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二転して、今度こそ  作者: 冒険者
第一章;大きな教科書を捲る手:
1/8

第一話;彼の死因。

 当時、世界を統べる王であった俺に、人々は望んだ。


 邪悪な龍が国を襲い、大きな被害が出ている。どうか助けてくれ。

 龍をくだして話を聞き、背中に刺さっていた聖剣を抜いてやった。


 巨大な隕石が確認された、このままでは世界の三割が消し飛んでしまう。どうか助けてくれ。

 数多の魔法で隕石のことごとくを破壊した。


 長年の異常気象で世界的な食糧危機に陥る可能性がある。どうか助けてくれ。

 異常気象の原因全てを過不足かふそくなく正常に戻した。


 俺にとっては簡単に解決できることだったから、望まれた全てを叶えた。


 そんな生活が数百年続くと、俺はいつの間にか神と呼ばれていて。


 人々は俺の居場所を忘れ、俺を訪ねるものはいなくなり。


 俺は人々の祈りによって望みを知り、それを叶えていた。


 腹が減った。

 満腹を与え。


 寒い。

 暖を与え。


 つまらない。

 楽しさを与える。


 全て簡単に解決できることだったから、叶え続けた。


 他に理由なんてなく、言ってみれば、叶えない理由がないから叶え続けた。


 と、そんな適当な気持ちで過ごしていたある日。


 ━━あなたに会いたい。


 その望みも叶えた。


 目の前に現れたのは見窄みすぼらしい格好をした小汚い少女で。


「あなたのせいで誰も何もしないのよ。こんなんじゃ生きてても死んでても変わらないわよ」


 と、一二二センチの少女は背筋を伸ばして言った。


 けど、なぜかその小汚い少女に懐かしさを覚え見入っていた俺は、何の反応も返せなかった。


 そんな俺へ、少女は一瞬窺う様な視線を向け。


「こんなのつまらないわ。だから、もう願いを叶えるのはめて」


 と、やはり背筋を伸ばしてハッキリ言う。


「分かった。ならそれが最後の願いだ」


 叶えない理由がないから叶えるけど。


 叶えない理由があるなら叶えない。


 そうして俺は最後の願いを叶えた。


「・・・・・・え? いいの?」


 その時の少女は前のめりで、年相応の声と表情だった。







 それから数百年間、俺と少女は二人で過ごした。


 最初の頃は下界へ降りようとしていた少女は、いつからか諦めて俺の世界での生活を受け入れていた。


 少女はその日もいつもの様に、色々な存在に勝負を挑んでは負けて笑い転げていた。


 それを眺めながら料理をしていたら、あの声が響いて。


 ━━やり直しだ━━


 その一言で下界が消えた。


 俺の世界にも外からの干渉があったけど、形になる前に無力化した。







 数十年で新たな宇宙を形作った下界から、三匹の龍が飛び出し俺の世界へ攻撃してきた。


 下界が消えてからはもっぱら怯えっぱなしの少女は、その日も一二五センチの体を俺の服の中へと隠していた。


 情けない眷属だけど、俺に会いに来た日のようにやる時はやると信じている。


 だから鬱陶しくても好きなようにさせておく。


 鬱陶しい龍は消しておいた。







 数千年で新たな生物が生まれ始めた下界から、ひとつが俺の世界に向かって移動していた。


 なんて呼称したら良いのか分からないけど、かつての下界で言う神。


 俺のことじゃなく、本物の方。


 神は直接、俺の世界を消しに来たらしい。


 念のため、眠ってる少女に名前を付けてやり存在を確立させて。


 それから、何処でどれだけの時を過ごしたのか。


 負けなかったけど、勝てなかったから。


 神との相打ちで俺は消えた。

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