第3話 主人公は何故かいつも遅れてやってくる
俺は魔王と戦ってる部屋にようやくたどり着いた。部屋は戦いには困らなさそうな広さだった。
「カイス、悪い事は言わない、お前がかなうような相手じゃない、さっさと帰るんだ」
「あんたの超能力ってやつ、四天王にすら全く効かなかったじゃないか」
レンジとパイナが俺のことを戦力外と思い込んでいる様だった。
「なんだ、せっかく来たのにもう戦いは終わりか、まあいい、とどめは俺に任せろ!魔王を倒せる新しい技を習得したんだ」
「どうせ、戦闘力が開きすぎて効かないというオチでしょ」
彼らは俺に何の期待もしておらず、興味を持とうとしない。
「お前らは戦闘力で強さが決まると思っているようだが、俺が戦闘力だけで強さは決まらないってところを見せてやるよ!」
「しねしね光線!」
俺は両手を魔王の方向に向け、両手から黒色の気功波のようなものを出した。ただそのスピードは遅く、少し戦闘力の高い人間なら、簡単に避けられてしまう。しかし、魔王が戦いの末動けない状態になっている今が、この技を使う最大のチャンスだろう。
「なんだこれ・・・これが新技か?笑いの才能だけはうちのパーティで一番だな」
「何これ?動いてないんじゃないの?」
二人は馬鹿にするように笑いながら俺を見てきた。ブドーは俺が来たことによって剣の手を止めていたが、俺の技を見たら、思わず呆れるように俺を見て再び剣を振りかざした。
「置いてきたやつに少し期待した、俺が馬鹿だった・・・魔王!これを心臓に突き刺せば最期だ!完全体は諦めるんだな!」
「完全体に!完全体になりさえすればー!」
さっきから完全体がどうこうとしか言ってない魔王はさておき、このままでは先にトドメを刺されてしまう。こうなったら、俺の超能力で一番の能力を使うしかない。
「タイマー!」
俺が時間を止めようと念を込めた瞬間、自分以外の時間が止まった、正確には自分自身と自分が出した技以外の時間が止まっている、これが俺の一番の武器『時殺し』だ。
「これで邪魔者は居なくなった、時間停止中も自分が放った技は動き続ける、時間停止中に直撃させることは出来ないが、次時間が動いた時、攻撃は魔王の至近距離に存在する、避ける隙も無く直撃するだろう」
自分以外にとっては、まるで攻撃が瞬間移動したように見え、遠い距離だと思って油断してた攻撃がいきなり目の前にワープしてきたような感覚だろう。
魔王の目前に攻撃が到達した瞬間、時間停止は解除された。そして直後に、魔王に黒い気功波のようなものが直撃した。
「うわっ!な、何をしたんだカイス!?」
突然目の前の魔王に瞬間移動してきたように見えた、黒い気功波のようなものが直撃し、ブドーは驚いて思わず後ろへ仰け反った。
「ブドー!魔王から離れろ、爆発するぞ!」
「爆発だと?」
「今のは一体なんなの?攻撃が当たったのは分かったけど」
レンジとパイナが疑問に思って聞いてくる。
「あの気功波のようなものに当たると、邪悪な心が急激に増大し、肉体が耐えられなくなり、体内から爆発して木っ端微塵になるんだ、邪悪な心が目に見えない程の微小量しか無かったとしても爆発には十分だ、つまり当たれば体が木っ端微塵になって死ぬ!」
魔王から、火花が散り始め紫色の光が魔王の体内から発光する。
「ブドー!早く逃げろ、爆発に巻き込まれるぞ!」
「…お、おう」
ブドーが一回その場を離れ、俺たちとの側へ戻る。
「完全体にーーーーー!ほおおおわあああああああああああああああああ!」
魔王は元々あった莫大な邪悪な心が、体が耐えられなくなる程増大し、こちらまで爆風が強く吹く程の爆発を起こした。
「ば、爆発した!・・・勝ったのか、魔王に?」
「カイス、まさかお前がここまでやれるとは思わなかった…」
「置いていったりしてごめんなさい」
「ウチが全く歯が立たなかった魔王を、たった一発で殺すなんて…」
四人が俺のことを、見直してくれている・・・
この3ヶ月間を、この技の習得に賭けたんだ……魔王を一撃で倒すような技で、戦闘力の差なんて関係ないってみんなに思わせることが出来た。
こうして俺の悲願は達成され、魔王は爆発の煙の中へ消えていった。そして煙が晴れようとする。
「ちぇっ、折角俺の秘剣で、とどめを刺そうと思ったのに、俺なんもしてないじゃん」
出番を奪われたブドーは少し不服そうだったが、何だかんだ俺が勝手に入ってきたことを色々言うことは無かった。
「煙が晴れてきた、やったかな?」
「もう、縁起でもないこと言わないでよ」
パイナと少し回復したリンが、敵が生きてるようなことを言うが、魔王という存在が邪悪な心を持たない訳がない。実際、普通のモンスターで試し撃ちした時よりも大きく爆発したし。
しかし、爆発の中心であるそこにいたのは、粉々になった魔王では無く・・・見たことも無い、人間の女の人だった。
いや、頭にある巻き角や人間の耳の形と違う尖った耳を見ると、人間でないことがすぐに分かった。魔族には人間に似た姿をした者も居るが、人型の魔族の特徴に当てはまるような容姿である。
「な、なにが起こったんだ?」
全員が状況を掴めないでいる。もちろん俺もなにが起こったのか分からない。
「分からない、しねしね光線は確実に直撃した筈…」
「フフ‥…ハハハハハ…‥完全体になっている!体も元どおりになった!」
その女の人は立ち上がって、妙な事を言った。『体が元どおりになった』と…
「まさか、魔王…なのか?」
「そう、これが魔王である私の完全体…私の真の姿よ!」
魔王は生きていた、しかも完全体になっていた。
それにとても美人だった。長い黒髪と紅いつり眼で巨乳で……単純に言うと俺の好みの女性の容姿である。もっとも目の前にいる美人は、今敵対している魔王であるため、そんな感想を抱いてる場合では無い。
「どういう事だよカイス!むしろパワーアップしたじゃねえか!」
「俺にも何が起こったのかさっぱりわからない、直撃し爆発を起こしたから、邪悪な心が増大したのは間違いない筈だが」
俺もどうしてこうなったのか全く分からない。
「ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、私を倒す方法をもう一度考えたら?…最もそんなものは無いけど」
「もういい、カイスは下がってろ、俺たちでどうにかする」
魔王を一撃で倒すつもりが、むしろ魔王のパワーを最大限に引き出してしまった。結局、四人にとって俺は足手まといにしかならなかった。
「ちなみに、戦闘力にしたら530000は確実……ですがフルパワーであなたたちと戦う気は無いのでご心配なく」
再び戦いは始まった。しかしいくら四対一とはいえ、戦闘力にして50倍の差は埋まる筈が無かった。彼らが魔王と戦ったところで勝敗は目に見えていた。そして俺はただ、仲間がやられていく姿を見ているだけだった。魔王に金縛り等色々やってみたが、戦闘力の差が大き過ぎて全く効かない。
「どうして…どうして…俺の超能力はいつも役に立たないんだ」
この世界で、僅かな邪悪な心を利用して体を木っ端微塵にしたり、時間を止めたり、道具を使わず空を飛んだり出来るのは、俺しかいない。でも圧倒的な戦闘力の差には勝てなかった。どんな稀有な能力を持っても、この世界は総合的な能力を数値化した戦闘力によって強さが表される。唯一無二の超能力も、圧倒的な戦闘能力の差で、どうにでもなるのが現実だった。
「もうダメだ、逃げるしか無い…この秘剣も真っ二つにされ、リンのパワーもパイナのスピードもレンジの魔術も全部敵わなかった」
四人はもう戦う余力は無く、撤退を決めた。
「私に挑んでおいて、生きて帰れるなんて思わない方がいいと思うわ」
魔王の左手から、顔ぐらいの大きい黒い光の玉を作り、俺たちのいる方向へ投げた。彼らに走って逃げる程の体力は残っておらず、このままでは俺たちに攻撃が直撃するのは確実である。
「みんな俺に掴まれ!」
側にいた4人はすぐに俺に掴まり、俺は瞬間移動の準備をした。
「間に合ってくれ!瞬間移動!」
ダメだ!瞬間移動するよりも先に技が直撃する!瞬間移動は動かす重さが大きいほど発動に時間がかかる。俺だけだったら余裕で間に合うのだが、俺のせいで魔王が完全体になり状況が一転し不利になった。俺だけ逃げるなんてことはしたくない、俺たちは5人揃って最強のチームなんだ。
「俺も手伝うぞ!」
レンジが最後の魔力を振り絞って、光の壁を張った。黒い玉は光の壁に阻まれ一時的に停止したが、直ぐにヒビが入り始めた。
「こんな薄っぺらい壁張っても、結果は同じよ」
魔王は勝ちを確信し、俺たちの様子を見ていた。黒い玉はその薄っぺらい壁を直ぐに破り、目の前に迫ってきた。
「ここまでか、魔力も尽きた…」
「ありがとなレンジ!後は俺がどうにか…」
間に合ってくれ!頼む!
しかし、黒い玉は直撃しこの部屋を半分吹き飛ばす程の爆発を起こした。
「完全体になれば、大した敵でも無かったわね」
彼らは一体どうなってしまったのか!?