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メリーゴーランド  作者: 湊 亮
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「志望大学」への現役合格は、かなわなかった。


私は、実家では、自分に甘えてしまい、「テスト勉強」ができなくなると感じた。そこで、遠く離れた予備校の寮に入りたいと両親に申し入れた。


今思うと、この選択は、私の「精神的自立」が少し進んだ一歩だったと思う。


長らく、戦場で戦ってきた青年は、人間の本能的な欲求から「戦場」を離れることを決意したのである。


あるいは、「逃げないとだめになる」と無意識に思っていたのかもしれない。その戦場から離れたことは、今振り返ってみても最良の決断だったと思う。


しかしながら、戦場から離れたとはいえ、「強迫観念」「焦燥感」に基づいて「虚偽の尊敬」を追求することは変わらなかった。


つまり、相変わらず「他者の承認」を求めて走り続けるのである。


「自分とは何者か」

「自分が本当にやりたいことは何か」

「自分は誰か」


そのような問いを自分自身に問いかけようとは露にも思わない。「他者の承認」を得るために走り続けた結果、一年後、志望校に合格した。


予備校での生活は、今思うと、「虚偽の充足感」を味わった生活であった。しかし、私はここでも、他者との関係を築けない。


私の志望校は、予備校・実家から遠く離れた大学だった。


よって、私と同じ志望校の予備校生は周りにいなかった。つまり、蹴落とすべき「敵」がいないのである。


その当時も私は、両親から植え付けられた「罪悪感」に基づき、他人を「敵」とみなしていた。そのような「敵」がいない、つまり「自分の生存権」が脅かされないのである。


先に、志望校を選んだ理由が、長女への「虚偽の尊敬」だと書いたが、この「敵」がいないということも大きな理由だったと思う。


「同じ志望校を目指す人がいない=蹴落とすべき「敵」がいない=自分の生存権が脅かされない=安心できる」といった具合である。その「安心」を求めていたのである。


この強烈なまでの他者への「敵視」が、青年の人生に重くのしかかるのである。


予備校においても、大学入試が近づくにつれて、私は、入寮時から仲良くしていた友人達を遠ざけた。


彼らの志望校が私と違うにも関わらず、彼らの頑張りや点数に嫉妬した。その頑張りが私の点数を奪っていくのではないかという不安があったのである。


今思うと、その恐怖は、虚偽の感情・独りよがりの感情であるのだが、その当時は、そのような感覚に陥っていたのである。


青年は、その「おかしさ」に気づかない。


自分に向きあっていないので、わかるはずもない。


この青年は「自分の悲劇」に気づかないのである。気づくはずもない。彼が求めているのは、頑張ることで「承認」されること。


「頑張らないと認めてもらえない」という「恐怖」からくる迷走である。


大学に入学して数年経った頃だと思うが、ひょんなことから父親と予備校の値段の話になった。


どのような文脈だったか忘れたが、その予備校時代の私の「入学費・入寮費・生活費」等が一年間で百万円程度かかったと、これまた、恩着せがましく言われたことがある。


相変わらず、「間接的罪悪感の植え付け」は健在だったのである。


しかし、当時の私は気づかない。


ただ、その「罪悪感」を背負い込み、何も言えなくなるのである。


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