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二転して、今度こそ  作者: 冒険者
第一章;大きな教科書を捲る手:
8/8

第八話;彼は求めている。

“隠し”はポケットって意味です。念のため。

なんとなくポケットって書きたくなかった。

 不満を満面に、一二八センチの体を大きく見せようと両腕を精一杯伸ばして、爪先立ち。


「もう! そればっか! 大事ってなに! アリアを置いていくの! アリアはお姉さんなんだよ! ララちゃんは悪い子なの!」


 そんな間抜けな格好を真面目にやってるアリアが問い。


「うん、置いて行く」


 即答すると目を見開いて大きく口を開けて固まった。


 このまま放っておくと泣くから。


「姉さんがもっと強くなったら、何でも教えてあげるよ」


 こう言っておけば大丈夫。


 て思ったんだけど。


「うぇっ、ぅぇっ、ラっ、ラちゃぁ、わっ、るぃこお? ァリアっわぁりあっ、うぇっ」


「いやいや。姉さん、強くなったら━━」


「うぇぇぇぇんっ! うぇっ、うっ、うぅっ、うぇっ、うぇ、らって、だってぇ━━」


「いやほら! いつもみたいに━━」


「ヤぁっ! アリアっ、もいくのぉ! ダメっなのぉ!」


「今日はどうしても無理なんだって。今度━━」


「だっメぇ! ララっちゃんぅ、おしゃっ、けぇ、のむしぃ! よるぅ、もっ、帰っ、てぇ、こなぃぃ。うぇっ、うっ、うぇぇぅっ」


「いやいや! だから! あれにはものっすっごぉ〜く大事な━━」


「だっ、いじってっ、にゃっにっ。あぁ、りあぁっ、おねぇっ、さんぅっ、おねっ、があっ、うぇえええええんっ、うえっ、うぇえええええええ」


 棒立ちで、涙も鼻水も放ったらかしで。


◀︎▲▶︎


 四時間もかかったのか・・・・・・


「それじゃ、俺は夕方の四時までに帰る、お酒は飲まない。姉さんはこの部屋でしっかり鍛錬をして、そしたら明日俺とお出かけ。で良いね?」


 そう確認を取ると、泣いて赤くなった顔を満面の笑みにして。


「うんっ! ララちゃんとお出かけしゅる!」


「ほら姉さん、お鼻。チーンして。床と服も、綺麗にするからね?」


 泣いてても笑ってても可愛いなあ。


▼◀︎▲


 うちは王家の亜空間だし官庁だしで広いけど、最上階の五階には基本的に王族しか出入りしない。


 五階は王族の私的空間で、炊事以外の家事は全部魔術道具か魔術でこなしてるから侍従も居ない。


 だから生後三ヶ月の時、上裸のアリアが歩き回ってても誰にも見咎められなかった。広いのに人が少ないから。


 結局あれは誰にも見つからなくて、俺が「もう赤ちゃんじゃないよ」って直接伝えるまで続いた。


 んで、その五階に今三人の他人が居て。


 珍しいから調べてみたらその三人は森人しんじんで、森人の国の非公式な使者だった。


 父の私人としての客って扱いで謁見してて、持ってきたのは姿を消した王女の捜索協力要請。この国に入った蓋然性がいぜんせいが極めて高いんだと。


▶︎▼◀︎


 第六交流場の、後ろ暗い人達の溜まり場を歩く。


 エルゥ国の王の領地は、中央の第一居住地を除いて各居住地、交流場が防衛設備に依ってドーナツ型に分けられてるんだけど、第六交流場はドーナツ型をしてない。


 その理由が此処。悪い人たちの溜まり場。


 交流場に無許可で何かを設置するのは法律で禁止されてるんだけど、此処にたむろする人達はそれをやっちゃうから。


 誰が設置したのか分かれば逮捕もされるんだけど、見張りを置いたって別の場所に設置するし、第六交流場は広くて人が多いから全体を常に見張ることもできないしで、偶偶犯行現場を押さえる以外、逮捕はされてない。


 それでも昔は発見される度に破壊、撤去されてたんだけど、延々と設置を繰り返すから今じゃ放置されてて。魔法と魔術で造られた頑強な壁が乱立した結果、迷路が生まれた。


 頭上にも透明な壁を造ってるから、意図したんだろう。逃げ隠れするには適した場所だ。


 普段は静かで人の気配が薄いんだけど、今日は大声と駆け足の音が遠くから聞こえてくる。


 それでもふらふらと歩き続けて。


 今日もアリアは可愛かったなあ。めちゃくちゃ柔らかいからなあ。


 とか考えながら四分くらい。


 もうちょっとゆっくり歩かないとぶつからないか。


 で、歩く速度を落として七歩。


 壁を曲がった瞬間、少女が飛び出してくる。


「きゃっ!」


 小さく悲鳴を上げてぶつかってきた少女を支えて。


「おっと。無事?」


 肉体を作り変えて、今の俺は一八〇センチ。平均的な身長に平均的な体格、平凡な顔、特徴のない上下一帯いったいの服。


 目の前の少女は一五七センチで、幼さを含む綺麗な顔と体。ひらひら薄い上下一帯の服は手足を結構露出してて、真っ白な玉の肌には少しの色気。


 前髪の一房が細く長めで特徴的。前は胸元まで、後ろは肩甲骨より下辺りまでの、“森人の色”なんて言われる金色の髪。虹彩は翡翠みたいで、耳は長く先が尖ってる。


 首には小さな鎖が掛かってて、服に隠れてるけど首飾りをしてる。


 その少女は慌てた様子で。


「えっ、うん! ブィジッ! ゴメンね! じゃね!」


 再び駆け出そうとするも。


「密入国だ!」


 俺を見ながらこっちに駆ける男の声に、支える手を拘束する手に変えて。


「ぇっ、離して! ヤダ!」


 こうして王女の逃亡劇は終わった。


▲▶︎▼


 大人しくなった王女と、王女を追っていた奴隷管理官二人。若いのと中年の。


「ようやく大人しくなったか。手間かけさせんじゃねえよ」


 言って、若い方の奴隷管理官が王女の頭を軽くはたく。


 王女が若い方を睨んで何かを言おうとするけど、その前に。


「まあ待て。先ずあんた達の身分確認をさせろ。そんでその後こいつと少し話がしたい。密入国者なんだろ?」


 聞くと中年の方が嗤い。


「ほお、興味あるか。こいつは第二区画で売るんだが、別に良いぜ、確認しな。ただ俺たちも確認するぞ」


「いや、まあ、いいけど。【汝を知る】・・・・・・【汝を知る】」


 女神は昔、全ての生き物に等しく三つの奇跡を与えた。


【我を知る奇跡】と【汝を知る奇跡】と【授受の奇跡】の三つ。


 奇跡は使う時に目視と宣言が必要で、それぞれ「我を知る」「汝を知る」「授受」てな宣言が必要だったからこう呼ばれるようになった。


 で、今使った【汝を知る奇跡】で。


 ニコラス。

 カイルの家族、四一人目の子供、W。

 エルゥ国、奴隷管理官、T。


 と。


 ケイン。

 エルゥ国、奴隷管理官、Q。


 てな知識を得た。


 ニコラス、ケインってのは使用対象の名前。


 エルゥ国ってのは所属してる集団の名前。


 奴隷管理官ってのはその集団にける立場。


 TとQはその集団内での階級。


 カイルの家族云云うんぬんってのも同じ。


 カイルの家族って言う集団に所属してて。


 四一人目の子供って立場で。


 その集団内ではWの階級。て事。


 ちなみに、【汝を知る奇跡】で知識を得た事は使用対象に知られる。


 周囲に複数の人が居ても感覚的に誰が使ったのか分かるから、町中での無断使用はあまりない。


 でも検問官とかの特定の立場にある人は、防衛の為に特定の場所では無断で使用する。


 後は町の外なんかだと賊を警戒して誰でも無断で使う。


 階級は全部で二六あって。


 集団の首長しゅちょうとその首長に許されてる人が階級を与えるから、階級の重みは集団そのものの重みに依存する。


 エルゥ国の重みはそこそこ。


 世界中の、国を含む目立った集団全九つの内下から三番目くらい。


 エルゥ国の階級は上から一二個が全部官僚の階級で。


 例外の階級もいくつかあるけど、基本階級が高ければ高いほど権力が大きくなる。


 Tは上から七番目。Qは上から一〇番目。


 最上位から三つ、Z、Y、Xは王族の階級だから、中年のTは登れる範囲じゃ上から四番目で結構高位。


 若い方も年齢の割には階級が高いから、中年の後釜か側近だろう。


 で、中年と若いのが【汝を知る奇跡】で入手した知識は。


 ライオネル。

 冒険者協会、冒険者、X。

 エルゥ国、滞在者、N。


 てな知識で。


 ライオネルこと俺の身分はどんなものなのか。


 冒険者協会所属の冒険者で、階級はX。上から三番目の階級。


 Xの上のYは首長の側近。


 Yの上のZは首長。


 冒険者協会のYとZはあらゆる能力が極めて高いから、一般に“女神の下位互換”なんて言われてる。


 どっちも一人ずつしか居ないし、冒険者協会は目立った集団九つの内上から二番目だから、その地位は高く重たい。


 で、冒険者協会のXは今は四人居て、冒険者としては最高位の階級。


 冒険者としての能力だけで、Y、Zに並ぶと評価された者の階級。


 四人のXなら誰でも、他のXと女神さえ居なければ簡単に世界を滅ぼせるだけの力を持ってる。


 だけど危険な事だけに特化してるから平和な時代じゃ目立たずに生きてて。


 もう八万年以上平和な時代が続いてるから、一般には“物凄く偉い人”程度に認識されてる。


 エルゥ国、滞在者、N。の方はそのまんま。正式にエルゥ国に滞在してて、エルゥ国内での階級はNって事。


 Nは上から一三番目の階級だけど、エルゥ国でのNは例外の一つで、部外者だけど王族と同等かそれ以上の重要人物。になる。


 までも部外者として扱い、問題ない範囲で最大限の便宜べんぎを図れ。て事だ。


 当然、冒険者協会所属のXならエルゥ国じゃ国王以上の扱いになる。


 冒険者協会に敵対した。なんて思われれば国を消し飛ばされるから。


 冒険者協会も傍若無人ぼうじゃくぶじんじゃないけど、道理を通す為に国を消したことはある。


 それが傍若無人だとされない理由は、全ての集団の頂点に居る女神だ。


 この世界の支配者は女神だから、女神が認めればそれが正義になる。


 たかが国王が分をわきまえず、我が協会の幹部を侮辱し謝罪すらしない。報復せねば秩序が乱れる。


 とか。


 冒険者協会の者が我が国で罪を犯したが、冒険者協会がの罪人を擁護ようごしている。


 とか。


 そんな大義名分が女神に認められれば、女神の為に人が、心が動くし、女神自身が動くかもしれない。


 だから互いに大義名分を与えないよう交流してる。


 エルゥ国は協会に敬意を示し。


 協会は協会の力を正確に認識し、浅はかな言動は避ける。


 て言っても関係は良好だから、一つの間違いで直ぐにどうこうって事はない。


 相手に近づきすぎて、内情に干渉かんしょうしない様、されない様、節度ある距離を保つ。て感じ。


「えっ、あ、いや、冒険者様、先程は失礼な口を利いてすみませんでした。身分確認もできましたから、その子供とお話し下さい。少し離れてますから、終わったら声をかけて下さい」


 中年がぎこちなくへつらって言う。


 若い方は下手なことしない様、目線を下げて中年の後ろで直立してる。


「いや、態態わざわざ離れる必要はないし、一分もかからないよ」


 言って、少しかがんで、笑顔で、声音に気を遣って。


「お嬢ちゃんは何処の子かな?」


 聞くと、王女は俺を睨み。


「ぼ、僕は男だよ! 間違えないで!」


 んん?・・・・・・・・・・・・うぅん、やっぱ肉体があると辛いな。全身が痛い。


 けど、父親の玉の中から今この瞬間まで、紛れもなく女だった。


 もし美少女じゃないんだったら態態ここに来た意味が無くなる。


 美少女か、美少女じゃないか。それは非常に大事な事だ。


 けど森人は総じて中性的な美形だから、論破は面倒。


「そうか。ごめんね。で、何処に住んでたの?」


「・・・・・・ティェィルのその


 睨んだまま言ったのは森人の国の正式名称。


 森人の国は目立った集団九つの五番目。上からも下からも五番目。


 ティェィルは昔の森人の名前で、森人語だから森人以外に正しく発音できなくて、正式名称は他国に馴染まなかった。


 女神が共通語を作った今じゃ、森人ですら正しい発音ができるのは王族だけ。


 当然王女は確り発音できてる。


「森人の国だよね? 身分確認するよ。【汝を知る】」


 で、何の知識も得られなかった。


 なら、名前は無いし何処にも所属してないって事になる。


 名前を剥奪されたり、所属してる集団から追い出されたりするとこうなるから。


 普通に考えたら、王女は森人の国を追い出されて、名前まで剥奪された、何か問題を抱える人物で。


 身分が確認できないと、正規の手段━━第七区画の転移点━━じゃ、例え王族が同行してても王の領地には入れないから。


 だから今ここに王女が居る。その事実だけで密入国の罪が確定して、問答無用で奴隷落ちが決定する。何らかの手段で密入国を可能とした危険人物として。


 けど王女は王女だから普通じゃない。


 身分が確認できないのは首に掛けてる神器〈知られずの首飾り〉と王女の親和性が高すぎて、副次効果で【汝を知る奇跡】を妨害してるから。


 密入国も、王女は堂堂どうどうと第七区画の転移点で入ったけど、誰にもそれを知られなかっただけ。


 けど王女は首飾りの力を知らない。


 王女が怪訝を表情に言う。


「さっきから何やってるの?」


 と言うか、奇跡の存在を知らないくらい、物を知らない。


 だから王女は自分の置かれてる状況を全く理解できてない。


「お坊っちゃんの身分を確認しようとしたんだけど、確認できないんだよ」


「みぶんをかくにんってなに?」


 長命な森人の箱入りだからなあ。


「いやいや、そんな事より、お坊っちゃん奴隷になっちゃうよ?」


「どれいってなに?」


 あからさまに溜め息を一つ。


 それから中年に言う。


「この子幾らかな?」


 中年は一瞬驚いて。


「えっと、あの、さっき通報があったばかりで、まだ何とも」


「じゃあ高めで良いから今査定してくれない?」


「い、いえ、あの、査定には通常一月以上かかりますので・・・・・・」


「なら、今やってくれたら二人には手間賃をあげよう。一億ラルずつ。けど、それでも駄目だって言うなら諦めよう」


 若い方が体を力ませて、中年が目を見開いて。


 気色の悪い笑みを浮かべると。


「ぁの、ですね。査定後三ヶ月間は奴隷の情報のみを公開し購入希望者を募ることで、より適した環境に━━」


 少し震えてる掠れ気味の早口でそう言った。


「それに密入国者はCだから、購入には特定の条件を満たさなければならない。だったね」


「ええ! いや勿論、冒険者様でしたら条件の達成は簡単でしょうが、やはり様々な手続きは必要━━」


「分かった分かった。それじゃあ一〇億ずつね」


「はっ? は、ハイ! 俺、感動しました! そこまで言われては駄目だとは言えません! お売りしましょう! 冒険者様の熱意に敬意を示す為、お坊っちゃんの値段は格安で五億ラルにします!」


「まあCなら破格だね。それで頼むよ」


「はっ!」


◀︎▲▶︎


 王女への説明と説得に二時間。


 常識のない馬鹿だけど良い子で素直だったから、状況を理解すれば喚いたり暴れたりはしなかった。


 重たい罪を犯したから奴隷になるんだよ。って理解させて、俺が助けてあげる。って。


 森人は嘘を見抜けるから嘘はかなかったけど、やっぱり馬鹿だった。


 森人の国の使者か、エルゥ国の偉い人が。


 俺が助けなくても助けてくれるんだけどね。


「あの、本当に神約で良いんですか? 心封じでも処理できますよ?」


 中年の確認に。


「良いよね?」


「うんっ! いいよっ!」


「良いってさ。始めていいのかな?」


 聞くと中年は伺う様に。


「いえ、あの、心封じを使えば自我を消せますよ? やり直しはでき━━」


くどいよ。良いって言ったでしょ」


「はっ! で、では、命名を」


 さてなんて付けようか。


 王女と向き合い。


「・・・・・・じゃあ、【お前は今日から[オルナ]だ】」


 間が生まれて。


 中年が焦り言う。


「━━お坊っちゃん、お返事を」


「へっ? なにが?」


 と、間抜け面で中年を見上げる王女に。


「俺が、お前はオルナだって言ったら返事をするんだ。そうしたらお前はオルナを名乗れるから」


「僕オルナじゃないよ? それになのれるってなに?」


 その言葉に二つ目の溜め息を吐いて。


「名乗れるってのは、なれるって意味だよ。お前は今からオルナになるの。それと、後で色々教えるから、今は言う通りにして。それが嫌なら名前教えて?」


「うぇっ!?・・・・・・わ、わかった。言う通りにする」


▼◀︎▲


 王女が。


「あいうえお」


「今ので良いのかな?」


 中年に聞くと。


「【オルナに階級Cをじょする】はい。お坊っちゃんは神約を違えたので、我が国の害となる言動は禁じられました。次はお二人で神約を結んでもらいます。この紙の通りに」


 渡された紙を見て、中年に筆記用具を借りて振り仮名を付けて、王女に渡して指を差す。


「先ず此処を読んで、俺が此処を読んだ後、此処を読む。できるね?」


「わ、わかった? やってみる。【オルナはライオネルとしんやくをむすぶ。オルナはライオネルの奴隷になる】」


「【ライオネルはオルナと神約を結ぶ。ライオネルはオルナを故意に害さない】」


「【たがえたものにはしを】」


「【違えた者には死を】」


 俺と王女が神約を結ぶと、中年が胸の隠しから〈証明の筆記用具〉と紙一枚を取り出して、証明書を作った。


「それでは、これに署名を」


 証明の筆記用具と一緒に渡された小さな紙には。


 エルゥ国、奴隷購入証明。

 購入者、

 奴隷、

 奴隷管理官、T、ニコラス。


 と書かれてた。


 証明の筆記用具を使ってたから、筆者である中年が文字に触れると文字が真紅に光る。


 証明の筆記用具で俺の名前を書いて、王女にも書かせる。


「それはエルゥ国で奴隷管理官から奴隷を購入したという証です。階級を与えた後はご自由にどうぞ」


 証明の筆記用具を返すとそう言われた。


 証明書を隠しに仕舞うと、中年の胸から記録具が出てきた。


 中年は記録具を胸から引っこ抜いて、首に掛けてる〈情報共有の球〉に押し当てる。


 その格好で三〇秒程。


 記録具は筒状で赤色の、体内に取り込んで五感を記録する魔術道具。


 物によっては五感全てを記録、再生できるけど、安くても億単位の金が必要になるから。


 一つ一万ラル程度で買える、視覚と聴覚だけを記録、投影、再生する物が一般的。


 自分の五感で再生するか、空間に投影するか、記録可能時間はどれ位か、とかで値段は変わる。


 官僚は全員、常に一つ体内に入れてる。視覚と聴覚を記録して投影する安いやつ。


 情報共有の球は神器で、本体と付属体がある。


 本体は、雷を封じ込めた五M程の赤色透明な球で、王家の亜空間に設置されてる。


 付属体は、深紅の宝石で球状の多面体。一センチ程で、高官に貸し出される。


 本体は入力された全ての情報を閲覧できて。


 付属体は一部の情報を閲覧、変更できる。


 情報の入力も削除も付属体からしかできないけど、本体は入力も削除も全てを記録してる。


▶︎▼◀︎


 もう一四時を回ってて、あと一時間ちょいで帰らなきゃいけない。


 王女と二人、人混みで逸れないよう手を繋いで第六交流場を歩き、王女の色んな質問に答えていく。


「じゃあ僕はもう神約結べないの?」


「いや、結んだじゃん。神約を違えた相手同士は無理ってことだよ。お前はあの中年との神約を違えたから、あの中年とはもう結べないってこと。それより着いたよ」


「どこに? ってだれ?」


「いらっしゃ〜い」


 胸元に記章を付けた女が声をかけてきた。


 女の手には一冊の分厚い本。左肩から右腰には大きな鞄を提げてる。


「商人。服を買うんだよ」


 答えつつ女に手を差し出すと本を渡される。


 数百あるページを流し見して。


「服を買うの?」


「そうそう。お前の服を買うんだよ。コレと、コレと、コレと、コレ」


 本のページを幾つか女に見せて注文すると。


「なんで? 僕服着てるよ? それになんで商人って分かったの?」


「服を買う理由は後でで、商人って分かったのは記章を付けてるから」


 女は大きな鞄から注文した服を取り出した。


「はい。これで良いなら一二〇〇〇ラルね〜」


「きしょうってなに?」


「ほら、このお姉さんとか、あの人とか、あの人とか。胸になんか付けてるでしょ? 服の形だったり、食べ物の形だったり、武器の形だったり。あれが記章。それで、この中で着たくない服ある?」


「無いよ、何でもいい。記章付けてたら皆んな商人なの?」


「【授受、一二〇〇〇ラル】そう。記章で扱ってるものが分かるんだよ」


「【授受、一二〇〇〇ラル】まいどあり〜」


 買った服を左腕に掛けて、右手は王女と繋いで、第六居住地に向かって歩き出す。


「服なら服を扱ってるし、果物なら果物を扱ってるし、剣なら剣を扱ってる。手に持ってる本で商品を見られて、提げてる鞄から商品が出てくる。見てたでしょ?」


「うん。でも剣なんて入るの?」


「道具袋だからね。同系統の物しか入らないけど、持ち運びできる小さな亜空間なんだよ」


「どうぐぶくろってなに? どうけいとうってなに? あくうかんってなに?」


▲▶︎▼


「じゃあ、じゅじゅってなに?」


「四つの奇跡は三つまで教えたよね? 授受も奇跡の一つで、ラルをやり取りできるんだよ。それより、やりたいんでしょ? 泊まりたい部屋を選んで」


「いいの!?」


「うん。好きな所にしな」


 そう言うと、胸に三日月の記章を付けた男から分厚い本を受け取り悩み始めた。


◀︎▲▶︎


「昔、ラルに価値を作る為、女神は色んな物を売ったんだよ。今はもう価値が定着してるから止めても良いんだけど、続けてるね。神器なんかも売ってるよ。見てごらん」


 二週間借りた亜空間の中。


「かちをつくるってなに? ていちゃくってなに?」


「それはまた今度。今は授受」


「【授受】・・・・・・神器ないよ?」


「ん? お金持ってるよね? ああいや、授受を知らなかったね」


「うん、持ってない。持ってないとダメなの?」


「購入できる神器しか閲覧できないんだよ。【授受、二五〇兆ラル】受け取ってみ」


「【授受、二五〇兆ラル】」


 金のある状態で。


「【授受】・・・・・・あった! 神器!」


「んじゃ、二五〇兆ラルで買える〈神食庫しんしょくこ〉を買って」


「えっとね・・・・・・あった。買うよ?」


「うん」


▼◀︎▲


 後三〇分か。


「美味しい?」


 聞くと笑顔で。


「うんっ! おいしい!」


「まあ、女神の食事だしね。王女の口にも合うか」


「ゔぇッゴホッゲェへっぐふっ!」


 すっごい飛んだな。


「まあまあ落ち着いて。変な事はしないからさ」


 少しの間せてたけど、落ち着くと窺うようにして。


「・・・・・・知ってたの? 僕帰るの?」


 怖がらせない様、笑顔と声音に一層気をつけて。


「森人の国の名前。ちゃんと言えるのって、もう王族だけなんだよね。いつも使ってる言葉と園の名前ってなんか違う感じするでしょ?」


「ぅん〜?」


「まあ分からなくても良いけどさ。それより、何で国を出たの? ちゃんと答えたら帰らなくても良いよ」


「ぇっ、あ、くにをでたってなに?」


「それも今度ね。質問を変えるよ。何で家から離れたの?」


 聞くと、下がってた目尻が吊り上がって、力強く。


「ぼっ、僕! 旅するの!」


 王女は続ける。


「エルナは一三歳で自分の物語を創ったけど! 僕は二〇歳になっても何も無いから! 僕━━」


「エルナって、お人形と旅をしたエルナ? 昔の何処かの国の王族の?」


「そう! 昔の女王さま!」


「あぁ。でもさ、森人って一万年は生きるよね? 二〇歳なら━━」


「もう! 皆んなそう言う! エルナは一三歳で旅に出たんだから! 全然早くないってば!」


「あ〜、まあそうかもね。じゃあ、旅をしてたら危険な事も沢山たくさんあるでしょ? エルナだって邪悪に囲まれてたじゃん? そういう時どうするの?」


「戦う!」


「ははは、人間から逃げてたのに? 勝てると思ってるの?」


「か、勝つもん! 魔法が━━」


「そ! こ! で! 特別に俺が訓練をしてあげよう」


 大声に体を跳ねさせた王女は驚きを表情に。


「とくべつってなに? くんれんってなに?」


▶︎▼◀︎


「これが着いてると男で、これが着いてないと女なんだよ。お前は着いてないでしょ? それに男なら王子様って呼ばれるし、皆んな王女様って━━」


 仕舞いながら言うと、青い顔をした王女が。


「つ、ついてるもん! 王子様って呼ばれてたし!」


 森人のくせに嘘つきだなあ。


「まあまあ。二〇年間信じてた事が間違いだった━━」


「男だもん!」


「別に女らしくしろなんて言う気はないよ? ボクっッゴホンッ! ッエッホン! オホン。俺はお前の自主性━━」


「ついてるってば! お! と! こ! な! の!」


「分かった分かった。もう言わないよ。けど今のまんまじゃ男には見えないよ? お前女の子みたいだし」


「えっ? ほん・・・・・・とう・・・・・・」


「ホントホント。髪の毛長いし、言葉遣いとか所作とか服とか女の子っぽいよ」


「えっ、髪切るの?」


「嫌なの?」


「うん・・・・・・お母様と同じ色だから・・・・・・」


「まあ切りたくないなら切らなくて良いんじゃない? 女の子に間違われるだけだし」


「ぅうう・・・・・・でも男だもん・・・・・・」


「良いじゃん間違われるくらい。女の子みたいな━━」


「でも! 男なの!」


「じゃあ髪切る?」


 泣きそうな顔で首を横に振るから。


「それじゃあ、身振り手振り、服装言動を男っぽくしないとね」


 俺は輝かしいまでの笑みを浮かべてるだろうな。だって大勝利したんだから。


「みぶりてぶり、ふくそうげんどうってなに?」


▲▶︎▼


 王女に幾つか言い含めて、一六時まで五分を切った。


 約束の場所に転移すると。


「━━お〜い。遅すぎないかぁ? 朝の七時っからずーっと待ってたんだぜ? 人を呼び出しといて━━」


「長い。時間が無いから手短にな。俺の要件は、昨日彼奴あいつらが面会した、二年ぶりに。だ」


「・・・・・・そっか。じゃあ一月後なのか?」


「ああ。で、お前は何かあるのか?」


「だっからあ。朝の七時っから━━」


「無いのか。じゃ、急ぐから。待たせて悪かったな、おっさん」


 言って、転移する。


「俺はまだ六五だって━━」

脳が足りない。あと五〇個くらい欲しい。

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