期にそのお庭にしか咲かない花があって…。私…そのお花、大好きなの。ぜひ美桜ちゃんにも見て欲しいわ。」


サントリナは小窓から外を眺めながら遠くを見るような目で美桜に語った。

美桜は静かに聞いており、乗り気の無かった心に言葉がすとんと入ってきた。

サントリナの大好きな花を語る横顔はすごく優しくて、美桜はどんな花なのか一目見たくなり影が落ちていた心に光が差し始めた。

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