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軍則第四条の罪人  作者: 南雲 燦
 
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序章



           第四条


     軍部、またはそれに準ずる機関は、

  17歳以上の男子で構成されなければならない。




窓を開け放つと、爽やかな風が頬を撫でた。


それは春の薫りを帯びて、朗らかな鳥の囀りを運び、木々を揺らしている。


このウルバヌス国は広大な海と自然に囲まれ、穏やかな気候と豊かな土地を持ち、栄えている大国。


眼下に広がるここ王都トレジャーノンは、多くの物や文化が集まり、様々な国の人々で賑わい、日々活気で溢れかえっている。


男が一人、窓枠に腰掛け外の景色を眺めていた。


この部屋からは小さくではあるが、賑やかな街の大通りが見えるのだ。


「王子」


涼やかな声が呼んだ。


それは、透き通る水を思わせるが、芯のある声。


「主大門にエディラム殿がお見えでございます」


そんな声とは裏腹に、いつもの少し不機嫌そうな表情を浮かべて立っているのが、眼に浮かぶ。


王子、と再度呼ぶ声は、先程よりも明らかに不機嫌だ。


風景から視線を外し、ゆるりと彼を捉えた。


視界に、風に揺るれる彼の髪がよぎる。


彼、ジェノヴァは、細身の体に白と銀でしつらわれた軍服を纏い、予想通りの表情で立っていた。


「今日も朝から予定が立て込んでるのですから」


とんとんと左手首を叩く仕草は、時間が迫っているからと急かす素振り。


「そんな皺寄せんなって」


眉間を指で突きつつ腰を上げ歩き出すと、彼はこれ見よがしな溜息をついてから、数歩後ろを付いて来た。


厚手の深紅の絨毯がひかれた長い廊下は、彼等の足音を吸収してしまう。


主大門は南側に位置する、最も大きな城門であり、正門である。


馬車が10台並んでも余裕がある程の広さだ。


城下町へと続く道は開けた丘は繋がり、大きな石橋が掛かっている。


そして、門兵の護る門にまでには、塔と湖、手入れされた庭園、そして所々に配置された噴水や彫刻が優美な情景を造りだしていた。


彼等が門に着くと、階段の下で跪き、低頭する者が1人。


「お初にお目にかかります。エディラム3世にございます」


そう言って、彼は更に深く低頭した。


今年で三十になる彼は、家督を継ぎ、初めての王子謁見であった。


「頭をあげていい」


まだ若い、凛とした声が彼の鼓膜を揺らした。


「俺はウルバヌス国第2王子、レイ・フューアンブルー・シュリアスだ。遥々ご苦労。会議は明日からだ」


若いが、艶と張りがある。


「承知しました」


「今夜はゆっくり休まれるといい」


「はっ」


その声につられるように、エディラムは顔を上げ、逆光を受ける王子を見上げた。


刹那、その姿は彼の眼に鮮烈なまでに焼き付けられた。


細身に見えて均整のとれた逞しい体躯。


漆黒の髪に、整った顔立ち。


その精悍さに思わず溜息が漏れる。


話には幾度となく聞いていたが、本人を目の前にするのとはまた別物だった。


白い肌に、少し切れ長で全てを射抜くようなルビー色の、艶やかで燃えあがるような瞳は、一層彼を美しく魅せる。


低く深く通る声は、否が応でも心を揺らし、彼の美しさは人を無条件に呑んでしまう。


圧倒的且つ絶対的な雰囲気が己を跪かせるのだ。


彼の後ろにそっと控える従者もまた、噂通り、際立った外見であった。


陶器のように透き通る肌に、中性的な顔立ち。


深海を覗くようなブルーの瞳。


静かに佇む姿はまるで、精巧に作られた人形のようだ。


「では、また明日に」


その声にハッと彼は我に返った。


王子はそれだけ言うと踵を返す。


「ジェノヴァ、行くぞ」


「はい」





これは国を支える、一王子とその従者の物語である。

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