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生命に灯る輝きに  作者: 黒いオバケ
2/4

生の実感

毎日投稿してる人の凄さを知りました。

 

「随分と可愛らしい顔立ちじゃない!ほんとに男の子かしら!」


  そう言って黄色い声をあげたのはクリスティーネだった。


「悪くない顔立ちとは思ってたけど、まさかここまでとは、ちょっと女性として自身無くしちゃうわ!」



  事の始まりはクリスティーネが宿泊しているという『夕暮れの笑い声』の庭にある水場で体の汚れを落とすため水浴をした時、汚れの落ちたテトラを見てクリスティーネがその顔立ちの良さに気づいたのが発端(ほったん)だった。


  道すがら買った簡素な服装に身を包み、落ち着かない様子の翡翠(ひすい)の瞳が部屋を見回している、きめ細やかな緑髪を肩にかけ、まだ濡れているのかワンテンポ遅れて髪から落ちた雫が少年の頬を伝い地面に落ちた、本当に男の子かと疑いたくなる美貌(びぼう)がテトラには備わっていた。


「あの…え、と…ぼ、僕はこれからどうすればいいですか?」


  少年の不安げな物言いがどこか庇護欲をかき立てる。


「とりあえず食事をした後ここに1泊して、明日王都に発つわよ。」

「…おうと?」

「驚いたわね、王都も知らないの?この国の首都よ?」


  心底驚いたような表情のクリスティーネにテトラは自分の境遇(きょうぐう)と呼べる程もないここ数日間の出来事を語った。


「なるほど…俗に言う記憶喪失(きおくそうしつ)ってやつね。」

「きおく…そうしつ…」

「そうよ、もう一度確認するけどほんとに名前以外何も覚えてないのね?」


  首を振り頷く。


「そう…なかなかきな臭い話しね、ただの孤児ならまだしも、記憶喪失であの路地に倒れていただなんて、にわかには信じられないわ。」


  クリスティーネは一瞬悩んだ表情を見せると、すぐに顔をあげた。


「いいわ、食事まで時間があるし、簡単な話をしましょ。」


  そう言ってクリスティーネから話されたのはこの国生い立ちであった。

  話によるとこの国は『ラディオ王国』と言うらしく、彼の建国王ラディオ一世から始まり代々王位を継承し続けている王立国家だ。

  今いる街はカラザの街と言うらしく、ラディオに属する都市のひとつで明日向かう王都はメイルゲーンと言うらしい。

  王都にはクリスティーネの職場であるグロース魔術学院が建っている。

  その他に彼女は魔術の話などを聞かせてくれた。




「さて!そろそろいい時間ね!テトラ、下に降りて食事にしましょ!」

「は、はい、えっと………」


  返事に口篭(くちごも)るテトラの意図を察したのかクリスティーネはこう言った。


「フフッ、呼び方はなんでもいいわ、普段学園だと生徒からは先生とかクリス師匠とか呼ばれてるはね」

「はい、ク、クリスししょう。」

「フフッそれじゃ行きましょうか。」


  そう言って手を引かれたテトラは1階に降りていった。



 

 既に外には夜の(とばり)が降り、窓からは街路に、並べられた明かりの光が見えていた。

 1階は仕事帰りの人々で溢れており、賑やかな笑い声が食堂のホールに響いていた。

 テトラ達は手短に近場の席を確保し、クリスティーネが給仕を呼んだ。

  ホールの笑い声に混じりあたりの噂話が聞こえてくる。


「──おいおい聞いたかよこの街の南にある森にラディオ一世が冒険者時代に隠した財宝が眠っているって話だぜ?」

「─そんな話嘘に決まってんだろ、ガキだって知ってるぜ、それよりも新しく出来た娼館がまた────」


「──まーたあの鍛冶屋が値上げしてやがった!今月で銀貨1枚は上がってるぜ?」


「─最近王都の近くに『英雄泥棒(えいゆうどろぼう)』が出たって話だぜ?」

「まじかよ見つけたらとっ捕まえて大金持ちだな!」

「やめとけやめとけどーせ命をドブに捨てんのがオチだって。」


  大半は根も葉もない噂話が右から左へと流れていく。

 


「お、お待たせしました!注文お伺いします。」


  気の弱そうな少女が慌てたように注文を取りに来た。


「テトラ適当に頼んじゃうわね?」

「はい」

「2人前で豚鬼(オーク)の骨付き肉をひと皿とこの子にスープとパン、あとエールと果実水を」

「かしこまりました」


  手短に注文を取ると少女は厨房(ちゅうぼう)にかけて行った。


  しばらくして運ばれてきたパンとスープ、2人前の骨付き肉の匂い誘われて、今までなりを潜めていた、腹の虫が声をあげる。


「フフッそれじゃ頂きましょうか!」

「はい…」

「命に感謝を……。」

「…い、いのちにかんしゃを…」


  目の前にはあの路地で目覚めてから初めてのまともな食事、ゴミを漁って食べるような土混じりの固いパンではなく、しっかりと焼き上げられたパンが確かな弾力を返してくる。

 遠慮がちに手を伸ばした豚鬼(オーク)と呼ばれるものの骨付き肉、今まで食べたことの無いこの世の旨みを凝縮(ぎょうしゅく)したような味がテトラの口内を駆け巡る。それらの余韻(よいん)を残すかのように、枯れた井戸の泥水とは違う、果実水の甘みが全身に満ちていく。


  自然とテトラの頬を伝う一滴の雫、本来ならあの薄暗い路地で迎えていたはずの命が確かな生の実感を感じ、テトラのごちゃ混ぜになった感情と共に涙が零れ落ちた。


  一心不乱(いっしんふらん)に泣きながら食事をするテトラの様子を見てクリスティーネは静かに微笑んだ。



 



 夜は更けていく。

小説書くのって難しいですね。

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