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第一話 死のうにも死ねない
ー大正十三年、帝都ー
関東大震災からの復興が進む帝都。
復興の一環として新たに建設された鉄筋アパートメントの一室で、一人の男が畳の上に正座をして座っている。
キュッと真一文字に結んだ口元。切羽詰まった眼。そして男の視線の先にある短剣。
男はぶるぶると震える手で短剣を取る。そしてゆっくりと刀を抜く。
草気も眠る丑三つ時、刀身がギラリと月の明かりを反射する。
短剣の持ち手に左手を添えて、刃の先を自分の腹に向ける。
「ーうっー」
力を込めるが刃先が腹に届かない。そのまま数分間の時が流れた。
刀を鞘の戻そうとすると途端に手が憎たらしいほどに言うことを聞く。
そして畳の上に大の字になって寝転ぶのだ。
「ー臆病者だー」
そう呟いた男の目から、涙が溢れた。