第5話 冒険者なんてもういやだ
俺は魔王を完全体にさせてしまったことを、魔王に手を貸すという行為にみなされ、死刑が宣告された。
し、死刑宣告だと!?⋯⋯それよりも気になるのが、ブドー達の言動だ。さっきから俺が全部悪いみたいな言い方をしてるし、更に魔王の手助けまでしているという、事実ではないことも言っている。
今までなら国王が俺が悪いみたいな事を言われても否定してくれる。この前だって、俺のせいで魔王が完全体になったのに、誰一人俺に責めることはせず、俺をフォローするような言葉をかけてくれた。
何かおかしい⋯⋯今までブドー達に使ったことはなかった読心術で、少し怖いが本心をみてみることにした。
(カイスを俺たちのパーティから追い出す作戦は上手くいきそうだ)
(でも、どうするんだよ死刑になりそうだぞ)
(別にいいんじゃないの?あたしらにとって足手纏いにしかなんない人を気にする必要はないと思うわ)
(魔王を倒す邪魔をしたのは本当だし、あいつが生きていたら、また置いていっても、ウチらの気配を辿って邪魔しに来るわよ)
(怖〜!まるでストーカーじゃない)
(やめとけよ、彼だって邪魔するつもりで来た訳じゃないんだから⋯⋯ま、でも、邪魔になっていることは事実か)
(どうでもいいけどさ、カイスって背低くね?)
(そうそう、ウチよりも背が低い男なんていたんだ、なんて思ったよ)
(あいつの超能力って、いつのまにか使えなくなったよね、戦闘力の差が大き過ぎると使えないとか)
(そもそもカイスの戦闘力は、俺たちの1/20ぐらいだし、なんで今までついて来れていたのかが不思議なぐらいだな)
((((ま、もうすぐいなくなる人のことなんてどうでも良いか))))
俺を嘲笑うように悪口を各々思っていた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
そんな⋯⋯俺たちはずっと5人で戦ってきた仲間じゃないか⋯⋯戦闘能力が低くても彼らは、俺の唯一無二の超能力を高く評価してくれた。
しかし、今となっては能力のインフレーションについていけず、足を引っ張ったり逃げてばかりである。その超能力も戦闘能力のインフレには勝てず、大きく上回る相手に対する超能力は全く効かなかった。四天王戦の時に至っては、超能力を当てることすら出来ず、四天王からの攻撃を時間停止を使って逃げることしか出来なかった。
「国王様、いくらなんでも死刑は重すぎるのでは⋯⋯ただあいつは、俺たちに置いてかれたことが悔しくて、見返してやりたいが為にやったことだと思うんです」
(別にどうでもいいんだけど、一応仲間だったし、言うだけ言っとくか)
「そうです、決して魔王に手を貸すつもりでは無かったかと⋯⋯」
(あんな役立たずの擁護なんてする必要ないんだけど、一応反論しとくか、彼はまだ俺たちのことを仲間だと思ってるみたいだし)
「ま、まあ、あんなでもあたしらの大切な仲間の一人だから、殺すのはちょっと⋯⋯」
(あんな奴が生きようが死のうがあたしにはどうでもいいことだけど)
「今回はたまたま、上手くいかなかっただけで、それだけで何も殺す事はないと思いますよ」
(いつも上手くいってないし、正直いない方が上手くいくのよね)
建前を取り繕うのは、簡単なことだとなんで早く気づかなかったんだろう。そもそも魔王との戦いで嘘の集合場所を伝えられて、置いてかれた時点で俺はもう要らない存在だったのかもしれない。
「そうか、君達が仲間を大切にしていることはよく分かった⋯⋯本来なら、魔王への手助けは一番重い罪に課せられるが、それは問わないことにしよう」
本心を知った今では、口だけで嘘か本当かなんて判断するのはまず無理だということがとてもよく分かった。でも、彼らの上っ面だけの説得で死刑が撤回されたことに関しては礼を言うことにしよう。
「だが、倒せたはずの魔王を己の勝手な行動によって、始末するどころか、強化してしまった事実は変わらない⋯⋯冒険者という立場の人間が魔王に、故意でないとはいえ手を貸すのは言語道断であり、やはり相応のけじめはつけなくてはならない」
国王は俺に対して更に言葉を続け
「よって、冒険者の『カイス』、君には冒険者職を辞してもらう」
「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」
((((死刑にならなかっただけ、ありがたいと思え))))
4人は特に何も言わず下を向いていた。
俺はクビを言い渡されたのに、何故かスッキリとした気分だった。正直、ブドー達の本心を見てしまい、俺がずっと前から邪魔者のような扱いだったということが分かった時点で、俺はもうこいつらと一緒に居るのは御免だと思った。
「そうですか⋯⋯分かりました、今日付けで冒険者職を引退させて頂きます」
こうして俺は、5年間の冒険者人生に幕を閉じた。
1時間後
「お前はそれで良かったのかよ、そんな簡単に辞めちまうなんて」
(国王から、辞めろっていう後押ししてくれたおかげで追い出す作戦は上手くいったようだ)
「俺が決めたことだ、もう口出ししないでくれ」
みんな、表面上は俺が辞めることを惜しんでいるように見えるが、本当は全員俺が出て行くことに大喜びしている。
「多分もうお前達と会うことはないと思う⋯⋯じゃあ、達者でな」
「ああ、元気でやれよ」
(やっといなくなったよあいつ)
「これから頑張れよ!」
(辞めてこいつ何する気だ?ニートにでもなるつもりか?)
「さようなら、今までありがとう」
(あー、スッキリした、ゴミを片付けた時の気分と似ているわね)
「困ったら、いつでも帰ってきなよ」
(二度と帰ってくんな!)
読心術はもう二度と使いたくないが、彼らの本音を知ることで、はっきりと決別することが出来たので、全く使えない能力というわけではない。
俺は振り返る気もなく、王都を後にした。