[短編]鏡の国のパンダ通信
初雪が降った朝。
目が覚めると寒気がした。
体温計で測ったら、熱がある。
会社に休む連絡をしてから、食パンを1枚はむはむとそのまま食べて、薬を飲んで布団に入った。
ちょっと心細くなって、この間貰ったパンダのぬいぐるみを抱っこして丸まる。
窓ガラスの向こうには、白い雪がふわふわと舞っている。
夜にはもっと雪が降るらしい。
「夕方までに熱が下がったら、コンビニにご飯を買いに…」
行かなきゃと思いながら、そのまま眠りに落ちた。
モノクロの夢を見ている。
そして、ふわふわしている。
ふわふわ?
夢の中で目を開けると、もこもこしたパンダがたくさんいた。
「えーん」
「あーん」
甲高いかわいい声で鳴いている。
よじよじと私の顔の近くによって来ては、顔をこすりつけてくる。
お腹の上にも子パンダ。
肩にも胸にも、もじもじと動き回る子パンダ。
「あったかい…」
首周りにふわふわしたパンダの体がくっついて、丸いお尻が目の前でころんと転がる。
ぼんやりと眺めていると、部屋の隅にある姿見鏡の前に、パンダのぬいぐるみが座っていた。
ぬいぐるみは時々起き上がって、鼻先を鏡につけると、鏡の中から子パンダがよちよちと一頭ずつ出てくる。
「ああ、鏡で増やしているのね…」
大量の子パンダの謎が解けて納得していると、またふわふわとした感触が顔にやってきたので、そのまま目を閉じた。
「あったかぁい…」
ふわふわとした感触に目を覚ますと、もこもこのフリース姿の友人・繭が私に毛布を掛けていた。
「あれ?なんで?」
「何かあったらお願い同盟で、鍵をお互いに交換してたでしょ?」
「そういえば」
"30過ぎのひとり暮らしは相互協力"というスローガンの元、鍵を交換したのは2年前。
「すっかり忘れてた…」
「はい、ご飯。あと、しばらくの食料品。熱は?」
「何か、いい夢を見てた…」
ぼーっと部屋の隅を見ると、抱っこして寝ていたはずのパンダのぬいぐるみが、見事に姿見鏡の前まで転がっていた。
そういえば、ぬいぐるみをプレゼントしてくれたのは繭だった。
あれ?
「私、繭に連絡してた?」
会社に連絡した記憶はあるけれど。
「うん?鏡の向こうから、あの子が教えてくれた」
繭が指差した先には、パンダのぬいぐるみ。
「お守り、役に立ったみたいね」
にこりと笑う繭に、説明を求めるより先に別の事を口にした。
「あの夢をもう一度お願いします」
その夜、大雪の中、私は再びぬくぬくの夢を見た。
朝起きると、熱は下がっていた。