馬車での道中
大変遅くなりました。
ストイズと王都の間にある森、『アフの森』。
奥地に行かなければこれといった危険のないその森を1台の馬車が進んでいく。
馬に引かれ規則的な車輪の回転が軋みを立て回っている。
そんな中馬車には奇妙な静寂が漂っていた。
その静寂を破ったのは1人の少女だった。
「ねーねー折角だし自己紹介しない?どーせ王都まで暇だし。」
数秒の沈黙の後クリスティーネが口を開いた。
「そーね、黙ってても暇は潰れないし。」
そう聞くと少女が立ち上がり、名乗りを上げた。
「ってことで私から!私はレイナ!生まれはアッシェドだよ!王都へは学園に入学するために行くんだ!街中であったらよろしくね!」
「学園へ入学?学園は今冬休み中で、入学はまだ先じゃないかしら?」
「王都で冒険者登録もしに行くんだ!ついでにダンジョンとかも見てみたいからちょっと早めに王都にきたの!」
「なるほどね」
「それと私はレイでいいよ!レイナってなんか女っぽいし。」
「わかったわ…よろしくねレイ、私はクリスティーネ・シュリュンツよ、王都の学園でで魔術講師をしているは、入学したら歓迎するわ。」
「先生だったんだ!よろしくね!クリス先生!……じゃあ次は…君!」
「えっ……えっと………。」
話を振られたテトラが困惑する。どう応えたらいいか、クリスティーネの顔を見る。
「この子はテトラよ、あなたと一緒で学園への入学ってことで王都へ向かってるは。」
「そうなんだ!じゃあ同級生だね!学園ではよろしくね!」
「よ、よろしく…おねがいします。」
大体の自己紹介が終わり残すところあと一人となったその人物に視線が向かう。
未だ本から顔を上げず馬車の隅に座っている神経質そうな男に声が掛かる。
「あなた、名前はなんて言うのかしら?」
しばらくしてから本から顔を上げた男が3人を見る。
「はぁ……たった数時間の旅路ですよ?自己紹介の必要がありますか?」
男がため息をつきながらそう言った。
「同じ馬車に乗った者同士、仲良くしましょうよ。」
「別に私は馴れ合うつもりは「いいじゃんいいじゃん名前を言うぐらいさ!」………はぁ、わかりましたよ。」
レイナに毒気抜かれ、諦めたように男が本を閉じた。
「私はアルゼント・カールハイム、地方の貧乏男爵家の一人息子ですよ。」
「おー!貴族様か!敬語とか使った方がいい?」
「今更遅いと思いますよ…それにあなた敬語なんて使えるんですか…。」
「あははは!無理だね!」
レイナの軽い物言いにアルゼントと名乗った少年が呆れたような表情を浮かべた。
「その本、気になってたんだけど錬金術教本の『土人形構造大全』よね?あなたも学園の入学者かしら?」
「…そうです、私も来年から入学する予定です。入学までは王都で錬金術の研究でも行おうと思いましてね。」
「もうその魔術教本が読めるんだったら特進科に入学ってとこかしら?勤勉なのね。」
「何なに~?特進科って?」
「き、君…入学するのに学園の学科も知らないのかい?」
信じられないものを見るようにアルゼントがレイナを見る。
「えぇー!みんな知ってるの?テトラは知ってた?」
「えっ?ぼ……ぼくもしらなかったです。」
「はぁ…君たち自分が入学する予定の学園の学科くらいは知っておくべきだろ?……仕方ないこの際だ僕が学園の学科について説明してやる。」
(案外面倒見がいいのね…)
「いいかい?まず僕らが入学するグローズ魔術学園は基礎科と特進科の2つに分かれている、基礎科は簡単な筆記と実技試験だ、まぁ試験と言っても学費さえ払えば誰だって入学することができる。そのためそれなりに受験者は多い。」
「私は魔術使えないけどそこに入るの?」
レイナがアルゼントに質問を投げかける。
「安心しろ、試験には実技は魔術試験か武術試験のどちらかを選ぶことができる魔術学園という名ではあるが剣術などの選択科目も存在する。」
「なるほどね!」
「そしてもうひとつが私の狙っている特進科だ、筆記試験のレベルも高く、魔術などの実技試験共に難易度が非常に高い!そのため私はこの入学のために今までを魔術に費やしてきた、特進科に入りさえすればあとは錬金術の研究が好きなだけする事ができる!きっと学園内には我が家の書斎でも見たことない錬金術の蔵書が眠っているはずだ!きっと私は偉大な錬金───」
話の途中から自分の世界に入ってしまったアルゼントをおいてレイナが話し始める。
「じゃあ私が入るのは基礎科かなー、筆記苦手だし、テトラは魔術での実技試験?」
「う…うん」
「そっかぁー私は武術系に進むし、あんまり学園じゃ会えないかもね」
そう言うレイナの表情は残念そうな顔をしていた。
「1年の後半からは好きな学科を取れるしお互い興味のある学科を取れば会える時間が増えるかもね。」
クリスティーネがレイナに助け舟を出す。そんな3人の会話の中ようやく自分の世界から戻ったアルゼントが声をあげた。
「──って君ら聞いているのか!」
馬車の中に笑い声が響いた、その後も馬車は寒空の下、森の中を進んでいく。