第7話 あの最終決戦の真実⋯⋯そして魔王は
「な、なんでおまえがこんな所にいるんだよ!」
「な、なんであんたがここに来たのよ!」
二人は同時に、驚きの声を発した。
数日前戦った魔王(黒髪紅眼巨乳美女)が、何故かこの屋敷にいた。
「この状況で正直どうでもいいけど、服ダサいな⋯⋯」
服は下は赤色のジャージで、上は大きく『ま』と描かれたTシャツを着ていた。
「どうでもいいならいいじゃない、そんなたかが服ぐらい」
この『ま』と大きく描いてあるTシャツを気に入ってるというセンスが、おそらく人間と魔族の違いか⋯⋯いや多分違うだろう。
私の服のセンスはこの際どうでも良い。それよりも私は使用人を募集したといっても、まさか数日前に死闘を繰り広げたパーティの人が来るとは想像もしてなかった。
「また来たの?しかも一番弱いあんたって⋯⋯雑魚と戦ってる暇なんて無いんだけど」
「待て⋯⋯いや、待ってください俺は面接に来たんですよ⋯⋯使用人を募集してるんですよね?」
思わぬことが起きたので忘れていたが、今は使用人の採用面接中である。
「ゲームの途中なんだから、早く帰⋯⋯え?使用人の面接?」
俺が使用人の面接に来たことを知ると、ようやく本題へ話は進んだ。
「あんた冒険者職はどうしたのよ、それになんで人間のあんたが私の使用人になろうと思ったの?」
パーティから外され、冒険者職もクビになった今までの経緯を一通り話した。
「⋯⋯まさか、魔王が募集しているとは思いませんでした」
魔王を倒せず、しかも大幅に強化したことで冒険者職を辞めざる得なくなった⋯⋯それにパーティの人からは何の役にも立たなく、何らかの理由をつけて辞めさせたいと心の中で全員思っていた。俺は人の言うことは幾らでも取り繕えることをその時知った。
「⋯⋯それで帰る場所も無く森を彷徨っていてたまたま貼り紙を見かけて、私のところで使用人をやりたいと」
「はい、炊事洗濯掃除等の家事全般は人よりも良く出来るというのが、自分の数少ない取り柄でして」
誰であろうと関係ない、今はとにかく帰る場所が欲しい、ただその思いだけだった。
「良いわよ、あんたは今日から私の使用人、私の言うことは何でもきくのよ!」
「ありがとうございます!」
というわけで、俺は割とあっさり魔王の使用人になった。
「言い忘れてたけど⋯⋯私、つまり魔王の使用人になるということは、人間を敵とみなすということになるわ」
つまり、魔族の最大の目的である人類を滅ぼすことにも協力し、魔族の一員として働くということか。
「まあでも、あんたに人間を殺せなんて言うつもりないし、あんたは私の世話だけしてればいいから」
魔族軍の戦闘員じゃないからその辺は深く考える必要は無いのかもしれない。
「部屋は二階に空き部屋あるからそこ使って、ベッドとかも一応あるし⋯⋯ゲームしたいから説明は以上」
そういうと、魔王はテレビ画面をつけて、コントローラを持ちゲームを再開した。
「これも良くあるRPGね、そこそこ難易度高めなだけでストーリーはワンパターンでもう飽きたわ、これクリアしたら辞めよ」
テレビの周りを見ると最新型のハードが全部揃っていて、置いてあるゲームソフトも、ゲームをそんなに知らない俺でも知ってるようなものから、全く知らないものまである。
「テレビゲーム好きなんですか?」
「好きってほどでもないけど、一日ずっとやってるわね⋯⋯あと、敬語で話すのやめて」
使用人という立場だから、敬語を使っていたのだが、何故かやめるよう言われた。
「わかったけど、なんで?」
「なんでもいいじゃない、あんたが敬語で話してると違和感があるし⋯⋯そもそも私に何言われようと理由を聞く方が間違っているわよ!」
魔王がどういう人物像なのかまだよくわからない。
突然だが、数日前の魔王との戦いでふと気になったことがあった。
「そういや、なんで最初から完全体で戦わなかったんだろう」
こうやってゲームしながらくつろいでいるということは、完全体というよりこれが魔王の本当の姿で、漫画でよくあるパワーアップすると長時間戦えないというデメリットも恐らくないだろう。
「私がこの状態で戦ったのって、そういやあんた達が初めてだったわね⋯⋯軟弱な人間達と戦うのはつまんないから、戦闘力が大幅に減る代わりにゲームのキャラクターに変身して、自分がゲームのキャラクターになった気分でやってたんだけど⋯⋯まさか人間と戦って死にかけるとは思わなかった」
なんか色々と新事実が発覚した。そういや今思い出したが、2年ぐらい前から魔王と戦闘をして生き残って帰ってきた人の魔王の姿に関する証言が、全員全く違ってたんだっけ。龍のような化け物だったり、金色の髪をした女の子だったりと、戦う毎に全く違う生き物に変化するから、魔王の真の姿は一体何なのか誰にも分からなかった。
「大幅に戦闘力が減るといっても、人間では絶対勝てない戦闘力だったのに⋯⋯あんた達に倒されるなんてね⋯⋯人間も油断出来なくなったわね」
俺たちが数日前に戦っていたいかにもゲームに出てくる魔王のような出で立ちの魔王は、彼女がゲームキャラになった姿だったのか。しかもその変身で戦闘力が大幅に下がるとは⋯⋯。
「だけど、危なかったわ、もしあの剣で心臓を突き刺されたら、私は確実に死んでいた」
ちょうどゲームが一段落したのか、俺の方を見て言う。
「あんたのお陰よ、謎の光線を私に当てて一度死ぬぐらいのダメージを与えたことで、元の姿に戻ることが出来たんだから」
「え?何言って⋯⋯」
確かにしねしね光線が当たった者は戦闘力がどれだけ高かろうと必ず死ぬ。しかし魔王は生きていた、その理由が全く分からずにいた。
「ゲームキャラが倒れても復活するように、私の変身には死ぬレベルの攻撃を喰らっても、死なずに元の姿へ戻ることが出来る能力があるの」
魔王が変身することで戦闘力が大幅に減る一方、変身後の魔王を倒したとしても、本来の姿に戻るだけで魔王自身には影響は無いらしい。
「でも一つ例外があって、あんた達のリーダーが持っていた秘剣は魔王一族唯一の弱点で、もしあの時、秘剣を心臓に突き刺されていたら、変身関係無く死んでいた」
そういやブドーが持っている剣って、人類が魔王に対抗出来る唯一の武器とも言い伝えられているんだっけ。
「秘剣でとどめを刺そうとする前に、あんたが謎の光線で私を一度殺そうとしたことで、命拾いしたわ」
このままブドーが秘剣を魔王の心臓に突き刺していれば魔王は死んでいたのに、俺はパーティのやつらを見返してやりたいという思いだけで勝手な行動をした。その行動によって魔王を討伐する最大のチャンスを損ね、俺はその責任を負い冒険者職を辞した。そして今なんやかんやあって、魔王の使用人として新生活をスタートしようとしている。
⋯⋯あれ?別にこれはこれでありじゃね?
魔王はゲームのコントローラから手を離し、体も俺の方に向けて俺の目を見て話した。
「ありがとう⋯⋯私の命を救ったり、使用人になったことで、人類と敵対することになったけど、あんたは私が絶対守るから安心して」
その姿は魔王でもなんでも無い、ただの一人の女性がお礼を言っているように見えた。
魔王は使用人になったことで人間でありながら人類と敵対することになった俺を気にしていたが、それは杞憂である。
「気にする必要は無い、人類だろうと魔族だろうとどっち側につこうが正直どうだって良い」
こうして、魔王を倒す冒険者から魔王の使用人に転職を果たした。カイスの使用人としての実力はいかに…
0章は今回で終わりです。
次回からようやく、第1章に突入します。