撃滅の七刃
「今回は随分と派手にやってきたようじゃないか。久しぶりにそこまで汚れてるの見たよ」
見慣れたものなので、ユキの声は至って普通だ。
「人数が多かったのですよ」
リーカスが答える。
「領地偵察中に報告が入ったもので。大した装備を持ってなくて」
「なるほど、それでその格好ね」
ユキもココアを口にしながら、壁に寄りかかり、彼らを眺める。ボタンを開けた彼らのマントの下からは、真っ白なはずの隊服が返り血と土で赤黒く濡れているのが見て取れた。こんな血生臭いものを国民に見せるわけにもいかないので、凱旋中はしっかりとコートやマントで覆うが、知らぬ人がいない今、堂々と汚れに汚れた制服を晒している。
レイ達は凱旋前に東の領地の偵察に出ていた。今回も何事もなく帰還するかと思いきや、慌てた兵士が飛び込んできて、盗賊侵入の報告を受けたのだ。
「服も洗濯し終わってるけど、着替えて行くか?」
「ありがとうな。ゆっくりしていきたいとこだが、今日はこの後に仕事があって、時間がねえ」
「了解。お国の騎士様は忙しいね」
戦闘があると、きまって彼らはユキの家を訪れる。町医者であり、王宮に腕を認められた、王宮公認医師である彼女は、毎回彼らの手当てをし、戦闘で興奮状態になった彼らの体を休ませてくれる。香りの良い豆を使った珈琲と、甘いマシュマロをのせた、砂糖たっぷりのココアを出して。
彼らが小さい頃からユキは王宮を出入りしていたこともあり、必然的に交遊が多くなった訳だが、彼女の気質もあり、今ではここまで色々と世話をしてくれるまでになった。何度も仕事帰りに寄ることがあるからと言って、彼ら一人一人に着替え部屋まで作るほどだ。気前の良さ、人柄の良さが買われている、男気溢れる女性である。
「ユキ、毎回すまんな。礼に今度何か贈ろう」
レイが革の手袋を嵌めながら言う。歳の割にしっかりしすぎている王子をちら、と見てユキは優しく笑った。
「いや、いーよ。次は遊びにおいで」
「行く行く!」
「ミルガ、お前は、剣に当たらん練習をしろ!」
ユキの拳骨を受けて、ミルガは、えー、と頰を膨らませて不満気な眼差しを彼女に送る。丸みを帯びた愛らしい大きな瞳にユキの顔が映った。
「またな、ユキ」
去って行く彼らを、ユキは目を細めて見送った。馬に乗った彼らの真っ白な背中が、街道を去って行く。そして、曲がり角を曲がる前に振り返った金髪の青年の年の、恥ずかしそうに小さく振る手を見て、ふふっ、と彼女は笑みを零すのだった。