カナリアの聲〜王子視点〜
サラッとお読みください。カナリアの聲のイワン視点です。※胸糞注意報
俺はカナリアの声を奪ってしまった。
ウェイン兄上は体が弱いが優秀だった。俺が何日も勉強した事も兄上は数時間で覚えてしまう。兄上は体が弱い事を除けば、素晴らしい人間だった。皆が兄上を褒め、俺はいつも兄上と比べられ、兄上と同じものを求められ落胆される。結局は俺はもしもの時の兄上の代わりでしか無いのだ。
俺の婚約者であるカナリアは容姿は普通だと皆んなが馬鹿にするが、カナリアは誰もが賞賛する美しい声をしていた。本当はカナリアの容姿も声も俺は好きだった。たけど俺は自分の心に素直になれず、いつも酷い事をしてしまう。きっと、カナリアも兄上の方が良かったのだと。
でも、カナリアは俺がどんなに酷い事をしても俺の手を振り払う事は無かった。
ある日、カナリアを待つ間に夜中まで勉強していたせいか木の根元で眠ってしまったのだ。夢の中では、もう顔も思い出せない母上が笑っていた。すると静かで、優しく温かな歌声が聞こえてくる。ずっと聞いていたい、もっと色々な声が聞きたい。
目を開けるとカナリアが俺に寄り添い歌っている。俺の為なのは分かっていた。だけど、俺はまた素直になれずにカナリアを突き飛ばし、思ってもいない酷い言葉を口走る。
「誰が俺の隣に座っていいと言った!!歌もだ!!お前の声は耳障りなんだよ!!」
突き飛ばした拍子にカナリアは地面に突っ伏し、土だらけになり、その時のカナリアは悲しそうに目を伏せていた。違う、そんな顔をさせたいわけじゃ無い。本当は笑っていて欲しい、優しくしたい、カナリアの声がもっと聞きたい。
俺はカナリアから逃げて、殺風景な自室に籠る。自分自身が嫌になり耳を塞ぐ。『出来損ないの王子』『王太子のスペア』。カナリアも、もしかしたら周りと同じ事を思ってるかもしれない。俺はカナリアに俺だけを見て欲しくて、散々酷い事をしたのだから。
すると部屋がノックされ兄上が入って来た。俺は兄上が少し苦手だ。兄上は優秀で完璧で、俺の事も大事にしてくれるが、俺を見る目が時々仄暗くなるのだ。
「イワン、またカナリア嬢を虐めたんだって?程々にしないと痛い目を見るぞ」
「兄上……俺はカナリアにどう謝ったらいいでしょう……」
「……イワンはカナリア嬢が大切なのか?」
「はい……本当は大切なのに傷つけてしまうのです……」
「そうか、お前はカナリア嬢が大切なのか。……イワン、私が仲直りのきっかけを作ってやろう。だから少しだけカナリア嬢と会うのは待ってくれないか?」
「兄上が?……分かりました」
一瞬兄上が仄暗い笑みで嗤った気がしたが、気の所為だと思い、仲直りの仕方も分からない俺は兄上の言う通りにカナリアと会うのを我慢した。兄上は優秀だからきっと言う通りにしていれば上手くいくと、愚かな俺は疑う事もしなかった。
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暫くすると兄上から部屋に来るように言われ、寝室に行くとベッドの上で顔色の悪い兄上が優しく俺に笑いかける。
「兄上、大丈夫ですか?無理はしないでください」
起きあがろうとする兄上を支え、背中にクッションを置いてあげる。どうして、俺はカナリアにはこうやって優しく出来ないのだろうと、自己嫌悪に落ちる。暫く会っていないカナリアの声が聞きたい。また優しく、温かな声で歌って欲しい……俺の名前を呼んで欲しい。
「イワン、この葉は異国で薬として使われている。この葉を紅茶にして飲むと喉に良いのだ。カナリア嬢は声を大事にしているのだろう?きっと喜ぶはずだ」
俺は兄上に渡された葉を大事に受け取り、カナリアの喜ぶ顔を思い浮かべる。きっとカナリアは喜んでくれる筈。今までの酷い事をちゃんと謝って、許してくれなくても何度も謝ろうと。ちゃんと素直に気持ちを伝えようと、兄上から渡された葉を胸に抱える。
「兄上、有難うございます!!カナリアにちゃんと謝って、これからはちゃんと大事にするとカナリアに伝えます!!」
「ああ……仲直りできると良いな。そうだ、お前が自ら紅茶を淹れたら、お前の気持ちも伝わるのでは無いか?」
「……自分で?」
「そうだ。お前自身の手で淹れた方がカナリア嬢も、謝罪として受け取ってくれる筈だ」
「……兄上が言うのなら」
兄上は優秀なのだ。兄上の言う事は間違ってないと、幼い俺は疑いもせずに侍女にカナリアと仲直りしたいからと紅茶の淹れ方を教えてくれと頼み、カナリアに気持ちを込めて手紙を書く。
君は笑ってくれるだろうか。喜んでくれるだろうか。許してくれるだろうか。沢山の気持ちを抱えて俺はカナリアに兄上から貰った葉で紅茶を淹れた。
過去に戻れるのなら、俺は俺を殺してやりたい。
俺が淹れた紅茶を、何の疑いもなく飲んだカナリアは口から血を吐き、床に倒れ、喉を掻きむしりながらのたうち回る。
何故?どうして?
「カナリア!!カナリア!!なんで!?なんで!?こんなになるなんて聞いていない!!カナリア!!」
「ぃだい゛……い゛だい゛……だずげ……で……」
「カナリア!!」
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その後、俺はカナリアに淹れた葉は確かに薬だが、熱を加えると毒に変わってしまう珍しい代物だと聞かされた。俺は呆然としながら、カナリアの両親と父上、そして兄上が集まり取調べを受ける。
「俺は……兄上に、カナリアと仲直りするきっかけにと……」
洗いざらい父上と伯爵達の前で話す。すると、ウェイン兄上が嗤いを堪えた様子で話しだした。
「……ずっと考えていた。イワンをどうやったら絶望のどん底に落とせるか。イワン自身じゃつまらない……ならイワンの大事な人間を、イワン自身で絶望のどん底に突き落とさせれば良いと思いついたのだ」
「どう言う事だ!!ウェイン!!」
父上が見た事も無い形相で兄上で怒鳴り付け、伯爵達も震えながら怒りを堪えている。
「何故、優秀な私が王にもなれずに死にゆくのだ?何故、愚かなイワンが次期皇帝なのだ?何故!?何故!?何故!?」
兄上は狂ったように頭を掻きむり叫ぶ。その異様な光景に俺も周りも絶句した。
「このまま何も残さず、私が死にゆくなど認めるものか!!だからイワンに消えない爪痕を残してやったのだ!!愛するカナリアに憎まれ続ければよい!!大切な人一人守れない、愚かなイワンに王の資格などない!!私こそが相応しいのだ!!」
狂ったように嗤う兄上は、いつものように穏和で優しく微笑んでいた兄上ではなかった。兄上は父上の命令で罪を犯した王族が秘密裏に幽閉される塔へと追いやられた。表向きには療養という名目で。
俺の頭には兄上の言葉が焼き付いて離れない。呆然としたまま、高熱で寝込むカナリアの身を案じる。神に俺の全てを捧げるから、カナリアを助けてくれと祈り続けた。
カナリアは無事に目を覚ましたが、あの美しい声は見る影もなくなっていた。医師から声は戻らないと聞いたカナリアの絶望した顔を何度も何度も夢に見る。
父上と俺は伯爵家とカナリアに謝罪を何度もしたが、伯爵達は謝罪を拒否し、カナリアとの婚約も破棄された。
カナリア、大事なカナリア。愛するカナリア。美しく鳴くカナリアを殺したのは誰でもない、俺自身だった。
それからの俺は書庫を読み漁り、大勢の医者や薬師に話を聞き、カナリアの声を戻す方法を何年も探した。父上から、新しい婚約者をと言われるが、俺はカナリアではないと駄目なのだ。カナリアでなければ王にならずに王位継承権を捨て、平民になると言い、ひたすらにカナリアの声を取り戻す方法を探し続けた。
だが、結局声を取り戻す方法は見つからずに、喉の後遺症を和らげる薬を作る事しか出来なかった。
会いたい、カナリアの声が聞きたい……君の笑顔が見たい……そんな資格が無い事は分かっているのに。
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「久しぶりだな……イワン。どうだ?愛するカナリアに憎まれる気分は」
兄上の容態が悪化し、もう長くはないと聞かされ、俺は兄上……ウェインに会いに行く。塔を登り、鉄格子の向こうにいるウェインを睨みつける。
「何故……何故俺ではなくカナリアだったんだ……」
兄上はベッドの上で小さな窓を見上げて、手を伸ばした。小さな窓からは小鳥達が自由に飛び、鳴いている。
「……私は憎まれてでも、誰かの記憶に残りたかったのかもしれない。……カナリアに憎まれ続け、俺を憎み続けろ……イワン」
「……さよならだ。ウェイン」
俺は最後の別れを告げ、黒いローブを被りカナリアの元へ向かった。……ただ君に逢いたい。
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月明かりの中、虚な目で俺を見るカナリアはまるで人形だった。ゆっくりと近づき震える声で俺は薬を差し出して、カナリアに話しかける。
「……この薬は喉に良く効く」
カナリアは目を見開き、小瓶を持った俺の手を振り払い、小瓶は地面に落ちて割れて俺は割れた小瓶の欠片を震える手で拾い集め袋に入れる。
「……すまない。俺は許されないことをした……君にずっと謝りたかった……君の声が聞きたい……」
だが、カナリアは狂ったように叫んだ。
「だま゛れ゛!!!!お゛前が!!お゛前が!!わだじの声を奪っだお゛前が!!」
「……すまない」
「返ぜ!!返ぜ!!わだじの声をがえ゛せ!!」
カナリアは胸ぐらを両手で掴み揺さぶる。ローブが破れ、カナリアは破れたローブと共に崩れ落ち、地面の土や石を投げられた。
「お゛前に゛……泣ぐ権利なんでな゛い゛!!」
カナリアの叫び声に使用人達が集まり、暴れ叫ぶカナリアを止め、引き離される。俺の頭からは血が流れ、ウェインの言葉が蘇る。『大切な人一人守れない、愚かなイワン』
まさにその通りだ。
だが、それから一ヶ月後に父上から俺の新しい婚約者を紹介された。他の誰でも無い、心から求めていたカナリアが俺の前で首を少し傾けて笑みを浮かべている。その瞳はいつか見た仄暗い色を宿して。
カナリア、君の声を聞かせて。どんな言葉でも良い
もしも、君と俺の証を残す術がないなら
カナリアの温もりを焼き付けて俺を殺してくれ
ありがとうございました!