～カノンの夢～
カノンは夢を見ていた。
辺りには何もなく、ただただ白い世界。
おまじないをした日には必ず見る夢。
だが、今回の夢は以前とは少し違う。
白い世界にたたずむカノンの前にはいつも美桜がいた。
だが、今回は一人だ。
辺りを見渡してもカノン一人。
「…いったい…どうなっていますの…いつもなら美桜さんがいますのに…わたくし一人。それに…なんだか違和感がありますわ…。前までは白くてキレイな世界だと思っていましたのに…今回は…寂しくて…空虚な世界…美桜さんがいないから？でも…それだけではないわ…。胸が締め付けられる…そんな感覚…。」
カノンが疑問に思いながらも思考を巡らせ、夢から覚めようとその場で動いたり、何もない空間に声を掛けてみるが夢から覚める気配がない。
カノンが試行錯誤している時、急に目の前の空間が揺らぎ始めた。
何もなかった白い空間に浮かぶ映像のようなモヤ。
そのモヤの中に美桜の姿があった。
モヤの中の美桜は辺りをきょろきょろと見渡している。
「美桜さん！！わたくしはここです！ここにいます！！気づいてくださいまし！！」
カノンはモヤの中の美桜に向かって声の限り叫んだ。
その声が届いたようで、不安そうにしているモヤの中の美桜とカノンの目が合った。
「美桜さん！よかった！今回の夢はどこか変なのです！！」
カノンは再び声を張りモヤに向かって叫ぶ。
カノンの声は届いているはず。
だが、美桜の様子がおかしい。
目は合っているはずなのに、彼女の顔はいまだ不安を浮かべている。
カノンが次の言葉を考えていると、モヤの中の美桜の表情は必死なものに変わり口を動かしている。
「………ン…さ…。ぜ………だ………。な………き………で…。…う……ば…………の………。」
だが、その声はひどい雑音でかき消され、何を伝えたいのか聞き取れない。
カノンは考えるより先にそのモヤに手を伸ばした。
触れられない。
わかってはいるが、必死にそのモヤの中の美桜に触れようとした。
「美桜さん！全然ダメですわ！何を伝えたいのか、聞き取れないです！どうすればよいのか、打開策が出ないのです！」
カノンは叫びながらモヤに近づくが、モヤは意思を持っているかのようにカノンの前から遠ざかり始めた。
「待ってくださいまし！まだ解決していません！触れなければならない！そんな気がするのです！！美桜さん！！！お願いします！！！！！わたくしの声…届いて！！！！！わたくしに！！！（すぅ）……触れてくださいましーーー！！！！！！」
カノンは遠ざかるモヤに叫びながら必死に追いかけた。
だが、モヤは遠ざかる一方。
カノンは息を吸い込みこれ以上ない声量で力の限りモヤの中に叫び幾度目かの手を伸ばした。
声が届いたかのようにカノンの手に少しモヤがかかり、それと同時に温かいものが一瞬カノンの手を握った。
それは美桜の手だった。
だが、握ったのは一瞬。
話す間もなく辺りは揺らぎ始め、カノンが困惑しているのをよそに意識が遠のいていく。
もうすぐ夢から覚める。
美桜と話す事ができなかった寂しさと不安…少しの恐怖を残して現実世界に意識が戻りつつあった。
