第一話;彼の死因。
当時、世界を統べる王であった俺に、人々は望んだ。
邪悪な龍が国を襲い、大きな被害が出ている。どうか助けてくれ。
龍を降して話を聞き、背中に刺さっていた聖剣を抜いてやった。
巨大な隕石が確認された、このままでは世界の三割が消し飛んでしまう。どうか助けてくれ。
数多の魔法で隕石の悉くを破壊した。
長年の異常気象で世界的な食糧危機に陥る可能性がある。どうか助けてくれ。
異常気象の原因全てを過不足なく正常に戻した。
俺にとっては簡単に解決できることだったから、望まれた全てを叶えた。
そんな生活が数百年続くと、俺はいつの間にか神と呼ばれていて。
人々は俺の居場所を忘れ、俺を訪ねるものはいなくなり。
俺は人々の祈りによって望みを知り、それを叶えていた。
腹が減った。
満腹を与え。
寒い。
暖を与え。
つまらない。
楽しさを与える。
全て簡単に解決できることだったから、叶え続けた。
他に理由なんてなく、言ってみれば、叶えない理由がないから叶え続けた。
と、そんな適当な気持ちで過ごしていたある日。
━━あなたに会いたい。
その望みも叶えた。
目の前に現れたのは見窄らしい格好をした小汚い少女で。
「あなたのせいで誰も何もしないのよ。こんなんじゃ生きてても死んでても変わらないわよ」
と、一二二センチの少女は背筋を伸ばして言った。
けど、なぜかその小汚い少女に懐かしさを覚え見入っていた俺は、何の反応も返せなかった。
そんな俺へ、少女は一瞬窺う様な視線を向け。
「こんなのつまらないわ。だから、もう願いを叶えるのは止めて」
と、やはり背筋を伸ばしてハッキリ言う。
「分かった。ならそれが最後の願いだ」
叶えない理由がないから叶えるけど。
叶えない理由があるなら叶えない。
そうして俺は最後の願いを叶えた。
「・・・・・・え? いいの?」
その時の少女は前のめりで、年相応の声と表情だった。
それから数百年間、俺と少女は二人で過ごした。
最初の頃は下界へ降りようとしていた少女は、いつからか諦めて俺の世界での生活を受け入れていた。
少女はその日もいつもの様に、色々な存在に勝負を挑んでは負けて笑い転げていた。
それを眺めながら料理をしていたら、あの声が響いて。
━━やり直しだ━━
その一言で下界が消えた。
俺の世界にも外からの干渉があったけど、形になる前に無力化した。
数十年で新たな宇宙を形作った下界から、三匹の龍が飛び出し俺の世界へ攻撃してきた。
下界が消えてからは専ら怯えっぱなしの少女は、その日も一二五センチの体を俺の服の中へと隠していた。
情けない眷属だけど、俺に会いに来た日のようにやる時はやると信じている。
だから鬱陶しくても好きなようにさせておく。
鬱陶しい龍は消しておいた。
数千年で新たな生物が生まれ始めた下界から、ひとつが俺の世界に向かって移動していた。
なんて呼称したら良いのか分からないけど、嘗ての下界で言う神。
俺のことじゃなく、本物の方。
神は直接、俺の世界を消しに来たらしい。
念の為、眠ってる少女に名前を付けてやり存在を確立させて。
それから、何処でどれだけの時を過ごしたのか。
負けなかったけど、勝てなかったから。
神との相打ちで俺は消えた。