第2話 力の拮抗
その頃俺はというと、魔王の城へ浮遊術で飛んで行く最中だった。
「一人の気が激減している……これはリンの物か、既に一人やられたか…急がないと俺が着く前に全滅してしまう」
俺は一刻も早く着くために限界まで速く走った。
「この新しい技なら、魔王であっても…いや、魔王だからこそ確実に死ぬ…あいつらを見返してやる…ハハハハハ!」
「まだ息はあるが、このまま放って置くと間違いなく死ぬ…レンジは回復を、パイナは魔王から逃げて時間を稼いでくれ」
「ああ、分かった」
レンジは魔術の天才で、魔術には攻撃向きの黒魔法と回復サポート向きの白魔法があり基本的にどちらかを専門とする人がほとんどだが、彼は両方に長けている。
「あと3人…なんなら一人ずつとは言わず、全員でかかって来ても良いぞ」
魔王の力は大きく上がったが、正面から行き戦って勝つわけでは無いので、彼女一人に任せる。
「あたし一人で十分だわ」
「タイマンじゃ、死にに行くようなものだろう、我とお前には天と地程の差があることはわかってるだろ」
「さっさと始めるよ、あたし話が長い人嫌いなのよ」
「そんなに死にたいのか?ならそうさせてもらう」
魔王が話すと同時に、紫色の光線を連続で撃ってきた。死光線と呼ばれ、当たったら体に穴が開くのは間違いない。パイナは当たってるように見えるが、実際には残像で全く当たらず、魔王の気づかないうちに後ろへ回り込んでいた。
「我の攻撃を全部かわして、更に後ろをとるとは……おかしい、戦闘力では我が2倍近く上回っている筈」
「別におかしくないわ、3ヶ月前戦ってあたしのスピードは分かってるでしょ、だけどその時よりも更にスピードが増したとは思ってなかったようね」
「スピードだけは我に勝つ自信があるということか、だがその様子だと他は大した事はない、攻撃を一撃でも喰らえばお前は死ぬだろう」
今度は手で光の玉みたいなのを生成し、パイナの方へ飛ばした。
「止まってるような玉なんて撃ってどうするのよ」
パイナは避けるまでも無く少し動き、玉は通り過ぎた…と思ったら、玉は曲がって追いかけるように彼女の方向へ進み、しかも光の玉のスピードも速くなっている。
「このホーミング弾はただ追いかけるだけじゃない、どんどん加速していく弾だ!いくらスピード自慢でも、加速していく弾にはいつか追いつかれるだろう」
魔王の言った通り、ホーミング弾はスピードを増し、パイナは逃げるので手一杯だった。
「すごい、弾もパイナも目視では姿が見えない。気配を察知しないと何処を動いてるのか全くわからない」
ブドーはこの3ヶ月の修行で各自が段違いに強くなっていることを実感し、作戦を安心して実行出来ると考えた。一方レンジは右手でリンの回復を進めながら、左手で小さな光のかたまりを作っていた。彼はアウラのコントロールが上手く、白魔法と黒魔法を同時に扱うことが出来て、どちらも専門としている人に負けない効果や能力を持つ。
弾に追いかけられるパイナは魔王のいる方向に向かって走った。
「ギリギリまで近づいて避けた所を当てるつもりだろうが、そうはいかんぞ!」
魔王はもう一度ホーミング弾を撃ち挾むことにした、この距離で今撃った弾に向かって走っているんなら直撃は確実だと思われた。
しかし発射直後、パイナが跳び上がる様子を見せたと思ったら、彼女の姿は魔王の目からも消えた、そして次の場面には、彼女を追いかけてきた弾とさっき自分が撃った弾がこっちに戻ってきて二発が目の前に迫り、後ろに彼女の気配を感じた束の間
二つの弾は魔王に直撃した。
「・・・・・っ、馬鹿な、何故一瞬消えた、テレポートでもしたのか」
魔王は自分の攻撃を受け、体勢が崩れるもののゆっくり立ち上がった。ダメージも結構受けたようにみえる。
「知ってる?スピードを一番出せるのは空中に浮いてる時だってこと、地上を足で走る時とは比べ物にならないぐらい速くなるの」
魔王はこの時ようやく直撃までの一瞬の出来事を理解した。もう一つのホーミング弾を撃った時に彼女は反応して跳び上がりその時に見えなくなる程のスピードで2m50cmある魔王を飛び越え、気がついた時には後ろにいたというわけだった。ホーミング弾は魔王の後ろの彼女に、つまり魔王のいる方向へ、それに気づいた時は避ける間も無かった。
「驚いたよ、やはりスピードでは敵わないか……だが少し息が乱れている、いずれスピードが落ちていくに違いない」
魔王は光線を多数繰り出した。一発あたりの威力が低い代わりに、消費気力は少なく連続で多数の光線が出せるもので、素人の肉眼では最早全く見えない程の動きだが、彼女はその打撃を全て見切り避けていく。
「じきに体力が無くなりスピードが落ちてくる、その時がお前の最期だ!」
「安心して、その時が来ることは…無いから」
「何!?」
すると後ろから突然、大きな円盤のような物体が魔王とパイナの方向に向かってきた。魔王が気づいた時には遅く、次の場面は魔王が円盤のようなもので体を真っ二つにされていた。
「リンの回復と同時にやることで、回復をしているので手が回らないと魔王に思わすことが出来た」
「大成功だ!魔王は真っ二つになった、これで後は俺の剣でとどめを刺せば」
真っ二つになった魔王はその場に倒れたまま動けなかった。
「完全に不意を突かれたが、円盤の進んだ方向にいたお前達の仲間も巻き込まれたことだろう…なのに、お前達は彼女に気を留めようとせず我を殺すことしか頭に無い……仲間の犠牲を平気な顔して出来る連中では無いと思っていたが」
「誰が犠牲になったの?」
そこには魔王と一緒に真っ二つになった筈の女が立っていた。
「ば、馬鹿な…何故避けられた!?」
気がついて体が避けようと反応した時にはもう円盤は直撃していた、それぐらい速かった筈。
「だって魔王よりも円盤から遠い位置にいた上に、魔王よりもスピードがあるあたしが避けられない訳ないでしょ」
「おのれ…この状態じゃ動くことも…せめて完全体になりさえすれば」
ブドーが魔王を完全に倒せる秘剣でとどめを刺そうとする。
「馬鹿な…完全体になりさえすれば…お前らなんか…」
こんなことなら最初から完全体になって戦うべきだったと後悔してももう遅い。
「完全体か、少しは気になるが、なられては困るんで、さっさと始末するよ」
あいにく彼は戦闘民族では無い。故に強い者と戦いたくて戦っているわけでは無い。つまり生かす必要は全く無いし、この状態で倒せるなら倒しておきたい。
その時、扉を開け入ってくる一人の小柄な男が居た。そう、俺である。
「お前ら、俺を置いてくなんて酷いぞ!」
カイスはようやく魔王との最終決戦の場へたどり着いた。果たして戦闘力がずっと上の魔王にも効く、カイスの新技とは一体何なのか?そして、彼らは魔王を倒し、人類に平和をもたらすことが出来るのだろうか?
しばらくは、毎日18時に投稿予定です