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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『クロ殿下と剣聖ヴェイセル』

【短編】ふわもふフラッフィな侯爵子息に嫁ぎましたところ【改稿済】

『クロ殿下と剣聖ヴェイセル』に登場するコーラルディーナの婚姻譚です。本編を読まなくても多分わかるように?書いたつもりです。

※誤記修正しました<(_ _)>


ここは北方に位置するエストレラ王国。冬は寒く地域によっては立派な豪雪地帯も存在する。


このエストレラ王国には()大公と呼ばれる5大公爵が存在する。エストレラ王国の王女であるコーラルディーナは恐らくこの6大公のいずれかに嫁ぐと思っていた。


しかし急遽、離宮に幽閉中の異母兄あにが起こした問題により、コーラルディーナはまさかの5大公のひとり、クォーツ公爵家ではなくその遠戚でクォーツ公爵家が治めるクォーツ州の中のクリスタ領を治めるクリスタ侯爵子息に嫁ぐことになってしまった。


しかも嫁入りとはおめでたいはずなのだが、コーラルディーナの表情は暗い。彼女がクリスタ侯爵子息に嫁がねばならなくなった原因が―亜人差別―と呼ばれる問題だ。


他国では人族至上主義も珍しくはない。結果的に“亜人”の括りに入る獣人族の地位が低いことは多くある。しかし多種族国家であるエストレラ王国には獣人族の貴族もいれば、過去に獣人族の王もひとりだけいたとされる。


その獣人族の王の母方の実家が、現在コーラルディーナが嫁ぐことになったクリスタ侯爵家で、エストレラ王国の中でも最も歴史が古い。5大公の中で唯一の獣人族の公爵家よりもさらに国内で絶大なる影響力を持った獣人族の貴族である。


それゆえにクリスタ侯爵家は国内でも相当の権力と実力がある。しかし一方で、人族至上主義を抱える一派がないわけでもない。その一派に加わって先導していたのがコーラルディーナの異母兄あに。父王はコーラルディーナの異母兄いぼが起こした事件により、獣人族との関係、ひいては人族以外の関係が悪化したことにより彼らとの関係修復のために嫁ぐことになった。


彼女が向かうクリスタ領が属するクォーツ州は、獣人族の他にも魔人族まじんぞく竜人族りゅうじんぞく天人族てんじんぞくなど多くの種族が暮らす多種族州である。


だから異母兄あにの人族至上主義によって生まれた他種族たちとの関係修復にはもってこい。しかも彼らの中でも特別なクリスタ侯爵子息がに嫁ぐとなればその影響は国内でも増すだろう。


別に、それに不満はない。獣人族に嫁ぐことが嫌なわけではない。むしろふわもふフラッフィは大好きだ。わふたん(狼)系ならさらに好き。


侍女たちの中にもふわもふフラッフィな獣人族は多かったし、近衛騎士隊にも実力と天性の素質を持つ獣人族を推薦した。もちろん魔法も剣も優秀な魔人族、竜人族もいる。ヒーラーには天人族だっている。


そう言ったコーラルディーナの方針も恐らく異母兄あにの人族至上主義に火をつけてしまったのだろう。だからこれはコーラルディーナの責任でもあるのだ。


父王の子はコーラルディーナと異母兄の2人だけだ。異母兄が改心すれば彼が王太子となる。だがそうでなければ王家はコーラルディーナが嫁いでしまうので恐らく従兄弟を王太子に迎えるだろう。


直系の姫をわざわざ嫁がるほどに関係修復に必死なんだということのアピールだ。


現地でははっきりいってどんな対応を受けるかどうかわからない。だってコーラルディーナは人族至上主義を掲げて問題を起こした異母兄の、妹なのだ。彼らに怨まれるかもしれないし疎まれるかもしれない。夫となる子息にも元より嫌われているかもしれない。


けれどこれは国のための政略結婚だ。文句や不満を言うわけにはいかない。


「コーラルディーナ王女殿下、つきましたよ」

やがて御者台から声がかかる。御者を務めるのは現地の情勢に配慮した獣人族の騎士である。他にも獣人族の侍女も同行してくれた。


馬車の扉が開き、騎士がエスコートしてくれる。馬車を降りた途端、歓声が沸き起こる。


(え?何?)


コーラルディーナは恐る恐る馬車から降り騎士にエスコートされて進むと、その先には茶色の毛並みの狼耳しっぽの青年、通称・茶狼族さろうぞくと呼ばれる獣人族の青年が立っていた。

凛々しい眉、力強い双眸、そして何より特徴的なのは。ふわもふフラッフィなわふたん(狼)ケモ耳、そしてしっぽ!!


(きゃあああぁぁっっ!!!何よあれ!あんなにふわもふフラッフィなんて、聞いていない!!一体どんなご子息なのかと思いきや。最っ高に好みだわ!!しかもわふたんじゃないっ!!)


わずかなともを連れ嫁入り先にやって来たコーラルディーナだったが、目の前に現れたふわもふフラッフィな青年に目が釘付けになった。


(やだ、どうしよう)


頬が紅潮して体が熱い。でもいきなり口を開いて幻滅させられたらどうしよう?ただでさえ自分は王家の姫。嫌われている可能性だって十二分にある。いきなり嫌われるかもしれないし、卑下される視線を向けられるかもしれない。


―――その時、何故か獣人族の女性たちが駆け寄って来て私は頭にベールを掛けられる。

(え、何っ!?)


「姫、どうぞお手を」

目の前の青年が手を差し出している。


「は、はい」

何だかわからずに青年の手を取り、目の前の建物に入る。ここは、祭壇?エストレラ王国を含むこの世界には精霊がいる。その精霊を祀るのが祭壇である。いきなり祭壇って一体、どう言うことなのかしら?


そう思って祭壇の中に足を踏み入れるとそこは礼拝堂のようで。青年にエスコートされて進んでいくと、そこには彼と同じ茶狼族の青年がいた。祭服の胸元を見ると祭壇の司祭を示す六角星の金色のエンブレムをつけている。


そして彼の隣には猫耳しっぽのかわいらしい女性がおり、一瞬獣人族の一種“猫族”かと思うが背中から真っ白な羽が生えている。その特徴をもつクリスタ祭壇にいる存在と言えば。―――事前に聞いていた知識を思い起こす。


(彼女はクリスタ祭壇で祀られている“星の精霊だわ”)


目の前にいる司祭、星の精霊さま、そして私に掛けられたベール。私の隣でエスコートする茶狼族の青年。


「それではマティアス・フォン・クリスタはコーラルディーナ・リィン・エストレラの夫となり、生涯妻を愛することを誓いますか?」

と、司祭が告げる。


(―――ん?)


「はい、誓います」

青年・マティアスが何の躊躇いもなく答える。


「コーラルディーナ・リィン・エストレラはマティアス・フォン・クリスタの妻となり、生涯愛することを誓いますか?」

と、司祭。


「え?あ、はい。誓います?」

何故か疑問形になってしまった。


(えっと。これってもしかしてとは思うけど。てか確実にだけど)


「では新たな夫婦となるふたりに精霊の祝福があらんことを」

司祭が告げると、隣に立つ星の精霊さまが優雅に微笑んでくれる。


(あれ?私今、結婚しちゃったの?)

呆然としていると不意に腰に手が当てられ、コーラルディーナの体が浮き上がる。


「あ、ちょっ!?」


「さて。これからよろしくな、姫さん!」

と、青年マティアスは、コーラルディーナを抱き上げにかっと微笑んだ。

そして周りからも拍手が巻き起こる。


「あの、私は」


「どうした?心配するな!俺はこれでも騎士だ。だからどこまでもいつまでも、姫さんの隣で俺は姫さんを守り支えると誓おう」


「―――っ!マティアス、さま」


「“マティアス”と呼んでくれ」


「マティアス。私は、“コーラル”よ」


「そうか、コーラル!俺の嫁になってくれてありがとうな!」

そして茶狼族ならではの細い腕の感覚を感じるが、その腕の温もりはとても力強く温かかった。


「―――私の方こそ。マティアス、ありがとう」

コーラルディーナは今までの不安が嘘のように、マティアスの屈託のない笑みにつられ、人生で一番の笑顔をマティアスに向けたのだった。


(あぁ、初夜にはそのふわもふわふたんしっぽをもふらせてくれるかしら?)

そんなことを考えながら、マティアスの腕の中でコーラルディーナはこれからの人生に安堵したのだった。


―――


その後一男をもうけたコーラルディーナとマティアスの元に衝撃の知らせが入る。

健康であったはずの父王のまさかの崩御、そして新たに王位に就いたのは。


―――幽閉されたはずの異母兄あに


そして彼は歪んだ人族至上主義を掲げ改革を始めた。


「なぁ、コーラル。いや、姫さん。俺は姫さんの一番の騎士として、姫さんを守り支える」


「―――マティアス。わかったわ」


その日、反旗をひるがえしたクォーツ州とそれに隣接するカンナギ州は蜂起した。その反乱軍は後に“西部辺境軍”と呼ばれることになる。


コーラルはクリスタ侯爵子息マティアスの妻から西部辺境軍の御旗みはたとなり、正統な王位継承権を掲げる王女のコーラルディーナに戻った。


そしてマティアスはコーラルディーナの夫から、後に“海賊王女”“山賊女皇さんぞくじょこう”などの愛称で呼ばれる彼女の側で常に忠義を尽くすひとりの忠騎士となった。


「さぁ、西部辺境軍よ!私たちは一方的に他種族を蹂躙し、己の権力と力を欲しいままにする偽王をほふり、この手に他種族国家・エストレラ王国の真なる姿を取り戻す!そしてこの手に必ず正統なる女王の座を掴みとって見せる!私に続いてくれるか!!」


『おおぉ―――――っ!!!』

コーラルディーナとその傍らに控える忠騎士マティアスの前には蜂起した西部辺境軍たちが勢ぞろいしており、みな猛々しく決起の声を上げる。


後に反乱軍としてエストレラ王国の真なる姿をその手に取り戻し、コーラルディーナがエストレラ王国の女王として君臨するのはまた別のお話。


大公家の数が間違っておりました:5→6。大公家の数については本短編を読むにあたって特に弊害はありません。本編の『東部動乱【~編】』までを読むと誤記の理由がわかります。

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