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超能力者として生きてて良いことなんて一つも無いし、超能力関係無いけど得意の家事能力を活かして生活力0の美少女魔王の世話をします  作者: 赤城つばめ
4.5章 レンジとリン

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第145話 365.2425分の1の幸せ

リンが手作りしたというケーキを食べてみることにした。スポンジケーキは市販の物を使っているが、ホイップクリーム作ったものらしく少し水っぽさを感じる。誕生日のケーキによくあるチョコレートには


『レンくん おたんじょうびおめでとう』


と彼女がチョコペンで手書きしたものまである。

「少し生クリームが水っぽいけど、悪くないし十分美味しく感じる……」

「良かった……友達に教えてもらいながらだけど、全部ウチが作ったんだからね!」


「……」

生クリームが水っぽくてスポンジや形も崩れかけているショートケーキより、今まで誕生日に一人で食べていた市販のショートケーキの方が客観的に見てずっと美味しい筈なのに、食べ進める度に何故か今食べているリンが作ったショートケーキを今までで一番おいしく感じた。今日リンが作った料理全てに対して今まで体感したことのない謎の感情が芽生えた。そして、俺は気がつくと今までの誕生日を振り返っていた。



『おめでとう、冷蔵庫にケーキあります。これで好きなもの買ってください。 母』

家に帰ってくると、このメモと数千ゼニがテーブルにあり俺は今日が自分の誕生日であることを知る。休日にも関わらず母親は家に居ない……また見知らぬ男と遊んでいるのだろう。俺は冷蔵庫にあるショートケーキを取り出しておやつにした。誰もいない静かなリビングで淡々と食い進め、市販の生クリームの甘味と苺の酸味だけが記憶に残る。

「……」

ケーキを終始無言で食べていた俺。ただそこには誕生日なのに母親がいない寂しさなんて無かった。

そもそも誕生日というものを家族や友人に祝ってもらうという価値観が俺には存在しない、物心ついた時からそれが普通の誕生日の過ごし方だった。誕生日には特別にお小遣いが貰える、それだけで俺は十分だった。


……俺は所詮頭脳だけの存在でしかなく本体がどうなろうと……誰も気にしない。


気がつけばケーキも食べ終わり、リンが勝手に開いた誕生日会というのもそろそろ終わりが近づいてきた。

「あ、そうだ……これを」

リンが赤い柄入りの少し派手な紙袋を俺に渡した。

「これは何だ?」

「プレゼントだよ!今日のために一週間かけて準備したんだから」

袋の中を開けると、入っていたのは藍色のマフラーだった。綺麗に編まれた市販品ではなく、所々解れがあり手編みで作ったものだと分かる。

「編み物なんて出来るのか?」

「友達に教えてもらってなんとかできた……結構慣れるまで大変だったけど、どうしてもレンくんにあげたかったから……これから寒くなるし」

誕生日の11月中旬、冬が始まる前のこの時期にはぴったりのプレゼントな訳だが、まさかリンがやった事の無い編み物をしてくるとは思わなかった。

ケーキもこのマフラーも、市販品の方が質が高くて安上がりで手間もかからないのに、彼女は何故か何日も手間をかけて俺のために全て用意をしてくれた。


「なんで、こんな手間のかかることをするんだ?市販品を買う方がずっと楽だし正直言うとクオリティも高いのに……そんなに苦労して手作りする必要がどこにあるんだ?」

「レンくんだから……レンくんの誕生日をウチが勝手に祝いたいだけだから……プレゼントが気に入らなくても良い」

いつも無邪気に笑うか、話が理解出来なくてぽかんとしている様子しか見たことの無い彼女だったが、この時は表情を全く変えずに真顔で何か大事なことを俺に伝えようとしていた。

「でも、一つだけ聞いて良い?……本当にレンくんは一人が良いの?」

「……俺はただの桁外れに高い知能に操られた人形に過ぎない……高い知能にだけ目が行く人と絡むぐらいなら一人の方がずっとマシだ」

自分に絡んでくる人は、家族も含めて全員高い知能ばかりに目が行って、誰も操られている人形の方には誰も興味を示さない。


「……本当にそう思うなら、今日でパーティは解散しない?……ウチはバカだから、いつもレンくんの足を引っ張っているし、レンくんが一人で行動したいなら解散しても良いよ」

俺が前に大学に来ないで欲しいと突き放すようなことを言った後の彼女と全く同じ無の表情をしていた。


「……」

1か月前の自分だったら間違いなく二つ返事で解散しただろう、でも俺は言葉が詰まった。

手にしている手作り感のあるマフラーの感触……生クリームが水っぽい手作りの誕生日ケーキの味……特別美味しいわけでも無い彼女が初めて作った料理の味……


市販品ならもっと手間がかからず、安くて良い物が手に入る。幼少期一人で食べた市販のケーキの方が明らかに美味しい筈なのに、彼女が初めて作ったケーキの方が何か深い感情を突き動かすものを感じた。


そして今俺はやっと気がついた……俺は愛に飢えていたのだと。17年間高い知能に支配されただけの人形として生きてきた自分には愛なんて不要だと思い込んでいた。

ただ自分はロボットではなくどこか愛を欲していて、そのために自分はどんどん知識を蓄え頭脳を駆使するようになった。ただ母親は俺の高性能な頭脳だけしか興味を持たず、中身の人形には興味を持ってくれなかった。一番身近にいて唯一同居していた実の母親ですら興味を持ってくれないのなら誰も興味を持つわけがない。


……そして俺は愛を求めることを諦め、高スペック頭脳が本体の人形と化していった。その生活は思うほど苦痛ではなく、誕生日も誰からも祝われなくてもケーキを一人で食べて、小遣いを貰えれば十分に幸せを感じていた。学校での孤独も勉強するか本を読むかしていれば、自分の世界に入り込めるので楽しかった。


俺の為にわざわざ手間のかかるようなことをして一週間かけてプレゼントを作り、やった事の無い料理に挑戦してまで俺の誕生日を祝おうとした。そんな彼女に俺は確認するように質問した。

「……これからも俺とパーティを組んでくれるか?」

「そんなの、これからもずっとレンくんと組むに決まっているでしょ!」

彼女の回答は最初からこの一択だった。解散なんてものは想定していないかのように即答した。


彼女との会話に難しい言葉は要らない……この一言と安堵して少し笑みを浮かべた表情だけで、俺に全てが伝わった。

そして俺は愛に飢えていたことに気づかされた、彼女が作った料理に涙を流し、手作りのちょっとしたプレゼントに嬉しさを感じたのも、自分の人生で満たされていなかったものが満ちていく感覚からだった。

家族、友情などは自分には関係ないものと排除していたがそれはただの強がりと諦めに過ぎない。本当は親から頭脳以外も愛されて生きたかった、友人との会話を楽しみたかった。


リンは俺が人生で足りていなかったものを全て満たしていた。彼女は頭が悪い、だがそれ故に気持ちが小さい子供のように純粋で、何かを疑ったりとか俺みたいに色々深く考えたりみたいなことはせず、単純に喜怒哀楽の感情だけで行動を決めていて、この誕生日会をやろうとしたのも単純に俺を楽しませたいという気持ち以外ないだろう。


幼少期に一番身近な存在である母親が美貌と言葉騙しで色々な男を捕まえていたため、俺は相手の行動には必ず何か裏があると考えすぎてしまう癖があった。しかしリンは客観的に見ても可愛い顔でスタイルも結構良いのに、言動に裏が作れないぐらい知能が低く俺を騙すなんてまず無理だった。喜んでいる時も悲しい時も怒っている時も全て分かりやすいぐらい感情に出していた。


そんな彼女に俺は家族愛でも友情でもない感情を持っていた。

「もう一つ良いか?」

「え、なに?」

目の前にいる、自分の閉ざした感情に鍵を開けた人に、その感情を全てぶつけた。


「リン……俺はリンが……その、一人の女性として魅力的に感じて……俺が諦めていた『愛』というものを全て満たしてくれた……そんなリンを俺はもっと愛したい……これからはパーティ仲間でもあり恋人としても付き合ってほしい」

「恋人かぁ……考えたことないけど、レンくんといると楽しいからいいかも」

勢いで告白してしまった、彼女は満更でもなさそうな様子で返事をした。果たしてこいつは恋人がどういうものか分かっているのだろうか。


「リン、恋人という関係がどういうものか分かっているのか?」

「それぐらい分かっているって」


するとリンがいきなり顔を近づけてきたと思ったら、俺の唇に重ね合わせるように接吻をした。

「……!?」

あまりに突飛すぎる行動で、リンが口を離してしばらく俺は脳の活動が停止したような感覚になっていた。しかしリンに口づけされている間、初めて味わう好きな人との接吻の感触に俺の頭の中は幸せで包まれていて、より彼女を愛おしく感じた。


「……こ、こういうことでしょ……ウチも初めてだったけど、レンくんでよかった」

客観的に見てもかわいさが勝る顔で赤面しながら、動揺している彼女の珍しい姿を見れた。


「今更こういうことを聞くまでもないが、なんで俺の誕生日を祝おうと思ったんだ」

「今まで誰にも誕生日を祝われたことが無いって聞いたから……せめてウチだけでも、誕生日を祝うことが出来たらと思って……ウチとレンくんは全然頭の出来も違うし、レンくんが一人で生きていることにどう思っているかなんて分からないけど……」


そして更に彼女は珍しく真剣な表情で俺を見つめた。

「でも、誕生日を祝われるのが嫌な人なんて一人もいないから!……もしウチがレンくんの中の何かを満たせるなら、ウチはなんでもするから!」


その時俺は何か大事な糸が切れてしまった。

「ママぁ~~~だっこ~~」

「え!?れ、レンくん!!!??」

まるで小さい子供が母親に甘えるように、気がついたら俺はリンに抱き着いた。十七年間飢えていた色んなものへの愛をリンが全て満たしてしまったせいか、生まれて数年ぐらいの精神年齢になってしまい、話す言葉も幼稚なものになってしまった。


「まま~、まま~~」

「ど、どうしよう……レンくんが壊れちゃった」

突然の幼児退行に困惑するリンだったが、割とあっさり彼のことを受け入れ。


「まま~、すき~」

「……ウチなんかで良ければ、好きなだけ甘えていいからね」

彼女の太ももに頭を乗せ膝枕すると、レンジの頭を優しく撫でた。


365.2425分の1だけの特別な日、今日ぐらいは好きなだけリンの母性愛を存分に感じていた。

といいつつこれ以降リンに対して、定期的に幼児退行するような癖が出来てしまったのは誤算であったが、嫌がる素振りもせず受け入れてくれるのでこれはこれでありだと思っている。


いつの間にかレンジは眠ってしまった。

(普段の頭がよくて、天才で何でも知っているかっこいいレンくんもいいけど……そのレンくんが考えること全部やめて赤ちゃんみたいに甘えてくるのもかわいい……この感じ、何かに目覚めそう)

リンは初めて知った彼の一面に夢中になっていた。


一方その頃、近所に住んでいるオレンの家では

「……まさかこんなのを見れたとは」

「つ、疲れていたんでしょ……きっと」

「ま、まあ、誰しも子供に戻って甘えたいときはあるし……」

このシーンをオレンが仕掛けた隠しカメラで見られたどころか、リンの知り合いということでこの後パーティを組むことになったパイナとブドーにも見られてしまい、この時の話をずっと擦られるようになったのはまた別の話。


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